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第5話 夜の散歩は危ないよ

            


 ふて寝した後の目覚めは最悪だった。空は暗い。自分の心の中を覗いているみたいだと思うのは大分と疲れているなと感じる。涙を流してすっきりした気分と寝起きのぼやぼやした感じが合わさって変な感じだ。


 ふと、ドアの方を見る。すると、そこには分厚い本と手紙とパンが置いてあった。まずは、手紙の方を手に取ると、お腹がすいたらパンを食べるように書いてあった。パンを意識したらお腹が鳴ったのでパンを食べる。硬めに焼いてあるのか、時間がたったからか硬い。


 硬いパンを苦労して口に詰め込みながら、分厚い本のタイトルを見ると『勇者と魔王の摂理』と書いてある。気分が悪くなるが、我慢して読んでみる。内容はこんなところだ。


 1.勇者は魔王を倒さなければならない


 2.勇者は魔王を倒したのち、古の地で世界にその存在を捧げなければならない


 3.勇者と魔王の双方の死が両者の誕生から20年たっても遂行されない場合、世界は滅びる。


 この3つの事が神や運命、聖女に国王と様々な言葉を用いて絶対に変えられないことであると書いてある。この世のありとあらゆるものが勇者の犠牲を許容するらしい。ホントに笑えないくらい徹底している。お父様があんな厳格な口調になるはずだ。物が下に落ちるように、当然で絶対の真理でシンシアは死なないといけない。


 眩暈がする。空気が悪い。寝ようかとも考えたけど、目がぱっちりと覚めてしまっている。一刻も早くこのどうしようもない現実から逃げ出したい。


 だから、散歩に出よう。普段はこの時間は寝ているから外に出るなんて面白そうだ。あまりにも自然に俺はそう思った。だから、辛い現実から少しだけ逃げるために俺は外に散歩に出た。


「星がきれいだ」


 夜空に星がきらめいている。きれいだ。率直な感想だった。周りは暗くて、うるさいくらいに静か。いつもの村が何か神聖なもののように思える。俺の足は自然といつもみんなと遊ぶ広場に向いた。シンシアの家の近くだ。頭がチリッと痛くなる。


 夜の広場には先客がいた。まるで動物のようだ。結構でかい。頭がチリッと痛くなる。


 そこまで考えたところで気づいた。これは危険なものだ。近づいてはいけない。だから、そっと足を止めて後ろに下がる。そっとそっと足音がならないように。動物から10メートルほど離れたところで、動物の目が開く。


「ガアアアアアアアアアッ」


 動物が雄たけびを上げて襲い掛かってくる。俺はすぐに後ろに向けて全力ダッシュだ。


「何が夜の散歩だ!何がわくわくだ!!ばっかじゃねえの!バッカじゃねえの!」


 夜の散歩に出た、おかしくなっていた自分の行動を罵倒する。追いかけてくる動物を肩越しに見ると、トラっぽいけどもっと禍々しい何かだ。そのあまりの禍々しさに使える魔法のありったけを叩き込む。


「水に炎に風、あと幻術とりあえず飛んでけ」


 想像はめちゃくちゃだったが、魔力は必要以上に注ぎ込んだので魔法が発動する。こちらを追いかけてくるトラ?には避けようがない。


「ガアアアアアアアアアッ」


 トラ?が吠えた。すると、魔法が消された。


「魔法を消すなんてアリかよぉぉ」


 必死で走る。魔法で迎撃できないなら打つ手がない。走る、駆ける、風になる。しかし、いくら必死に走ろうと10歳児の足でしかない。


「ガアアアアアアアアア」


 飛び掛かってきた。動物に組み伏せられてしまう。


「もう駄目だ」


 俺はそう呟き、目をつぶる。


「でも死んだら、勇者だ魔王だっていうやつに悩まなくていいかな」


「そんなのダメに決まってるでしょ!!!!」


 答える声があった。それと同時にドゴッという鈍い音と自分の身体に乗っていたものが無くなる感覚。


 目の前にいたのは真っ白なロングヘアーの女の子。こっちを怒ったように睨んでいる。


「シンシア??」


 髪の色は違うが、そう思えた。シンシアに似た女の子はいきなり抱き着いてきた。


「私が10年以内に死ぬとしても、アルスが今死んじゃったら意味ないじゃない」


「えっ、シンシア?髪の色が違うけど。何で?」


 命が助かった安心感からかよくわからないことを口走る。謎のトラ型生物は上半身と下半身が分かれた状態で道の端に転がっている。


「そんなことどうでもいいでしょ!!勇者になったからなんか髪色が変わったの!」


 文句を言いながらもキチンと答えてくれるシンシア。丁寧にありがとうございます。


「というか何でこんな時間に外にいるの!?なんで死にかけてるの!!」


「えっと散歩?」


「なんでこんな時間に散歩なの!!バッッッッカ!!!」


「はい、おっしゃる通りです。だから、離して。苦しい」


「うううっ。分かった。離す。でも、悩みがあるなら教えて」


 苦しいくらいの抱擁からは逃れたが、鋭い質問が俺を縫い留める。


「悩みなんてないよ!?」


 見抜かれた。とりあえず誤魔化したけどきっと無理。


「うそ!そうじゃなかったら夜のこんな時間に出歩いてるわけない!!」


 おっしゃる通りです。


「わかった、ごめん。だから、場所を移そう。とりあえず俺の部屋に行こう」


 そうして、俺とシンシアは俺の部屋に向かう。もちろん、謎の動物は魔法で焼却処分した。


 どうにか、俺の脱走はバレていないようでシンシアと二人で無事、部屋に到着することができた。



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