第3話 ステータス開示の儀式
晴れやかな朝、身体は活力がみなぎっている。今日、俺は勇者になる。
ステータス開示の儀式は夜に行われる。この儀式は基本的に親同伴となるので、親の仕事の関係で自然と夜に行うようになったといわれている。
なので、今日も今日とて俺は村の子供たちと遊びに出かける。貴族のレッスンなどはこのステータス開示の結果によって必要かどうかが決まるので、まだレッスンなどはない。
「シンシア、みんな遊ぼうぜ!」
そう声をかけながら5人ほどの子供の輪に加わる
話はもっぱらステータス開示の話だった。
「ステータス開示、わくわくするなあ、アルス」
そう声をかけてきたのは商人の息子、ジョンだった。
「ああ、ジョン。俺は勇者になりたい」
「いつも通り、飛ばしてんなぁ」
そんなことを言ったのは農民の息子、ディムだ。
「いいじゃない、不安になるより期待を膨らませて挑むの。シンシアはどう思う?」
大人びた決意を漏らすのは、ディムの双子の姉でジェリーだ。
「私は、魔導士になりたいなあ。ちょっと魔法がうまくなったから」
「そうなの!すごい!魔法っていまいち掴めないのよねえ」
そんな風にステータス開示への期待も不安も抱きながら、遊んでいたら時間はいつの間にか夕方になったので、一度家に帰った。
俺もとりあえず貴族なのでそれなりの衣装を身に着けないといけない。そして、正装を着た両親と共に村の小さい教会に向かう。
教会では神父様と早く来ていたディムとジェリー、ジョン、シンシアたちとその両親がいた。もうすぐステータスが開示される。
「神に祝福されし子供たちにその未来への指針を神から授けたまえ」
ステータス開示の儀式はこんな言葉から始まった。
「神に祝福されし、ディムよ。前へ」
神父の仰々しい言葉に導かれてディムが前に出る。すると、神父は小さなハンコのようなものをディムに当てる。そして、唱える。
「ステータスオープン」
すると、神父は何もない空中を見つめ、何かを読み取るように頷くと言う
「ディムは軽戦士のジョブを神から賜った」
これにディムの親は頷いている。軽戦士は素早い動きと打たれ強さが自慢のジョブだ。戦争にも出られる非常に強力なジョブ。しかし、比較的賜ることが多いジョブである。
「神に祝福されし、ジェリー。前へ」
また神父がハンコを当て、唱えると空中からなんらかを読み取り言う。
「ジェリーは賢者のジョブを神から賜った」
これにはジェリーの親が喜んだ。賢者は知能が高く魔法が得意で医者になることが多いジョブだ。つまり、このジョブの人間は将来的に高収入になりやすいわけである。
「神に祝福されし、ジョン。前へ」
またまた神父は同じ動作を行い、言った。
「ジョンは精霊術師のジョブを神から賜った」
これにはジョンの親は戸惑った。精霊術師は精霊に運命的に出会うことが決まっている人間が賜るジョブだからである。さらに出会う精霊の格によってできることが全然違う。精霊術師というジョブではあるがジョブが確定した時点では何ができるか全くわからないのである。
「神に祝福されし、アルス。前へ」
ついに俺の番がきた。いわれた通り前に出たら、神父からハンコを当てられる。
「ステータスオープン」
神父が唱えた瞬間、空中に半透明の青い板が現れた。
そして、神父は青い板の職業欄に目を向け言った。
「アルスは幻術師のジョブを神から賜った」
これには両親ともに微妙な顔になった。俺の勇者になる夢を知っているからだろう。幻術師は空中などに幻を映し出すことに特化したジョブだ。魔力は非常に多く普通の魔法も使えるが弱く、運動も苦手、ひたすら幻を映し出すことに特化している。つまり、最弱職である。正直泣きそうだ。
それでも精神力を振り絞って両親のもとに戻る。両親から頭を撫でられる。
「神に祝福されし、シンシア。前へ」
俺の悲しみなんて関係なく、儀式は続いていく。
シンシアのおでこに小さなハンコが押し付けられ、神父が唱える。
「ステータスオープン」
空中を見つめた神父の目が驚愕に眼球が飛び出て見えるほど見開かれる。
神父の表情から何事かが起こったと会場の全員が悟った。
この村を治める貴族としてお父様が声をかける。
「どうされた、神父殿!」
お父様の声にはっとした様子で神父が答える
「いえ、大丈夫です。儀式を再開します」
神父は落ち着きを取り戻し、一抹の悲しみを瞳にたたえながら言う。
「シンシアは勇者のジョブを神から賜った!!」
シンシアが勇者になった?
嫉妬も悔しさも、得も言われぬ悲しさもある。しかし、俺の本心は。
(俺の目指していた勇者になった。悔しい。でも誇らしい。)
そんなものだった。
ここまで考えたところで周りの様子のおかしさに気づく。
どこか重苦しい雰囲気。シンシアの両親は泣いている。お父様とお母さまの表情も硬いもので、必死に感情を押し隠しているのを感じる。
喜びに打ち震えるならわかる。歓声を上げるなら理解できる。でも、重い雰囲気?
それは自分の今まで信じてきたものがひっくり返るような違和感だった。この違和感を両親に尋ねようとした瞬間。
「村の長、エイダン=ブレイン騎士爵の名においてこのステータス開示の儀式を終了する」
神父様に代わってお父様がそう声を上げた。
こうして、俺の夢が破れ、シンシアが勇者になった儀式は終わった。




