第20話 武器を選びましょう(後編)
武器を選ぶとウィリアムさんが宣言し、7種類ほどの武器を紹介してくれた。しかし、最も根本的な疑問がある。
「ウィリアムさん、なんで僕が武器を持たないといけないんですか?」
自分で言うのもなんだけど、ウィリアムさん相手の模擬戦は上出来だった。それがなぜ武器を持つということになるんだろう?武器なんて魔法でそれなりの物をその場で作ればいいじゃないか。
「アルス、そこからか?まあ、年相応ではあるが。」
よくわからないが、ウィリアムさんに呆れられた。なぜだ???
「アルス、戦闘における幻術師の弱点は何だ?」
「攻撃手段がない事です。」
即座に答える。だから幻術師は弱いのだ。
「アルスが考えるその克服法は何だ?」
「魔法です。お父様の爆炎のような魔法を幻術で作った隙に放てば勝てます。」
幻術は確かに弱いがサポートとしては優秀だ。それに魔導士ほどではなくても強い魔法は強力な武器になる。
「まあ、こっちが準備万端ならそうだろう。だが。魔力がない状況か相手に魔法が効かない状況になったらどうする?」
「えっと、そんな状況があり得るんですか?」
「普通にあり得るな。俺の着ている鎧も魔法の威力を減衰させるものだ。アルスの爆炎が直撃していても、それなりの火傷はしても確実に命は助かっただろう。」
そんな装備があるのか。まあ、あるよなあ。よく考えたら、魔法の攻撃があるなら防御手段を講じるのは当然だ。
「ははははは、そこまで気が回らなかったか。でも、武器の重要性は分かっただろう。魔法が効かないことなんて結構ある。だから、武器が重要なんだ。ついでに言っておくと幻術を防ぐ装備はほとんどない。魔力を全身に行き渡らせるだけで致命的な幻術は防げるからな。」
武器の重要性は分かった。でもなんで幻術を防ぐ装備はないんだよ。確かに致命的な幻術は防げるかもしれないけどさあ。攻撃とも認識してないってことかよ。相変わらず幻術って弱いなあ。
「武器の重要性は重々わかりました。それじゃあ、鋼糸とナイフを武器にします。」
そして、ウィリアムさんの持ってきた武器の中から、鋼糸とナイフを手に取る。
「どうしてその二つなんだ?」
「鋼糸は幻術師に最も合う武器だからです。多彩な動きができるし、相手に少しでも幻術がかかれば容易に消せる。ナイフは一番取り回しが良いし、他の剣を使って鍔迫り合いになってもどうせ力の強い戦士には負けるので、どうせなら鍔迫り合いになることが少ない武器にしたいと思ったからです。」
「なるほどな。まあ、最初に使うなら今の体格に見合ったものがベストか。しかし最初にも言ったが、このくらいの武器は全部マスターしてもらうからな。」
どうしてだ?向いていなくても一つの事を突き詰めたほうが強そうだけど。
「なんでたくさんの武器を扱う必要があるんですか?」
「まあ、そうだなあ。お前が幻術師だからだ。アルスが極めるべきは幻術であって武器での戦い方じゃない。だから、いろんなシチュエーションで幻術を生かせる武器を扱うために色々な武器をマスターしないといけない。それにアルスがいくらその道の達人になっても最適なジョブを持ってる奴には正面切って勝てないからな。」
そういうことらしい。まあ、納得だ。魔法の威力で魔導士であるお父様に勝てる気がしない。先日の爆炎の魔法だってお父様が放っていたらもっと威力は上だっただろう。
「わかりました。それではよろしくお願いします。」
それから、二日に一回の午前中にナイフと鋼糸の訓練をする日々が始まった。
そして、週末には聖女様への謁見の対価として約束したカドックの研究への研究を行っている。大体一週間の予定はこんな感じだ。
日曜日 カドックの研究
月曜日 ウィリアムさんの訓練 + 礼儀マナーの授業
火曜日 幻術師の授業 + 礼儀マナーの授業
水曜日 ウィリアムさんの訓練 + 礼儀マナーの授業
木曜日 幻術師の授業 + 礼儀マナーの授業
金曜日 ウィリアムさんの訓練 + 礼儀マナーの授業
土曜日 カドックの研究
ウィリアムさんは日曜日にも訓練をしたいようだったが勘弁してもらった。週末もカドックの研究で何回も幻術を使う関係で非常に疲れるのだ。まあ、御飯をカドックと一緒に取るからメニューがすごく豪華だから役得だけど。
そんな風に一見何事もなく二週間の時が過ぎた。