夜明けが来る、僕らは寝る。
『――いつかまた、本物のお母さんに会いたいです』
《今日九時頃、神山動物園にてジャイアントパンダの赤ちゃんが産まれました。体長十六・六センチメートル、体重は百三十五グラムとのことで、名前は未定であり、神山動物園は公式ホームページにて赤ちゃんの名前を募集――》
ピッ。
暗闇の中で煌々と光り、報道を呟き続けるテレビを消す。
これはいつも僕の役割だ。テレビをつけた張本人こと母は、深夜ドラマを観ると必ず途中で眠ってしまう。リビングのソファを独り占めして。だから僕が消すのである。あ、独り占めといっても、元々僕がソファに座れたことはないのだけれど。
僕はリモコンを机に戻すと、キッチンの隅に向かった。
キッチンスペースの一角が僕の『部屋』なのだ。
『部屋』にはミニテーブルが一つと、あとは学校と塾に行くのに必要なものしかない。私物らしい私物はごく少量だ。
そんな『部屋』の端っこで、僕は手足の痛々しい傷に絆創膏を貼り、腕の打撲痕を古着屋で買った長袖のパーカーで隠した。
そして安物のリュックの底を埋める、塾の問題集と筆箱を全部抜くと、ここで本来は明日から始まる学校に持っていくものを詰めなければならないのだが、教科書たちには目もくれず、学校とは全く関係のないものを次々と放り込んだ。
『これで何か買って』という置き手紙に添えられた五百円で、塾帰りのコンビニにて購入した一つ百円程度の菓子パン二つ。緩い飲料水が入ったお値段百十円の水筒。初めて買ったイギリスの女性作家の名作ミステリー小説。
残りの隙間には教科書の山に隠していたドロップ缶とキャラメル入りの小箱、大事な大事な『彼女』への手紙を差し込み、僕の荷物は揃った。
充電七十二パーセント。
連絡先が一つしか登録されていないスマートフォンをジーンズのポケットにねじ込んで、眠る母親に聞こえないようそっと自分の部屋を出る。
玄関までの道を達人並みに完成された忍び足で向かい、鍵を開けて、ゆっくりとドアを押し開けば、冬の夜風が隙間をすり抜けてすっと入り込んだ。
頬が一気に冷たくなる。
自分に出来るだけの防寒はしたのだが、やはり十二月の夜中にパーカーで抗おうとするのは無理があったようだ。それでも僕は戻ろうともせず、振り返りもせず、ドアの隙間に痩せた身体を差し込んで、するりと家から脱出した。
暖かい部屋から隔絶されると、流石の寒さに震える。
白い息を吐きながら、僕はアパートの階段を降りた。向かうのは共用駐輪場で、学校指定の自転車に寄って行くと、慣れた手つきでジーンズのポケットから鍵を取り出す。指がかじかんでいるから、差し込むのにも一苦労だ。
僕はスタンドを蹴って外し、片足を奥へ回して冷たいサドルに座った。
そして――ゆっくりと、漕いで行く。向かう先は公園だった。小学生の頃までは使っていたあの公園。待ち合わせ場所はあそこが良いと、彼らが言ったのだ。それから十分ほどペダルを漕いで、僕は眠りについた住宅街を走り抜けた。
*
公園に着くと、既に僕以外のメンバーが揃っていた。
メンバー三人の内の一人、顔立ちの良い高身長の男子がこちらに気付いて手を振ってくる。僕は急いで自転車を停めると、彼らの元へ小走りで向かった。
「遅かったな、星瀬」
手を振ってきたイケメン――こと、池田センパイが笑う。
星瀬とは僕の苗字である。小馬鹿にしたような口調だが、親愛あってものだ。それを知っている僕は冷静に、『すみません、母さんが寝るの遅かったんですよ』と返しながらポケットのスマートフォンを抜き、液晶画面を光らせた。
午後二十一時五十四分、予定よりも四分遅れてしまったようだ。申し訳ない。
「運が良かったわね、流星群も予定より少し遅れているそうよ」
と、長い髪をクールに払いながら、鼻につく偉そうな口調で話しかけてきたのは黒髪の少女――黒木センパイである。
生真面目で聡明という言葉が相応しく、実は僕のこと嫌いなんじゃないかと感じる対応ばかりの彼女だが、ここ数ヶ月でようやっとそれが『ツンデレ』なる性格故なのだと僕は気づいた。天然記念物である。
「今のうちに前野川まで行きましょう」
黒木センパイがそう促したことで、池田センパイが駐輪場の方に向かって行く。それを追って黒木センパイも歩いていき、その場には僕と――もう一人の少女が取り残された。
「……清川さん? 上ばっか見てどうしたの? みんな行っちゃうよ?」
「………………あっ、はっ、はいぃ!」
僕の声に慌てて視線を空から外したのは、一際小柄で気弱な性格が特徴的な少女――清川である。この中では唯一僕と同い年だ。
彼女は先を行く〈池田・黒木〉両センパイを目で追って、ようやく現在の状況に気づいたらしい。慌てて走り出そうとするが、コートのポケットに入りきっていなかった桜色のスマートフォンがぽとん、と芝の上に落っこちてしまった。
「あっ」
反射で拾おうと手を伸ばす僕。しかしそこへ清川の手も伸ばされて、
「あ……」
僕が数瞬早くスマートフォンを取ってしまい、手と手がぶつかる。お互いの冷えた手が触れ合い、僕も彼女も慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめん。これ」
「う、ううん! 取ってくれて、ありがとう……」
清川はスマートフォンを僕から受け取ると、画面についた土の汚れなどをぱぱっと払ってポケットにしまい直す。その、少し早められた動作が何か『指摘』されることを拒んでいるような気がして、僕は思わず口をつぐんだ。
――同級生につけられた跡、まだ残ってるのか……。
スマートフォンを受け取る直前、ちらと見えた手首の傷跡に言葉が出かかるが、喉まで上がってきたそれをどうにか呑んで引っ込める。清川本人がその会話を望むならまだしも、僕が半端な覚悟で言及するのはよくないだろう。
「じゃ、じゃあ、いこっか星瀬くん……!!」
「……うん」
逃げるように歩いていく清川を追って、僕も駐輪場に向かった。
途中、ジーンズのポケットにねじ込んだスマートフォンが、通知と共に小刻みに震えた気がしたが、僕がメール画面を開くことはなかった。
*
深夜の街中で自転車を飛ばすのは楽しい。
風が擦り抜けていく心地よさ、闇夜をただ街灯と自転車のライトだけで切り開いていく緊迫感。そして、誰にも見られていないという開放感――三つ揃って気分は最高潮だ。今なら満月をバックにこのまま空だって飛べるかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は冷えた夜風を吸い込み、耳も鼻も真っ赤にして、地元で一番大きい川のもとまで三人と一緒に走った。
「黒木センパイ、黒木センパイ。よく自転車が手に入りましたね」
僕は黒髪を泳がせていた黒木センパイに追いつき、並走しながら話しかける。
案の定、彼女からは『ちょっと、危ないわよ』とひっそりお小言をもらうが、
「お姉ちゃんから盗んだの。どうせあの親のことだわ、なくなってもお姉ちゃんにはすぐ買い与えるでしょうし、それならいいかと思ってつい」
「黒木センパイって、たまに大胆ですよねー」
黒木センパイに似て眉目秀麗で、しかし異常なまでに両親に溺愛されており、いずれ政治家になるため日々勉強しているお姉さんのことが嫌いだ――というような話は以前から聞いていたが、まさか盗みまで犯してしまうとは。
日々の学校生活で見られる、黒木センパイの完璧超人ぶりからは伺えない裏側の面に感心していれば、彼女は不思議そうに視線を寄越し、
「そうかしら? あっ、馬鹿、前見なさいって」
「わっ、あぶっ」
危うく電柱に突進するところだった僕は、黒木センパイのお陰で事なきを得る。
あぁ危ない、流星群を見る前に死んでしまうところだった。
己の間抜けさに戦慄しながら『ありがとうございます』と呟くと、黒木センパイは黒の瞳に僕を写し、本当にダメなものを見ている人間の顔をした。
「前から思っていたけれど、星瀬くんってどうしようもなく馬鹿ね……」
「……センパイ、もう一回『馬鹿ね』ってお願いします」
「えっ? ……やだ、貴方にそんな癖があるなんて知らなかったわ。馬鹿っ、変態っ、二十分は話しかけないで頂戴っ!」
とうとう本格的にダメだと判断したらしい黒木センパイは、散々な言葉を残してぴゅんと先に行ってしまった。やれやれ、需要をわかっていないようだ。
折を見て彼女には、かつて僕が池田センパイにされたように『需要』と『供給』について聞かせてやりたいが――それでも、今日が終われば僕ら四人は会えなくなってしまう。つまり、彼女に需要と供給を教えることは不可能であった。
悔しいことに、黒木センパイの勝ち逃げである。
*
深夜二十三時過ぎ。ついに僕達は地元で一番大きい、前野川の土手沿いに到着した。
時間が時間なので、当然僕ら以外に人は見当たらない。人間の気配といえば、周囲の家々に明かりがぽつぽつと点いているくらいだ。
僕らは自転車から降りると、二列ずつに並んで自転車を押しながら歩いた。先を行くのは僕と池田センパイで、後ろが黒木センパイと清川である。
まだ流星群は来ないらしいので、土手沿いを適当に歩いて暇を潰すのだ。
しかし、後ろを陣取る女子二人の会話の弾みようとは裏腹に、僕と池田センパイはお互いに、しばらくの間何を話そうか迷っていた。そしてふと――センパイが、意を決したような凛々しい顔つきで話の口火を切る。
「……なぁ、星瀬」
「なんですか? 池田センパイ」
「お前、読んでもらう手紙に何書いた……?」
「えっ、ええっ!? そ、それを聞くのは野暮じゃないですか……? それにはずかしいですよ。池田センパイだって何書いたかは教えてくれないでしょうに」
「いやま……確かにそうだけど、俺こんな内容で良いのかなーって書き終わってからしばらく頭抱えちまってさぁ。一世一代の大勝負? って奴だから、もう不安で不安で仕方ねえんだよ……かっこ悪いこと書いてねぇかなァ、大丈夫かなァ」
「ここまで来たら後は見せるだけじゃないですか、何を今更」
「度胸あんなァ、俺より年下のくせに……」
不服げな顔をする池田センパイ。でも仕方がないだろう、僕が『彼女』に何を伝えるかはもう随分前から決めていて、手紙に書いた内容にも後悔はないのだから。あとは本人に読んでもらい、僕の気持ちを知ってもらうだけである。
そんなことを思いながら、僕は後ろで自転車を押しつつ会話をしている女子達へなんとはなしに目をやった。
――その時だった。
「あっ、見えた……!」
ふと、濃紺の空を見上げた清川がぱぁっ、と顔を輝かせる。
彼女の嬉々が混じった言葉に、僕達は一斉に夜の空を見上げた。
「あっ……!」
きらりと光る雨が一粒。尾を引いて、零れる夜露のように雲間を抜ける。それを追ってもう一筋、雨粒が青の煌めきを連れて零れ落ちた。
迷いのない軸で弧が描かれ、次々と雨は零れる。
少しずつ光がなだれる様子は、涙を堪えているようだった。堪えて、堪えて、粒のような涙だけがどうしても天を伝う。
「わぁ……」
黒瞳に星空をそっくり落とし込み、感嘆の甘い吐息を溢した黒木センパイが、幾重もの涙に手を伸ばした途端、涙線は決壊した。
最初は一筋ずつだった星の流れが、少しずつだが確かに煌めく瞬間を重ね始め、ゆっくりと、だんだんと、競い合うように降り注ぎだしたのだ。
「凄い……こんなに、流れ星が……」
――数日前に池田センパイが、珍しく意見を譲らず、手紙を送る日をどうしても『今日にしよう』と言った意味がわかった気がした。
僕らは星を追いかけて自転車を飛ばす。土手沿いを走り、冷たい風を目一杯に浴びながら絶景に胸を高鳴らせていた。
息が白む、耳が染まる。鼻腔に冬風が突き刺さり、目が渇く。
それでも一瞬足りともこの星空から目を逸らしてはいけないと思って、子供みたいな意地で星の流れを目に焼き続けた。
星は、僕らを歓待していた。
自転車のペダルを漕いで漕いで漕いで、突然ふっ……と足の力を緩めると、道を駆けた余韻で車輪が回る。シャーッと車輪の回転音を聞き、視界端に流れる景色を微かに認めながら、僕は夜天へと小さな手のひらを伸ばした。
ちかちかと、白銀の輝きが指の間から見える。その瞬きを見ていると、なんだか指先から魔法にかけられていくような気がした――。
*
やがて自転車を漕ぐことに疲れると、僕ら四人は川辺にレジャーシートを広げてそれぞれ持ち寄って来たものを食べ始めた。
僕はコンビニのパン二つを、清川はお母さんの手作り弁当を、黒木センパイはずっと食べたくて今日初めて買ったというスーパーのスナック菓子を、池田センパイは自分で手作りしたというお弁当を。
「――池田センパイ、相変わらず料理上手ですね」
弁当箱の中身を見て僕がぽつりと呟くと、池田センパイはニヤリと笑う。
「だろ? あのうるせージジイの介護食作ってたらなんか料理めちゃくちゃ上手くなってさ。迷惑しかかけねージジイだけど、まぁおかげで自分の料理スキルはスゲー磨けたかなって、それだけは思うわ」
そう言って焼き鮭を食らう池田センパイは、普段は一人で同居人のお爺さんの面倒を見ているらしい。
両親は逝去しており池田センパイを引き取った――もとい、親戚中から池田センパイを押し付けられたのがお爺さんだったのだが、その人はとんでもなく人使いが荒い上に頑固もので、池田センパイが介護をしても色々文句をつけたり暴れたり、勝手に外を出歩いたりして、長らくセンパイの手を焼かせていたのだという。
それでセンパイはかなり精神がまいってしまったのだが、それをきっかけにこうして今日、全部忘れて流星群を見に行こう、と僕らに提案してくれたのである。
「……よかったです、皆さんとの素敵な思い出が出来て」
清川が俯きながら恥ずかしそうに呟くと、僕と池田センパイと黒木センパイは顔を見合わせて、それから『ははっ』と一斉に笑みを溢す。
「そうね、私も今日を最後の日に出来てよかった」
「もう、俺らは会えなくなっけど……でも、またどこかで会えっから、絶対」
「……そうですね。次はもっと……全員、幸せな状態で」
僕たちは再会を誓い合うと、『じゃ、片付けすっかぁ』という池田センパイの掛け声で一斉にゴミを片付け始める。持参したビニール袋にまとめて、クチを結び、各自カバンの横に置いておいた。
レジャーシートも畳んでしまえば、意外と早く片付けは終わる。
予想以上に早く迫ってくる別れの時に、何かが胸に込み上げてくるが、それでもこれは自分たちで決めたことだ。
同じ思いでいたのか、清川が彼女なりに声を張った。
*
「じゃあ、あとはもう……」
「そ。――死ぬだけ。この川の深さも丁度いいしさ、明日になる前にやっちゃお」
「そうね」
「そうですね」
池田センパイの言葉を合図に、僕らは川に近寄った。そっと手を差し込むと、やはり冬の夜だけあって凍りそうに冷たい。それでも、煌めく夜空をそっくり写す水面は魅力的だった。
煌めきを追いかけて、僕はそっと足を入れる。ひんやり――なんて物ではなく、骨の髄まで氷にされるんじゃないだろうか、という激痛にも思える冷たさが襲ってきた。
それでもじっとしていると、次第に足の先の感覚がなくなってきた。冷たさもよくわからなくなってきて、温かいようにさえ思えてくる。
「それじゃあ」
「うん」
誰かが誰かに返事をして、川の中に沈み込む。
恐怖はなかった。僕は視界端に捉えた波紋に続き身体を水底へ落とす。沈むと共に発生した泡の群れが、頬を撫でていった。
凍りそうに冷たい水の中、急激な温度変化に強く脈を主張する心臓を左胸の辺りに自覚しながら、僕はうっすらと目を開けた。
暗くてあまり奥まで見えない。
しかし、敷き詰められた砂利や揺蕩う水草の存在は視認できた。
僕は、水中でゆるりと身を返す。
水面に目を向けると、空に散りばめられた金銀の光が煌めいているのが見えた。川の水が透き通っているお陰で、ここからでも星の一つ一つがよくわかるのだ。
「――」
ゆっくりと、息を吐く。
こぽこぽと泡が水中を上昇し、水の表面で弾ける。空気の代わりに水を呑み、星を見ることで胸の息苦しさを誤魔化しながら、
僕は、永遠の眠りについた。
*
――リビングの薄い白カーテン越しに、暖かな太陽の光を。
そして隣接するキッチンから流れる、トーストの甘い香りを胸いっぱいに自覚する。
少女は綺麗な黒髪をポニーテールにまとめると、ブラウスの襟に赤いネクタイを通して手短に結んだ。
スカートの腰ポケットから小型の埃取りを取り出すと、紺色のベストにサッサとブラシをかけてゴミを取る。
朝のBGM代わりにしていたテレビの映像が、八時になったためお馴染みのニュース番組のものに変わった。
《今日のニュースです。昨夜、約三百六十年ぶりとなる『ライン流星群』が日本全国で観測されました。流星数は一時間に約六十個と非常に数が多く―― その、実際の映像がこちらです。――専門家によりますと、次に観れるのは約四百年後であり――》
「ママー、今日ガチで時間ない! 車で送ってって!」
「やだ、あたしこれから朝ドラ見るの。走ったらまだ間に合うでしょ、三学期初日くらい自力で頑張んな。あんた女子高生なんだし、体力もあんだから」
「若いからってみんな体力あると思わないでよぉ、もう!」
少女はキッチンのトースターからトーストを引ったくると、口に咥えながらリュックを背負って玄関に向かう。しかし母親は、どたどたと強調される足音など気にも止めず、トーストとコーヒーを持ってテレビの前のソファに座った。
《次のニュースです。今朝、X県Y市にて近隣住民からの通報により、青少年四名の水死体が発見されました。調べによりますと、少年らは全員、地元の『皐月高校』の生徒であり――》
「いっ・て・き・ま・す!!」
「いってらっしゃーい」
怒鳴り気味にはっきりと発音して、ドアを乱暴に開ける少女を見向きもせずに送り出し、母親はトーストをのんびりと食べる。
「にゃーん」
ふと、太り気味の三毛猫が母親の膝に飛び乗った。それから丸くなると、テレビの方を見ながら尻尾をぷらぷらと動かす。母親はマグカップをテーブルに置くと、その毛玉のような柔らかい猫の背中をゆったりと撫でた。
《少年らが残したとされる手紙の内容からそれぞれ『いじめや家庭内暴力を受けていた』と推測され、警察は、少年らの集団自殺は計画的に行われたものと――》
と、そこで映像が切り替わる。テレビの予約機能で、朝ドラが始まったら自動でチャンネルが変わるよう設定していたのだ。
前回のあらすじが簡単に流されたあと、オープニングが始まり、スポンサーの紹介が文字だけで手短にされたのち、今日の話の導入部分が始まる。
「はーっ、日村様今日も顔がいいわぁ……」
――うっとりと呟く母親の周りでは、穏やかな時間が流れていた。
お読みくださりありがとうございます。
今回のテーマは『自殺』と『日常』でした。自殺を決意した人間は、日課をこなすようにふわっと死んでしまうんじゃないかな、という私の想像がきっかけです。なお私自身は自殺を考えたことは全くないです。しぬのこわい。
初めての短編という事で至らない部分も多々あったかと思いますが、私自身非常に楽しく書くことができ、とても満足しております。
よろしければブクマやポイント、ご感想で応援くだされば幸いです。