これからの未来はとても輝かしいものだと確信した。
その後、エマニュエルとマグダレーナ、そして手続きを終えたリコーサ公爵も無事に帰国しあのパーティから半年後に盛大な式が挙げられた。
そこには友好の証として各国から要人が招かれており、当然同盟国であり隣国のソルフィデースからも王太子が送られている。
けれどそれは留学中在校生として交流のあったカルロスではなく、そのすぐ下の王子となっていた。
彼はとても勤勉でカルロスが怠け腐っていた間に留学していたこともあって様々な国の所見を学んでおり、外交もそつなくこなす立派な来賓客だった。
国外にいたためにそれほど国民からの支持を受けていなかったようだが、今回のことでカルロスが失脚したために呼び戻されたと朗らかに笑っていた。
その笑い方は到底兄の愚行を悔やんでいるようではなく、エマニュエルは彼はいつか兄が愚行を侵すことを予測しつつ放置し、その時のために地盤固めをしていたに違いないとマグダレーナにそっと耳打ちしていた。
新たな王太子は頭の切れそうな人物ではあったが、それゆえに無駄な争いや愚行を侵すことはないだろうと各同盟国は考えている。
引き続きその動向には注視することになるが、一先ず同盟解消ということはなくなったことに一同安堵していた。
なくても困らないがあればあるでいいことには変わりはない。
その王太子はその祝宴の席で、あまり興味はないのでそれまで詳細を聞いていなかった彼らのその後を二人に聞かせてくれた。
まず、婚約破棄された令嬢たち。
婚約はカルロスたちの愚行の被害者として彼女たち側からの破棄という形になった。
もちろん評判に傷がついたと相手方から賠償金が支払われることになる。
しかし、いくら嫉妬にかられてマリアだけに向けたものとはいえ身分の低い者への考え方に難ありとして、今一度淑女としての在り方を考え直すようにという言葉と共に領地へと戻された。
彼女たちの今後はそれぞれの家と彼女たち自身がこれから決めることだろう。
次に、カルロスの側近たち。
さすがカルロスにつけるだけあって各家の嫡男が多かった。
マリアに出会うまでが優秀だっただけに惜しまれはしたが、ことがことだったためにお咎めなしというわけにはいかず、それぞれ廃嫡と領地送りということになった。
ちなみにジェームズの父であるアキノニクス公爵は息子の愚行を恥じ、自ら宰相の職を辞した。
尊敬する父が誇りを持って勤めていた職を辞めさせてしまったということに、彼は呆然自失になりしばらく塞ぎこんでいたという。
なんとかこのひと月ほどには回復し、今は領地で福祉に従事しているらしい。
そしてヒロイン、マリア・カトゥス。
彼女は連行された後もしばらく支離滅裂な言動を繰り返しており、その様子から精神病の疑いがもたれた。
言動の節々から前世もちであることには間違いないため、前世の記憶と大幅に違いのある現世に適応できなかった結果ではないかと判断され教会へと入れられることとなった。
そこで現世に馴染んでいけばそれでよし、馴染むことがなければそのまま教会暮らしとなる。
また、失われた血脈・神獣シルヴェストリスの末裔であるという話だが、シナリオでは彼女の前に始祖神獣が現れて初めて分かることだったので現時点では確証の得られないままである。
仮に本当にそうであったとして、これから現れるのならば始祖神獣が彼女を正しき道へと導いてくれることだろう。
最後にカルロス。
彼は最後まで自分の責任について否認し続けていたのだが、それはまさに彼を支持していた者たちにとっては期待を裏切られている光景だった。
ブリジットとの婚約はエラピディ公爵の後ろ盾を得、その足場を確固たるものにするためのものだったはず。
その後ろ盾を捨ててまで愛していると言った者さえも切り捨てられるのならば、その他の者たちも同じように簡単に切り捨てられるだろう。
さらに言えばそれまで行っていた慈善事業も革新的な改革も裏を返せば見栄と私利私欲でしかなかった。
自らの欲望を障りのない文言で隠していただけ。
それに気が付いた支持者は軒並み第二王子へと鞍替えをし、カルロスを糾弾した。
その結果一気に支持率がどん底へと落ちたカルロスは貴族院にて満場一致で王位継承権をはく奪され、王太子の座から引きずり降ろされた。
それに付け加え、エラピディ家への損害賠償を個人で払うことになったうえ、王家の威信に傷をつけたとして王国で最も過酷な採掘場へ送り込まれることとなった。
その際、余計な火種を作ることのないようにと去勢もされてしまったため、ほぼ毎日遊び歩いていた彼は発狂しそうになりながら働いているらしい。
「あの女は殿下にも接触していたと聞いています。けれどあなたは全く靡く様子がなかったとも。もちろんご婚約者様がおそばにいたことも聞いておりますが、他の者たちは婚約者が傍にいようが軒並みあの女の虜となっていた」
ワインを片手に事の顛末を包み隠すこともせずエマニュエルへと告げたソルフィデースの王太子は最後に残りの一口をグッと煽った。
そしてエマニュエルを見据えた瞳は鋭く、どこか確信を持ったものだった。
「何か対策でも?」
あれほど強烈に有力子息を魅了していったのだから、何かしらの仕掛けがあったのではないか、というのがソルフィデースの考えらしい。
そしてそれを防ぐことのできる何かをルナプレナグラティアは持っていたにも拘らず、カルロスたちに行使しなかった。
そうやって責められる可能性を狙っているのだろう。
逐一報告と忠告していたのを無視したのは自分たちだというのに。
相変わらずそりの合わない隣国だと思いながら、エマニュエルは一度隣に座るマグダレーナと顔を見合わせたと思いきや、二人揃って彼に向けてにっこりと綺麗に笑ってやる。
その顔に王太子がほんの少し動揺したのを見て、顔につられるのは血筋かと納得した。
この分では留学してさえいなければこの王太子もヒロインに魅了されていたことだろう。
それくらいにはチョロく顔に出やすくて、それゆえにソルフィデースは外交に弱い。
「……そうですね。私たちはただ、想いのままに始祖神獣様の前で愛を誓った。ただそれだけですよ」
それはとても簡単で、けれどいくつもの花を愛でるソルフィデースでは決してできない対策だ。
生涯唯一を掲げる神獣カニス・ルプスの加護受けし、ルナプレナグラティアに生まれた者たちだからこそできること。
その答えに王太子は責める余地なしを悟ったのか少し不満げな顔をしたが、それ以上はもう何も言わなかった。
そんな不貞腐れた様子の王太子をそっちのけで二人は微笑み合い、醸し出した甘い雰囲気で祝いの席を最後まで満たしたのだった。
お付き合い下さりありがとうございました。
後日、人物の名前の由来などを紹介させていただきます。