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革命勇者

 ―カグラ・ハルの異世界生活はクソッたれだった。


 講評すると、ただその一言に尽きるだろう。転移当初に抱いていた英雄願望は当の昔に尽きて、何時の間にか『捻くれ者』に転身してしまっていた。


 勇者としての矜持も無ければ、覚悟と呼べる信念もない。ただ、生き抗って来ただけの俺は屍兵と何も変わらない。


 気に入らない奴がいたらぶっ飛ばすし、愚痴を吐くのは日常茶飯事。女に気を遣うつもりはないし、そもそも知り合い以外は割とどうでもいい。


 その姿は皆の『光』となる勇者とは程遠い。

 優しさも、信念も、力も勇気も。あらゆる面で、俺は以前のハルと比べて劣っている。


 何を示すか、だって?そんなの俺が聞きたいぐらいさ。


 こういう時、普通は『何か』に気付かせてくれる『誰か』が来るのが普通だろ。それなのに、迫るのは絶望の風だけ。

 本当にどうしようもなくて、クソッたれ。でも今更、他人の言葉で何かに気付けるほど、お利口な俺じゃあない。


 結局、何処まで行っても今生のカグラ・ハルは勇者に成れない。心に住まう絶望の闇は、すっかり俺を蝕んじまってる。


 ―気高く生きるのですよ、ハル。


 嫌だよ姉さん、そんなお利口な生き方はもうむず痒くて出来ない。


 ―普段は適当なのに芯が通っている。そんな君と友で在れたことを誇りに思うよ。君ならきっと魔王を倒せるよ。


 勝手に図るな。お前が思ってるほど、俺は強い心を持っていない。


 ―頑張れよ、(ハル)


 …………うるせぇ、黙れよ。もとはテメェが失敗したから、俺がこんな目に合ってるんだろうが、押し付けんな、糞野郎。


 あれだけ『気高い記憶』を見たのにも関わらず、気付けば口から溢れ出すのは罵詈雑言だった。


 もっとやり方あったろ。まじで、どうしてめためたに痛めつけて成長させる方法しか考えなかったんだよ。

 俺の異世界純情を返せ、お前だけあんなチート能力持っててずる過ぎだろ。馬鹿なの?いいや、馬鹿だなお前は。

 何が勇者だ、何が真勇だ。お前がそんなカッケエ奴なら、まず俺を助けろよ。


 今はもういない。というか、もう一人の自分にも関わらず益体のない悪態を吐き続ける。


 あーあ、いいよなぁ。お前は皆からチヤホヤされ恋物語(ラブロマンス)も繰り広げて、異世界を謳歌してたじゃないか。

 勇者としての責務があったから、楽な日々じゃなかった?そんなの、今の俺の顔を見て言ってみやがれよ。


 結局、お前って奴は『勇者』という称号に溺れて死んでいった哀れな奴だ。

 今言ってやる。『(おまえ)』は俺がであった仲でも最低の糞野郎だってな。


 イリスが聞けば確実に憤慨する死者への冒涜は止むことを知らない。湯水のごとく溢れ出した運命への叛逆は止まる事を知らない。

 そしてふと、思った。


 あーあ、もうどうでもいいや。やめだやめ、閉店ガラガラ!!!!!


 俺は別にお前から何も貰ってない。むしろ、面倒な事押し付けられた立場なのに、どうして馬車馬のように働かなきゃならん。


 想いの継承?運命?なにそれ美味しいの?


 もういいよ、俺は"お前に託されない"。


 お前だけじゃない。ライア、リア、ミア、イリス、アオイ、ミコト、将軍、タケ、レギオ、ガイリ、とか、あと沢山の冒険者とか。


 勝手に期待するな、お前らが勝手に託したからこうなってる。

 俺は誰の想いも引き継がない。


 ―俺は俺のやりたいよう、自由にやらせて貰う。


 勇者になるつもりは砂粒ほどもない。少し、少しだけこのスキルポイントを変換できる能力を手に入れた時、最後には自分が抱いていた『理想像』に慣れると思った。

 だがそんな事はなかった。ここに居るのは、今までよりもずっと自分の事しか考えていない自己中心な的な青年だ。


 あの記憶は、俺をずっと『未完の青年』にしてしまった。


「フライデー」


「…………」


 彼女は応答をしない。でもそれでいい、最初から全部知っててあたかも「この力はスーパーAIフライデーちゃんのおかげですが?」と振舞っていたこいつにも、もう頼らない。


 『根源変換(これ)』は俺の力だ。誰の為でもなく俺の為に使わせてもらおう。


 覚悟は決まった。導き出される『示す言葉』はただ一つ。


「知らん」


 いっそ潔く清々しい程に、俺は魔王に向かって言い放った。

 誰かの為に、何かを示す事はしないと。俺にとってそんな事はどうでもいいと。


 イリスが時を経てまで渡した希望(バトン)を自らの意思で地面に落とした。


「――ならば朽ちろ」

 

 やはり残念そうなため息を挟み、魔王は腕を掲げた。集約するのは紫紺の魔力、破滅へと導く孤高の王が有する絶対的暴力。


 ――1ポイントだ。


 今ハルに残っているのは、弁当を開けたら白飯しか入ってなかったときレベルの絶望的な状況。


 これをどう使うか――そんな事はもう考えない。

 『お前』はその使い道を迷った挙句、方法をミスって命を落とした。


 全く馬鹿だ、やっぱり勇者は所詮『勇者』にしかなれない。


 お利口なお前には『これ』が出来なかっただろうな。誰かを救わなきゃならない状況で、こんな『博打』出来なかったよな。

 でも俺には出来る。俺は、俺が望む未来を描く為にこの選択に賭ける。



 ―それは彼がこの世界で得た経験の結晶。


 何としてでも負けない精神が。どこまでも行き抗う『無謀な勇気』があったからこその大博打。

 

「俺は……この命を――変換する」


 魔王の紫紺が放たれるよりも早く、ハルは剣を鞘から引き抜いて自らに向かって突き立てた。そのまま一直線、丁度心臓の辺りを貫いて銀の剣先は青年の背部を貫通する。


「そんな、まさか――」


 イリスは驚愕した。


「ふ……フハハハハハハハハハハハハ。なるほど、『自決』とはな。我が魂の宿敵よ、どうやら貴様の思惑通り、この青年は真勇とは似ても似つかなかったぞ。フハハハハハ」


 魔王としての矜持を捨てて、大いに笑った。掲げていた魔法を下げて、腹を抱えるその哄笑が止まる事はない。


「これが、貴方の選択だというのですか」


 短い間だが彼女――フライデーはハルを分かっているつもりだった。だからこの絶望的な状況でも、何かやってくれると信じていた。

 その『裏切』は沈黙していた彼女を失望に駆らせると同時。


「…………いや、まさか――」


 最もハルの近くに居た彼女に、ある事を気付かせた。心臓を一突きしたさっきの光景は紛れもない『即死』で、実際に膝を付いたまま青年はピクリとも動かない。

 だが、血が出ていない。体に血液を循環させる『核』を貫いたのに、刺し傷からはピタリとも血が滴ってはいなかった。


 肉体を持たないカードのフライデーには、当然目がない。だから代わりに、何時もは大気中に存在する微精霊を通じて、ハルの姿を俯瞰的に伺っている。

 血が出ていないのに、全く動かない状況。やはり既に命は落としてしまっているのかと、顔を覗き込む。


「――――――ふ」


 笑っていた。頬を吊り上げて、ハルはその面に下卑た笑みを貼り付けていた。


 ―生きている、ハルは生きていた。


 そしてゆっくりと立ち上がった彼の刺し傷からは、血の代わりに『光の粒子』が溢れ出す。魔力でもなければ、魂の輝きなんかじゃあ断じてない。


 それは『力』だ。頂に迫る、全てを圧倒する『根源』を司る光瞬だ。


「ハハハハ――は……?」


 その姿を紫紺が照らして、笑いの沼に浸かっていた魔王は凝然と浮上する。


「まさか……有り得ない。『根源変換』はただ、スキルポイントを変換する能力。『何か』を……命を変換できるなんて、有り得る訳がない!『彼』とそのスキルを知っている私が保証する」


 イリスは更なる驚愕に上書きさせる事になる。


「勘違い……するなよ」


 胸を自ら貫き顔色を悪くしていたハルは最初、その圧倒的な力を前に更に蒼然とした。だがこれは俺の力だと『強欲な意思』がそれを制御する。

 歯を食いしばって、爪がめり込むほど強く拳を握って。


 遂にその不安定な光の粒子は纏まって『一つ』となった。

 黒髪黒瞳の青年を包むそれは『光の衣』。陽光を凌駕して闇を吸収する、実体のない『要塞』。


「俺はお前の知ってる『ハル』じゃなければ、勇者でもない」


「まさか、スキルの昇華……?『彼』が出来なかった、本当の『根源変換』!!!」


「有り得るッ!大いに有り得ますとも!!!!!。そもそも『変換』なのにスキルポイント側からしか出来ないのは可笑しい」


「でも、どうして……?彼が出来なかったのに――」


 イリスは『彼』の言葉を信用していなかった訳ではない。ただ、その『力』においては凌駕される事はなく、目の前のハルにはきっと『策』や『機転』で驚かされると思っていた。


「スキルの昇華は、スキルポイントの振り分け+『経験』によって生じる。そしてその経験は、今のスキルで出来ること以上の『偉業』を成さねばならない」


 そもそもスキルポイントとは神の力に等しい能力。それを変換する『根源変換』とは、正しくチートだ。

 そんな力を持っている『真勇』が達せられる『偉業』とは何か。結論()()()()()()()()


 その力(チート)を授かった時点で、立ちはだかる敵は全て"倒して当然"。ならば『根源変換』が昇華する日は訪れる事がない。


 イリスはそう思っていて、『彼』も同じことを言っていた。

 だが決して勇者に届く事の無い『未完の青年』が今、答えを出してしまった。


 必要だったのは『力』による功績ではなく、思わず神も驚くような馬鹿馬鹿しい『決断』だった。

 必要だったのは黄金の意思ではなく、馬鹿馬鹿しくて奇想天外な『灰色の意思』だった。


 正真正銘、ハルは命を『スキルポイント』に変換してしまったのだ。そして、そのポイントで再び命を買い戻す『荒業』をやってみせた。


「な……!いやしかし、今貴様がどれだけのスキルポイントを手に入れたとしても、貴様自身の能力は以前の真勇に遥か及ばぬ。それに、万が一に貴様が覚醒した時を考慮してこの大群だ。土壇場でのその決断、敬意を称そう。――だがさっさと朽ちろ」


 魔王は依然、冷静さを失う事がない。紫紺を爛々と輝かせて、王として進軍を合図した。


 たった一つの光に対して迫り来るのは万の闇。だが、今のハルに一切合切の絶望はない。

 平凡だった青年の容姿は今、唯一無二の『黒髪』と『黒瞳』になった。


「フライデー見せてやるよ。これが本当の変換――いや『革命』だ」

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