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最後の試練

 罪を背負いし乙女は、早々にハル――いや『彼』の遺言を実行した。


 まず最初に直ぐ『根源変換』のスキルを認識不能にした。才能の無さに打ちひしがれるハルを見ているのは心苦しかったがグッと堪える事にした。

 そして次に、イリスは『剣』と共にこっそり『威国』に赴いた。


「――という事で、貴方にはこの子を守って欲しいの」


「なるほど。確かに"その子"は私の打った剣だね」


 白髪の老躯は多くは語らずとも、その瞳で真実を見抜いた。なるほど、『彼』が推薦しただけはある。


「妾は『主』の剣。主の為なら、全てを捧げるとしよう」


 桃色の髪に、悠然と輝く黄金の瞳。生を授かった『天叢雲』は男性でありながらも、女性のような美しさだった。

 ちなみに、彼女とイリスは仲が悪い。というか、一方的にイリスが敵視している。


 だってこの容姿って『彼』が考えたのでしょう?という事は、この私と正反対なカッコイイ感じの女がタイプって事だよね、ねぇ?


 といった具合である。


「この子を守るのは承諾するよ。だけど、『鎖国』しただけでは守り通す事は出来ない」


「どうして?」


「記憶というものにも、"力の流れ"がある。私がこうして君達を将軍部屋に入る事を直ぐに受け入れたのも、その力を感じたから。――私よりもずっと聡い魔王なら、直ぐに天叢雲の存在に気付くでしょう」


「なら簡単な話だ、イリス殿が妾の記憶を消せば良い」


「それは駄目。貴方は人ではなく『剣』なの。一度思い出を消すと、きっと自力で思い出す事は不可能。後で戻したとしても、其処にいるのはただの贋作よ。『彼』と一緒に生きて来た『天叢雲』じゃない」


「妾の身に主との日々は焼き付いている。その心配はないだろう」


「ただ問題なのは思い出すタイミングが何時か、だよね。早く思い出し過ぎてもいけないし、遅く思い出して全てが終わってたら元も子もない」


 イリスが『Re』を使用して思い出させるとしても、威国まで来るのは中々骨が折れる。

 それに"いざ必要な時"を予見出来る訳でもない為、贅沢を言うと『最適なタイミング』で天叢雲が思い出してハルの力になって欲しい。


「君が記憶を失っても君は君。今のカグラ・ハルは無理だけど、もし彼が天叢雲を扱うに値する存在になった時、必ず"何か"を感じる筈だよ」


「でも、それは希望観測に過ぎない。この子が常に強者(ハル)を求めるような状況を作らなければ」


「…………ならこうしよう」

 

 記憶を失った天叢雲が描くストーリーを将軍は語り始める。

 その剣――ミコトは将軍の息子で、幼き頃から父に厳しく育てられた彼は憎しみに駆られている。


「父を倒す為の剣を探す日々。それはきっと、天叢雲がハルを探知する為の『アンテナ』を強くする」


「む、待て。それでは妾と主が最終的に将軍を斬る事になるが」


「それでいい。一つの『試練』としても、礎になろう。――どの道、私の寿命は長くない。前の世界で『天叢雲』という最高傑作を打ったのも、きっと人生の最後として頑張ったに違いないから」


 こうして、ミコトは将軍の息子となった。最もその容姿から、多くに『娘』と認識される事になるのだが……。


 其処から、『彼』が言っていたようにしばらくは普通にハル、アオイ、タケと冒険をした。

 やっぱりハルは見る影もなく弱かった。スキルだけではなく魔法を使用する事が出来なかったのは、きっと前の世界で精霊に嫌われてしまっていたからだろう。


 精霊は全てを司って、時の影響を受けない。だから彼等彼女等はイリスに罰を与えた。

 それはシンプルで最も苦しい悪夢。『(あの人)』が死ぬ瞬間、それも真実ではないあらゆる場面での異なった死に方を、イリスは毎晩(うな)される事になった。


 そして暫くすると恐ろしくなっていた。目の前のハルも、夢で見たものと同じ運命を辿るのではないかと。

 でもそんなのは、他ならないハルの言葉によって吹き飛ぶ事になった。


 ―ああ。イリスが自分の『光』を見つけられるまで、きっと沢山辛いことは訪れる。その時に、"英雄になりたいと豪語する弱っちくて馬鹿な男"がいたことを思い出して笑ってほしい。


 やっぱりハルは『(ハル)』だった。彼ならきっと『絶望』にも抗って強くなると、その日に仲間との記憶を消して『偽り』を信じ込ませる事に成功した。


 一人になったハルは皆から蔑まれる事になった。元々、無スキルは勇者として相応しくないと言われていたのに、勇者パーティーを追放されたという噂が彼を『無能勇者』へと押し上げた。


「全く、私達が追放した訳じゃないのに。どうしてハルは突然出ていったりして……」


「考えるよりも、本人に聞くのが早いだろ」


 何も知らないアオイとタケに、イリスは何も知らせるつもりはなかった。罪を背負うのは自分だけでいいと、無理やりハルから遠ざけた。


 その後、イリスがやった事は――『プログラミング』である。


 『彼』の遺言通り、ハルには『根源変換』の力が必要になる。だが強大な力は、折角絶望を知った彼を楽な道に進ませるかもしれない。

 だからあくまで自分ではなく、他による能力と信じ込ませる必要があった。そこで、イリスが思い付いたのはギルドの更新機(据置型更新専用機械)を利用する事だった。


 その機械は、数年前にやって来た勇者が作り出した現代技術、精密なプログラムで構成されている。イリスは元々大学生、それも工学部で情報専攻をしていた為、プログラムを組む事はさほど難しい事ではなかった。


 夜間、ギルド職員をスキルで洗脳して、数か月をかけてイリスはハルをサポートするAIを完成させるに至った。


「後は頼むわよ。しかるべき時が来たら、貴方からハルに話しかけて頂戴」


「承知しました、創造主様」


 ここまでが、今代の勇者(ハル)の知らない真実。そしてここからは、既に辿って来た事実である。


 ハルがスキルポイント変換を手に入れて、直ぐにイリスは『試練』を課そうと思った。しかし、わざわざ手を加えなくても、彼は新しい仲間と共に強くなっていった。


 イリスが直接関与したのはラベル島で記憶喪失、ハーゼリスとの戦闘。

 威国での『試練』は主に将軍による導き。


 そして今、『最後の試練』にハルは直面している。そして、こうやって思惑通りに辿り着いた訳だが――。


「やぁ、"久しぶり"だね」


 やっぱり目の前にいるハルは、ハルであって『彼』ではなかった。


●●


 あれほど憎しみを抱いた彼等は仲間(いいやつ)だった。

 

 あれほど殺したいと願った女が最愛だった。


 俺は――一度異世界で命を落としてしまっていた。


 そんな事を立て続けに言われて、はいそうですかと納得出来る訳がない。ただ、理解はしてしまった。


 ――記憶を見た、決して歴史には刻まれる事の無い『真勇』の生き様を。


 あれは正しく俺が転移当初に目指していた理想像。紛れもない、もう一人の俺(カグラ・ハル)の生き様。

 もはやこの記憶すらも虚栄と疑うのは失礼に値するレベルの『気高き思い出』だった。


 ―なのに、この体たらくは何だ?


 あれだけの想いが託された俺が、何を掴み取る事が出来た。ライアを失って、ここに来るまでも多くを見捨ててきて…………明らかに悪い方に"変わっている"。

 あの真勇が立てたプランが失敗した、とは考えずらい。それは他ならない俺の失敗だ。


 事実、記憶の最後でイリスは俺を『彼』ではないと言った。


「俺は失敗したのか……?」


 目の前の乙女に抱いていた筈の憤怒の矛先は、何時の間にか自分へと翻った。過去だとか、未来だとか、そんな事を整理するのは二の次だ。


 今、他ならない俺によってその全てが無に帰そうとしているのだから。


「分からない、かな」


「励ますのは止めろ。どう見ても失敗だ」


「何を持って成功とするのか、それを知るのは『彼』だけさ。ただ『天叢雲』――ミコトが君の手にないという事は、まだその『資格』がないという事だ」


 もし俺にその資格が……あの真勇を乗り越えて、魔王を倒す力があるのなら、きっと"あの時"いなくならなかった筈だ。

 ……確か何処かに行かなければと言っていたが、その真意は分からない。見捨てたのか、それとも今も何かを待っているのか。


 どちらにしても、今の俺ではきっとその『剣』を使いこなす事は出来ないだろう。


「間もなく、ここに魔王がやって来る。私はその『選択』を見届けさせて貰うよ」


「失敗したら、又時を戻すのか?」


「あれは禁忌の技。もう多分、二度と使う事は出来ない。だからどっちに転んでも、それが世界の運命となる。――じゃあ、頑張ってね」


 やり直しは聞かないと、残酷な事実を告げてイリスは少し離れた岩場に腰着いた。


 すると彼女の言った通り、月下でもなお輝く紫紺が降り立つ。


「そこに小娘が居て、貴様は浮かない顔をしている。なるほど、どうやら全てを思い出したらしいな」


「…………お前は俺に負けそうか?」


「その瞳、我が唯一の宿敵とは程遠い。貴様は"弱すぎる"、もはや勝てない」


 喜怒哀楽を露にせず傲慢を貫く魔王であっても、今のハルの姿に悲し気にため息を吐いた。


「――しかし侮れぬ。それが貴様という男だ、まだ完全にその瞳は絶望しきっておらぬだろ?そこで、だ。我が生涯の宿敵に敬意を称し、本当の『絶望』を知らしめてやろうぞ」


 魔王が指を鳴らした直後、"夜が晴れた"。沈んだ筈の太陽、微かな月の光を蹴散らす眩い『人口の太陽』が空に出現した。

 闇夜に目が慣れている魔族のアドバンテージを消してしまうその行為だが、対価として"その光景"を見せれるのなら魔王にとって十分なのだろう。


 魔王の背後、荒涼としていた大地には無数の足音が鳴り響く。蠢く波のような闇は一瞬、消えた筈の夜が戻って来たと誤認するが違った。

 それは生物だ。大地を埋め尽くしているのは魔族とモンスターの大群だった。


 言われなくても分かる、冒険都市は既に落ちてしまったのだ。もう数えるのも億劫な程の人が命を落としてしまっている。


「既に王都も陥落した。『騎士王』に『魔術師』、奴らも既にこの世にはおらぬ。仲間は誰一人としておらず、万を超える大群に戦力は"貴様一人"。いっそ憐憫を感じる程、絶望的な状況だ。だがこうも徹底する価値が、貴様にはあった。あの『最終決戦』で送った言葉を、そのまま貴様に問おう」


 ―無謀にも我が前に立ちはだかる者よ。汝は一体何を示す?

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