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『 』の物語

前回の話を間違えて未完成のまま投稿してしまいました!既に見てしまった人は戻ってください!

「どうしてこうなった……」


 今までの『試練』とは訳が違う。

 進むべき道しるべのない暗闇の荒野で、もう何をしていいのか分からない。


 そんな弱音が心を貪って、俺は暫し静止する。狙ってくださいと言わんばかりのその隙を魔族が逃す事はない。


「キャッハー!これで手柄は私のものだゼ!!!!!」


「しまっ――」


 決して生きる気力を失ってしまった訳じゃない。どれだけ辛くて悲しくても、生きなきゃいけないと抗うのが人間のあるべき姿だと思ってる。

 でも、目的を見失ってしまった人間ほど脆い生き物はいない。一度電源を切ってしまった電子機器を再び起動するときに時間が掛かるように、俺はその攻撃に反応する事が出来なかった。

 

 動こうとした時には、鋭い風と共に得物が俺の首筋にひんやり触れた時。このまま首を斬り落とされて――と。


「俺のお抱え冒険者に粗相をしてくれるなよ」


 ドゴォンと。後は振り抜くだけで良かったのに関わらず、その少しの余力共々割って入って来た『衝撃』に吹っ飛ばされてしまう。

 ボールか何かのように真っすぐ突き進む魔族は気を失うだけに留まらず、その勢いで『弾丸』になりて、直線上に居た同族を何人か再起不能にした。


 そしてそれを成したのは、額に大きな傷のある男。俺も知っているギルド職員兼、伝説の冒険者である戦風のレギオ?である。


「お前、本当に強かったのかよ……」


「まぁな。ところで兄ちゃん何やってんだ?」


「俺も聞きたいよ。何もかもが分からない」


「兄ちゃんは分からないからって諦める性質じゃないだろ」


「今回は話が別だ。今までとは訳が違う」


「でも、諦めようとしても諦めきれない。それが俺の知っている冒険者ハルの筈だ」


 …………そうだ、さっきも言ったが諦めてなどいない。この足がまだ動く限りは、精一杯抗い続ける。

 それが俺の生き方だと、何度も決めて実行してきた筈だ。


 だけど――。


「頑張って頑張って。もしかしたらその先には希望があるかもしれない。だが、犠牲は募る。全員を救う事は出来ない、俺は俺の為にこの場で大勢を斬り捨てる事になる」

 

 全員助けてこの局面を切り抜ける。百歩譲って、目に見える範囲だけを助ける。

 そんなどちらも実現する事が出来ないのは明白だった。


 何時もは大口を叩くがそれを許されない程の絶望がここにはある。


 俺だけならどうにか生き残れるかも知れない。だがその果てに居る俺とは、自分以外を斬り捨てたちっぽけでどうしようもない男だ。


 それをどうにも許容する事が出来ず、諦めていないないのに一歩踏み出せない矛盾が発生している。


「…………一つ気になる事がある。兄ちゃんも思っただろ、明らかに戦力が過剰過ぎると」


「あ、ああ。それほど魔族もニンゲン殺しに本腰を入れたって事だろ」


「他の都市はどうなっているか現状が分からないが、それでもこの『冒険都市』に割いている人員が多すぎるぞ。魔族はまだしも、追加でモンスターの大群と来た。明らかに、人間以外の目的がこの都市にはある」


「それがお前には分かるのか?」


「逆に兄ちゃんは分からんのか?」


「…………俺、か?」


 自意識過剰かも知れない。でも、最近身の回りで起きる大事件の中心には大体俺が居て、今回も明らかに他の冒険者と違って魔族から集中攻撃を受けている。

 強い奴を集中して狙うのは当たり前だと言われたらそれまでかも知れないが、先ほどから切り結ぶ魔族達は口を揃えて、まるで俺の事を"倒したら勲章を授与できる程の武功"と口走っていた。


「いや違うが」


「違うのかよ!?」


「…………このままじゃどうせ俺も無職だ。よく聞け、今から機密事項を伝える。――この都市を西に抜けた場所に立ち入り禁止の森があるだろ?更に底を抜けた先に『泉』がある。兄ちゃんはそこに向かえ」


「そこになにかあるのか?」


「俺も分からない。ただ"何か"がある、それだけだ」


「その話を他の冒険者には?」


「するつもりはない。理由は二つ、まずさっき言った魔族の目的が兄ちゃんってのもあながち間違ってないだろうからだ。明らかに兄ちゃんだけは特別視されてる。だからこそ、泉に辿り着く可能性が一番高いと思った」


「買いかぶり過ぎだ。より多くの冒険者に情報を伝えて、可能性を高めた方がいい」


「いいやそれはしない。俺は泉に辿り着けるのは兄ちゃんだけだと信じている。――戦風のレギオとしてじゃなく、冒険者ハルのサポート職員がそう言ってるんだから素直に突き進め、馬鹿冒険者」


 レギオはグッと拳を突き出して、俺の胸をこつんと叩いた。

 何時もそうだった。この男だけは、何時も俺の事を信じてくれる。


 俺を馬鹿にしてきた野郎どもの期待に応えるのは御免だ。

 だけど友の頼みとあらば。


「全く酷い奴だよ。その友情に従うなら、俺は今から無数の屍を超えていかなければならない」


「ああ、そうだ。兄ちゃんには、全てを見捨てて『泉』まで逃げて貰う。だがその果てに救済があると信じて。――願わくば多くを見捨てて全てを取り戻す事を」


 レギオが言い終えると同時に、空に無数の光が宿って一帯に放出された。俺はそれを避ける事無く、ただ西の方角に向かって走り出した。


「それでいい。いけよ、勇者」


 振り返る事はない。もう俺には逃げる事しか出来ない。

 間もなく、背後から凄まじい戦闘の余波が波打つ。きっと恐ろしい敵とレギオが戦ってくれているのだろう。


 気付けば、空はすっかり灰色に染まってしまっていた。


 俺はそんな絶望をただ、駆け抜けていく――。


◆◆


 それは、ある日の出来事。


「戦風のレギオさんですよね!?僕、すぅーごくファンなんです!」


 どこから聞き付けたのか、冒険都市に住まう少年が目をキラキラと輝かせながらレギオの元に訪れた。

 額の傷と共に残る思い出は既に置いて来ている。故、あまり過去を赤裸々と語るつもりはなく、軽い雑談程度で追い返そうとした。


 だがふと、少年がこんな質問を投げかけて来た。


「レギオさんが知っているとっても強い冒険者って誰ですか?」


 それなら答えてやってもいいと、暫しレギオは思考を挟み。


「魔法やスキルの戦いってのは、基本的にじゃんけんみたいなもんだ。相性によっては、弱小魔法使いが著名な魔導士に下克上を果たす事もある。ただその中でも別格なのは、やはりフィリウスだな。他にも、大魔導士のウィール、魔術師や騎士王とかは相性に有無を言わせない」


 と、そんな事を語る為に、わざわざレギオは少年の質問に丁寧に答えてやったわけではない。

 秘密を抱える幼子が思わず意気揚々と口走ってしまうように、ある青年のサポーターをしているギルド職員は言った。


「だけどな坊主、俺はある状況において誰よりも強い冒険者を知ってる」


「それってフィリウス様よりも?」


「それはどうだか分からないが……少なくとも、俺が知ってる中でも一番だな」


「なんかすごそうです。その状況って言うのは何ですか?」


「そうだな……分かり易く言うと"かけっこ"だ」


「足が速いってことです?」


「違うな。そいつは『生き抜く力』に優れている。虫みたいにちっぽけな男だが、生じた光には直ぐに飛び付きやがる。つまりな、生まれながら"逃げの天才"って事だ」


 ―おいレギオ、お前のサポートしてるハルって冒険者が『奈落』に落っこちたってよ!?


 あの時だ。あの時初めて、レギオは彼を凄いと思った。


 奈落は、稀に怒り得るダンジョンの欠陥。其処に落ちると、自らの適正階層から大幅に離れてしまう為、ほぼ100%の確率で死に至る。

 だが一か月もの時を掛けてハルは生還した。その事を思い出したくないと語る事はないが、それは彼の紛れもない『偉業』だ。


 だからこそ、最近の彼の成長には複雑な気持ちを抱いている。

 強くなるほど、逃げる選択肢が減る。勿論、ハルなりに『逃げ』を昇華させて自身の『在り方』に落とし込んでいるのだろうが、それでも強くなると逃げる事が少なくなるのは事実だ。


 だからもし"逃げの天才"である彼が力を得た今、逃げる事だけに集中したのならば。


「でも、逃げたら悪い敵に勝てないよ?」


「基本はそうだが、逃げる事が目的の時も来るはずだ。坊主にゃちと、難しい話だろうがな」


 それにそんな逃げ一択の絶望的な状況、想像したくもないがなと。額の傷を抑えながら、レギオは苦笑した事を覚えている。



 そして時は流れて、"その時"が来た。


「戦風のレギオ、か。弱くなったな」


「ごあっ」


 ハルが場を去ってから数分後、レギオは地に膝を付いていた。久方ぶりに恰好の良いギルド服をブチ破って冒険者らしく荒々と舞ったにも関わらず、既に引退している空白の期間は思っていたよりもずっと重くのしかかった。

 戦場を風の如く駆け抜けていた男は、まるでそよ風の如く魔族に押し返されてしまった。


 だがそれも当然だ。既に冒険者レギオとしての出番は当の昔に終わっていて、ならば冒険都市で戦場の主役を飾る事は出来ない。


「しかし、人間とはこうも栄枯盛衰が激しい生き物だったか。かつて、私の部下は大勢貴様に葬られた。あの頃、私は貴様に恐怖を抱いていた。――今はどうだ、その額の傷は貴様を強き者へと至らしめる『刻印』ではなかったのか」


 寿命の概念がない魔族は、理論上は永遠に生き続ける事が出来る。だから短命なヒューマンのように、数年単位で弱体する事は有り得ない。


 だからこそ、彼等魔族は自らを究極の種族と称している。


「私は今から貴様を殺して、あのヒューマンを追いかける。かつて私は恐怖すると同時、貴様を戦士として賞賛ししていた。その塵際の言葉を魂の片隅に刻もう」


 この場に居る魔族のリーダーの手に魔力が集約する。長い年月をかけて洗練されている、魔法として極まった技術の結晶だった。

 いっそ美しくもあるほどに。


「…………てめぇじゃ、兄ちゃんに追い付けねぇよ。どぶに塗れた鼠の素早さを思い知りやがれ」


 本人が聞けば「言いすぎだろ」と愚痴を零すに違いない台詞を高らかにレギオは言い放った。


「主の包囲網は完璧だ。何処に逃げようとも、鼠一匹残さず滅ぼせるよう包囲網を敷いている。悲しいかな、青年が逃げた西には特にな。私が長を務める第四師団も居る事だ、既に亡き者になっているかも知れぬ」


 そうやって哄笑する魔族に対して、レギオは嘲笑で返す。


「ウェグラス様、急報です」


「噂をすれば、だ。急報という事は、我が師団が青年を討ち取ったのか?」


 何処からともなく駆け付けた配下に問いかけるが、返すのは暫しの沈黙。そして意に沿ぐわない報告に怯えるように視線を伏せながら、


「西の包囲網が突破されました。それも第四師団だけではなく、五、六と」


「――!?ま、待て何を言っている。西を護っているのは、三つの師団の筈。その全てが抜かれた?そのような事有り得る訳なかろう。遂十分前まで奴はこの場に居たのだぞ?広大なこの都市をたかが数分、しかし魔族を全て倒したなど――」


「違うのです。倒された訳じゃないのです。まるで風――いや小さな穴を吹き抜ける隙間風の如く、気付けば視界からの消失を繰り返しているのです!!!」


「何たる失態!今奴は何処に!?」


「あの速度で計算をすると、既に歓楽街に差し掛かった頃です」


「怪鳥を放て。何が何でも、奴を都市外に出すな!」


「で、ですが"あれ"はあまりにも……」


「いいからやるのだァ!!!!!私も直ぐに駆け付けて――」


「やらせねぇよ」


 死にかけの肉体。だが、何時までも悠長と話を聞いているだけの傍観者で居るつもりはない。

 技や魔法、スキルを発動する余力も残って居ない。ただ傍にあった剣で第四師団の主格、ウェグラスの腹部をおざなりに貫く。


「き、貴様――!この程度で、私が死ぬと思うのか。何たる脆弱か」


「ああ、意味の無い事だ。俺はきっとお前に殺される。だけどな、やっぱり負けたくねぇんだよ。主役は譲るといったが、男として最後まで戦いてぇんだよォオオオオオ!」


 男の雄たけびが戦場に木魂する。それはかつて、戦風と呼ばれた者の見っとも無い足掻き。


 既にあの頃の強さはない。数年単位で英雄が移り変わるこの都市では、彼の功績など多くが忘れてしまっている。

 ただその声はかつて戦場に駆けた風よりも高く(はや)く。既に膝を付いてしまった大勢の冒険者、ギルド職員に届いた。


「職員が頑張ってんだ。俺だってなんかやらなくちゃな、カッコ悪くて逝けねぇぜ」


「大人しくしといてくださいよ、レギオさん。先輩のあんたが頑張るんなら、こっちもやるしかなくなっちゃうじゃないですか」


 これはそもそも絶望の物語。仮にこの場で誰が勝って誰が負けても、後世に語り継がれる事はない。

 それでも彼等は戦い続ける。ここは冒険都市、負けず嫌いな野郎どもの集まりなのだから。

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