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意地と納得

2年ぶりの更新です。完結させないで放り投げるのはダメだと思って、再び書き出しました。連日更新して、ちゃんと終わらせる予定です。よろしくどうぞ!!!

「一体、何を――」


「何をしたのかって?そりゃあ、背中を押してやっただけだ。何も特別なこたぁ、やっとらんよ」


「糞野郎が。どうしてこうも、俺の周りにはミステリー野郎が多い」


「あっしは白黒はっきりしてる性格だぜ?それよりも兄さん、喋ってていいのかい?早く立ち上がらないと、殺しちまうよ」


「やってみろよ。――フライデー!!!」


 基礎能力が封じられてしまったのは、原理が分からない以上どうしようもない。それに、俺の有している絶対的な力とは、スキルポイントによる変換能力だ。

 彼女(フライデー)が居て、スキルポイントがあったら、幾らでも状況が打開できる。


――なのに、何時も即答してくれるフライデーからの返答はない。威国に飛ばされた時点で、何時でも連絡を可能にするために、あらかじめ起動した筈だがーー。


「……何処かに落とした?」


「懐探って探してのは、これかい?」


 ユキシロがひらひらと見せ付けて来るのは、黒一色のカードーーフライデーとの対話を可能にするそれだった。

 

「中から凄まじい力を感じるが、どうやって使うんだ?」


 暫くユキシロはカードを物色するが、何も起きる事はない。何故か、フライデーは完全に『沈黙』してしまっている。


 以前、リアにフライデーを起動したままカードを渡した事があったが、彼女の手に渡った瞬間、シャットダウンした。どうやら、制御権の有する俺の手元から離れると、ただの紙切れになるらしい。


 その点、ユキシロに使われる事がないのは良いが、一度手に渡ったら、こちらが取り返すしか方法がない。かといって、今の俺には――、


「そんなに欲しいならくれてやるよい」


「えっ」


 ユキシロはつまらなそうな表情を浮かべて、うんともすんとも言わないカードをこちらに向かって投げて来る。

 当然、唯一の希望であるそれに、俺は水を欲する魚のように飛び付いた。


 あと少しで、力を得る事が出来る。そんな後、数㎝の再開をバッサリと。


「敵に塩は送らんやろうに」


 カードは刀で両断されて、文字通りただの『カード』になった。一応拾って結合を試みるが、真っ二つに成った精密機械が作動する訳がない事は、異世界人の俺が良く分かっている。


 勿論、フライデーが死んだわけではないだろう。ギルドのATM(仮)に行けば、再発行できるかもしれない。


 それでも、果たして其処まで辿り着けるのか。


「これで『不誠実』は無くなったぜよ」


 ……考えた事がなかった訳じゃない。何時か、こんな日が来るのではないかとーー又、無能と呼ばれたあの暗闇に落ちてしまうのではないかと脳裏を何度も過った。


 それでも、神の良心を信じて、ここまで頑張って来た。

 なのに、この仕打ちは何だ。又、記憶を失った時のような『試練』なのか。


「はっ、はは」


「おいおい、頭が可笑しくなりやがったか?」


「違うさ。俺は至って正常だよ。ただ、面白いと思ってな。神とやらは、何時まで経っても俺の事を学習しない」


 本当に神が居るかは置いておいて、俺を苦境に立たせる『運命』は余りに愚かだった。


「まさか、この状況から勝つつもりでいるのかい?」


「勝つ?何だよそれ」


 ハーゼリスの時もそうだったが、そもそも俺は勝つために戦っている訳ではない。

 絶対負けない為に。負けて膝を付かなければ、あの頃の『絶望』はきっと訪れないと信じている。


「……嫌いな眼光だ。自分の弱さを理解していない」


「弱さを理解しているからこそ、前を向ける」


「弱い奴は、前を向く資格なんかないぜよ。――酔いがさめちまった」


 静かな怒気を孕むその言葉。酔いは、一将を制御する力でもあったのだろう。


「その目が諦めるまで、殺してやるぜよ」


「お手柔らかに」


 負けなければいい。ならこの場では一旦逃げて、体勢を立て直すのが先決だ。実際、何時もの俺なら一目散に逃げていたであろう。


 だが、今は状況が違う。ここで逃げれば、俺は変換能力によって得た力頼りのしょうもない男になってしまう。


 だから、迫り来る一将から目を離す事はなかった。


 5.勇気に呼応して強くなる。

 

 その能力のおかげか、さっきよりはマシになった。それでも、埋める事の出来ない基礎能力、何よりも『技』の差が一将との間にあったのだ。


 蹴られて斬られて、転がって。もう内臓までが滅茶苦茶になっても、ユキシロが手を止める事はない。


「諦めたかい?」


「いいや」

 

 そのやり取りだけが何度も続く。


「もういい……辞めろユキシロ」


「反逆者の言う事を聞く事は、職務にないぜよ。あっしは一将、降参も聞き入れるつもりはない」


「くっ、この分からず屋がッ!」


 背後からミコトが強襲。

 

 常人なら反応する事も出来ない一太刀を、俺に意識を向けているにも関わらず、ユキシロが処理する。

 一将として申し分ない実力にミコトは歯軋りする事しか出来なかった。


「はぁはぁ……俺は逃げない」


「今頃意思表明して何に成る?」


「それ、は。俺なりの、意地だ。でも、もし他者が無理やり俺を逃がしたら。そん時は、仕方ない」


 血を拭きながら零して、俺はミコトの方を見る。

 自分で逃げを選択したら駄目だが、他人に助けてもらうのは逃げじゃない。そんな馬鹿馬鹿しい屁理屈を俺は納得している。


 なにせ――。


「俺は臨機応変な男なんでね」


 意地や覚悟と同じ位、臨機応変に『納得』は大事だ。そもそも俺は意思を貫き通す勇者じゃない、そんなのあの糞共に勝手にやらせときゃいいさ。


 散々、逃げない、負けないとは言ったが、もし誰かが俺の事を逃がしてくれたらそれはどちらにも当てはまらない、だろ?


「……お主の事が少し分かった気がする。そして分かった、今から妾は勝手にお主の事を救うとしよう」


 ユキシロに向かって攻撃するのではなく、ミコトは俺の体を横からサッと抱えて距離を取る。


「お嬢がそれを出来るとでも?もはや、ここから兄さんを連れて瞬間移動できる訳でもあるましい」


「そのもはや、に決まっておる」


「何?」


 虚空に空いた穴、先を見通す事の出来ない『黒い狭間』に、ユキシロの眉が吊り上がる。それは冒険都市から数万キロ離れているこの場所に一瞬で辿り着いた、言わばワープゲートという奴だ。


「地下牢からどうやって脱出したのか、今やっと謎が解けたよい」


「数日以内に必ず、報復に来ると誓おう。勿論、妾ではなくハル殿がな」


 ぐるぐると意識が吸い込まれていく――。

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