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轟鉄城

 威国を象徴するその城を、轟鉄城(ごうてつじょう)と呼ぶ。


 その所以は、長い歴史の中で一度たりとも、陥落の危機に陥った事の無いが故だ。


 しかし、その将軍部屋にて。


「将軍サマ、侵入者が来るぜ?っつっても、あんたは既に分かってるだろうが」


 キモノを崩して着用し、肩を曝け出す不作法な男が、あまつさえ酒を飲みながら警鐘を鳴らす。

 対して、この事態をいち早く気付いていながらも、騒ぎ立てる事の無い老躯は静かに片目を瞑った。


「……ようやく来たのだね。遂にこの日がやって来た」


「珍しいな、将軍サマが誰かを待ちわびるなんてよ。さっきの馬鹿でかい太刀筋的に、娘サマだと思うが、そんなに親ばかだったかぜよ?」


「違うよ。私が待ちわびていたのは、その同行者さ」


「確かに、誰か連れてるようだが――」


 見通しの良い将軍部屋の窓から顔を出して、キモノは城に向かってくる二つの影を確認する。酔っているせいもあってか、容貌を確認する事は出来ない。


「将軍サマ、歳の癖に視力良すぎぜよ」


「私は一度も見ていないよ。ただ、分かるのさ」


 見ていないのに、それが待ちわびていた人だと。そんな支離滅裂な事を言う将軍に、キモノはぐびぐびと酒を仰ぐ。


「やっぱり分からんぜよ。将軍サマは、あの鎖国した日から一体何を隠そうとしてるんだぜ?」


「それを言ったら、隠し事ではなくなってしまうよ」


「この部屋にいるのはあっしだけだ。それにこの国にあっしより強い奴はいない。力づくって方法もあるってこたぁ、忘れてないか?」


「君がそれをしたいのなら、すればいいさ」


 それが老躯の諦めではない事は、キモノの鋭い殺気にも動じていない事が伺う事が出来る。

 何より、仮にここで実力行使に出たとして、勝てる訳もなかった。キモノの男――『一将』の地位を授かったユキシロにとっても『将軍』は化け物だった。


「…………自由に酒を飲めるのに、そんな事をしやしないぜよ」


「それは良かった。では、頼めるかな?」


「あっしに出ろって事かい?言っておくが、こちとりゃ年中酔ってるんだぜ?手加減はできない」


 娘――ひいてはもう一人の侵入者は、将軍の会いたかった人ではないのかと。


「構わないよ。もしここまで辿り着けないのなら、それは私の杞憂だったという事だ。それに、『試練』を乗り越えるからこそ、望むべき未来に向かう事が出来る」


「全く分からんぜよ。まあ、本気でやっていいってこたぁ」


 長い黒髪を後ろで結び、酔って虚ろだった赤い瞳を引き締める。


 轟鉄城が鉄壁を誇っているのは、その城の造りや、ましてや将軍に足るが故の強さではない。


 一重に『一将』の――将軍を除き、最も武に精通している威国の男児の存在が大きかった。

 一将とは別に、代々彼らはこう呼ばれている。


 勇者殺し、と。

ミジカクテゴメン!!!

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