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おはようニューワールド

――目を開けると、そこは知らない場所でした。


 俺がこの世界で見て来た中世の街並みとは違う、立ち並ぶ建築物の殆どが木造建築を主流としていてる。

 色鮮やかに彩られている訳ではないが、白木をそのまま使っている故の自然の美しさは新鮮で美しく……何よりも懐かしかった。


 時代こそ違うが、これぞ日本って感じの場所だ。


「驚かないのだな。妾の『時空斬り』を見た者は、皆目を丸くするものだが」


「こういう経験は以前もあったし」


 意識と肉体が分離される加速的空間。

 ここに来るとき感じた感覚は、俺が異世界にやって来た時と同じだった。


「もしかしてお前、異世界行けたりする?」


「すまないが、妾は見知った場所にしか扉を開く事が出来ないのだ」


「なるほど」


 スキルポイントを使って、俺の記憶を渡す事で、甲冑女にとっての『既知』にする事で、帰れそうではあるな。

 まあ、最近夢の中で姉さんと会ったし、別に寂しくないからまだいいかな。


「で、どうして俺をこんな所まで連れて来た?」


「お主には、この国を開国してして欲しい」


「確か、1年前から鎖国してたっけ。具体的には何をすればいい?」


「将軍を――私の父を殺して欲しい」


 告げて甲冑女は兜を外す。堅苦しいさっきまでの姿からは考えられないほど、美しい桃色の長髪だった。

 そして何よりも、その瞳が特徴的だ。右は髪よりも少し淡い桜色だが、左は閃く黄金の瞳だった。


 左右非対称、所謂オッドアイという奴である。因みに精悍さを感じる顔立ちは、洗練された美しさがあった。


「この左目は父が改造した。娘として、何よりこの国の為に父を将軍の座から降ろす必要がある」


「どうせここまで来たら、外に出られない。協力するよ、俺はハルだ」


「ぉおおおお!妾はミコトだ、よろしゅう頼む!」


 パーッと表情を輝かせるミコトには、何処か幼さを感じた。


「本題に戻ろう。殺すって言っても色々方法はあるし、邪魔なだけなら殺す以外の選択肢もある」


「父は正に武士道精神を貫いている男だ。何があっても、己の在り方を変える事はない。他ならない父が『私を止めたければ殺しに来い』と妾にいった」


 魔法が当然の概念として存在しているこの世界で、人の死は身近にある。

 いち冒険者として必要ならばと、割り切っているつもりだが、それでも誰かを殺すのは忌避すべきだ。


「今はそれしか方法がなくても、後で見つかるかも。それでも殺すしかないなら、すればいいさ」


「優しいな、お主は」


「臨機応変に、なるようになれって生きてるだけだよ」


「賢い生き方だ。妾は見ての通りの堅物であるが故、到底真似できない」


「まずは、兜を外したらどうだ?」


「それは出来ない。妾は将軍に盾突く不穏因子として、追われる身にある。将軍の娘、という事で人相は既に広まっており、これを被らねば一瞬でお縄だ」


「でも今、結構な時間外してるけど、大丈夫か?」


 俺にそのオッドアイを見せる為に、既に数分間に及びミコトは兜を脱いでいる。

 当然その桜色の容姿が露呈していて、周囲からもしばしば視線が集まっていた。それだけで事態が収まれば良かったのだが、


「やっと、見つけました――!」


 青色の甲冑に身を包む武士が、民衆の中から一人飛び出してくる。


「不味い。あれは、『七将』のリュウガだ」


「七将?」


「威国は七つの地区に分かれる。それら地区の長――将軍に次ぐ、実力者達を『七刀(しちかたな)』と呼ぶ。彼らを上から、一将、二将、三将と数えて、目の前にいるリュウガが七将の地位を授かっている」


「じゃあ、一番弱いって事じゃね?」


「将の位を授かっている以上、突出した『武』を皆有している。勿論、一番弱くはあるが」


「し、失礼ですね!(それがし)は弱くなどありませぬ!」


 今まで出会って来た冒険者達のような歴戦のオーラは感じなかった。それを言うなら、俺はどうなんだって話にはなるが。


「――アラグニ・ミコト。貴方を反逆の罪で拘束します」


「それはできない。妾はまだ叛逆を終えていないのだから」


 七将が刀に手を置き、鋭く目を光らせるする。


 兜を再び被ったミコトも又、何時でも応戦できる態勢に入る。しかし、思い出したように体を震わせて、俺に向かってバシっと指をさした。


「丁度良い。リュウガよ、こやつが妾の選ぶ『剣』だ」


「なっ……!正気ですかッ!」


「妾は妄言が嫌いだ。言葉にした全てを、今まで実行し成功してきた」


「彼が『威国』の誰よりも――将軍様よりも勝ると?」


 ミコトが静かに肯定すると、七将の視線が俺に移る。

 ただ護衛としての『剣』ではなく、何か深い意味がありそうだが、それは後々聞くとして。


「ならばその剣、早々に折らせて頂きます。異邦のお方に、某が負ける道理はない」


「その根拠は?」


「威国では、己の肉体と技こそが至高とされる。幼き頃から神の叡智である『スキル』を一切断っている」


 スキルがあるが故に、AランクやSランク冒険者であっても、基礎能力や技に長けていない者は大勢いる。

 確かに、高い基礎能力や技はスキルの有無を無視して、逆に凌駕する事もある。


「一撃で落とす――雲斬りッ!」


 ならどちらも『無スキル』の場合、当然、基礎能力や技の優劣が戦いを左右する。


 そして技はまだしも、スキルポイントによって得た俺の基礎能力は絶対に負けない。七将に――威国の男児達にとって、俺という存在だけが唯一の例外だったのだ。


 間合いを無視して飛んでくる斬撃、それを力任せに斬り落とす。驚きに目を丸くした七将に、俺の追撃が走る。


 状況を打開するスキルの無い七将に、王手まで進められている駒を押し退ける方法はない。


「ば、かな――」


 剣を喉にあてがって、実質的な勝利宣言を下す。


「俺の勝ちでいい?」


「体の使い方は全くなってないと言うのに、何という速度と力……一体、どんなスキルを――」


「そうだな……強いて言うなら、『無スキル』っていうスキルだな」


 本人に限っては真面目、しかし余りにも滅茶苦茶な敗北の理由に、七将自慢の刀がその手からすり抜けたのだった。

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