人斬り侍との超高速的会合
「人斬りだって?」
ライアとリア達が王都に出発してから3日、俺はレギオから呼び出されてギルドに足を運んでいた。
てっきり先日頼んだ上等な武器の新調かと思って来てみれば、そんな話を聞いたのである。
「ああ。ここ最近、様々な都市で人を斬り捨てて颯爽と姿を消す『人斬り』が話題になっている。そして昨日、この都市でも目撃情報が多発した」
「俺に止めろって事か?そんなの、冒険者に依頼すればいいだろ」
「それが出来ないから、兄ちゃんを呼んだんだよ。生憎、名立たる冒険者は魔王軍迎撃や、数日後の『武勇祭』に駆り出されちまってる」
「それなら――」
「数の利が通用しない程の、手練れ。後の説明は必要か?」
「なるほど。因みに報酬は?」
「貴族の領土にもちょっかいかけてるからな。ギルドが用意しているのは、1億ゴールドーー」
「受けよう。全く、俺のような暇人が都市に残ってて良かったな」
勇者の効果は、経験値を倍増させて基礎能力上昇速度も向上させる。
だが、それだけだ。どれだけスキルポイントを振り分けても、金になりゃしない。思うと、最近は慈善事業染みた事ばかりやってる。
リアを助けた時や、エルフの女王を救った時。ハーゼリスを倒した時も、『依頼』ではない為、金は貰っていない。
それすなわち、俺は深刻な金欠である。
「で、目撃情報の詳細を教えてくれ」
「人斬りは、白昼堂々と現れるらしい。『甲冑』と呼ばれる鎧を纏った奇妙な姿だと」
甲冑……武士とか戦国武将が着ているあれだろうか。
と、丁度良い所に、それらしい服装の奴がギルドに入って来た。
「あんな感じか?」
「そうそう。それで、突然問いかけてくるんだってよ。お前は――」
「お前は剣に足るものか?」
「何だ兄ちゃん、知ってるのかよ」
「いや、俺は喋ってないが…………」
レギオの声を遮った声の主を振り返ると、先ほど入って来た甲冑の姿があった。
そして他ならない彼――いや彼女が零した台詞こそ、人斬りの特徴だとレギオは言ったのだ。
それを理解すると同時だった。
鞘に手をあて、剣――いや、刀を抜く。そのまま俺の反応を待つことなく、長い刀身が閃いた。
基礎能力に伴った成長した筈の動体視力であっても、咄嗟に反応する事の出来ない一閃。
「ふん!」
振り下ろされる長物を、間一髪の所でタイミングを合わせて両の掌で止める技……真剣白刃取りという奴があった筈だ。
それを真似してみたが、パチンと。刀ではなく、俺が捉えたのは自分の掌だった。
(あっやべ。これ、死ぬ――)
何故剣で応戦しなかったのか。そんな後悔をする暇もなく、死の気配が濃密に俺の体を纏わり付く。
次の瞬間、ピタリと。脳内で予想していた未来と違って、刀は俺の鼻先寸前で止まったのだ。
がちゃりがちゃりと。甲冑の音を豪快に鳴らしながら、甲冑女がそのまま近づいて来る。そしてグッと、俺の顎を引いて、
「顔はかなり悪い」
「うるせぇよ!」
「だけど、逸材だ。わざわざそんな間抜けなポーズを取ったのは、最初から妾が刀を止める事が分かっていたから。違うか?」
「は、はい」
真実は全く違うが、この距離で否定すると斬られてしまいそうだ。
「やっと、やっと見つけた……お主が妾の剣だ」
籠った声でそう零す彼女の声は、少し震えている。
「あのー……」
周囲の視線が集まっている。彼らは勿論、俺も全く状況の理解が出来ていない。
「詳しい事は後程。ただ、妾の助けになってくれないだろうか?」
意味が分からなかった。いきなり斬りかかってくる奴を助ける義理はない。
でも、その声が余りにも真摯に訴えかけてくるものだから。
「その兜の下、美人か?」
「――?自身を大切に扱ってこなかった妾に、美を語る資格はない。ただ、素材は良いと保証する」
「なら乗った」
別にそこまで好色じゃないが、美人は見ていて目の保養になる。なら、助けてやってもいいかも知れないと思った。
「では赴こう。我が祖国――『威国』へと」
「ん?今お前何て――」
甲冑女が刀を虚空に向かって振う。
ぶわんと、何十層にも重なった振動が鳴り響き、何もなかった空間に『黒い狭間』が現れる。
先を見通す事も出来ない得体の知れないそれに、俺は無理やり引きずり込まれていく――。




