分岐点
「更新は終わったかな?」
「ああ、終わったぞ。リアはどこに行ったんだ?」
「彼女は、何時もの所だよ」
又、妹に会いに行ってるのか。姉さんが居る俺も、気持ちは分からなくないが、それにしてもシスコンだな。
以前、ミアと会ったのは少し前だし、どれだけ元気になったか気になるが、会ったら会ったでとんでもない事を言い出しそうだな。
「そうそう。君宛に手紙が届いてるらしいから、郵便口に来いって職員が言ってたよ」
「手紙か?分かった」
俺は直ぐにギルドの郵便口に行ってみると、受付の獣人のお姉さんがこちらに気付いて、耳をぴくりと揺らす。
「ハル様ですね。王都から手紙が届いております?」
「はっ。今更、何の話だよ」
王都と聞いた瞬間、俺は唾を吐き捨てるような反応をする。
俺をこの国に召喚したのは王都の魔導士協会、そして勇者パーティーを追放された後、早々に無能だと見切りを付けたあいつらは援助を止めやがった。
呼び出した責務……資金提供だけでも果たしてくれたなら、俺は苦労しなかった筈だ。
「捨てといてくれ」
「それは出来かねます」
「どうしてだ?」
「言わばこれは、王命よりも重き強制命令――フィリウス様の要望だからです」
先ほど知ったばかりの名が飛び出してくる。どうやら、今更俺の実力を認めた魔導士協会からの手紙ではなく、別件らしい。
前言撤回。大人しく手紙を受け取った俺は、一度外に出た。
何か、こういう強者からの手紙ってワクワクするよね。
「それで何の手紙だったんだい?」
「それが何と、あのフィリウスかららしい」
「人類最強の男……驚くべき事はないね。彼も、君の実力に気付いたのだろう」
「お前、俺の実力過大評価しすぎじゃない?」
「謙遜は美徳だけど、僕の目は誤魔化せない」
再三、謎のハル賞賛を辞めさせようとしているが、ライアは全く聞く耳を持っちゃくれない。
もうめんどくさいので、そう言う事ならそう言う事にしておこう。
「内容を聞いてもいいかな?」
「俺も今から開ける所だ。びりびりっと」
手紙や荷物を開ける時、梱包を丁寧に開けるのか、それともおもむろに破るのか。人はそのどちらかに分類されると思うが、俺は後者である。
「折角の梱包を君は……」とライアが呆れている間に、俺は手紙に目を通す。
- - - - -
貴方を『武勇祭』に招待します。
最強の男より
- - - - -
何とも簡潔で、分かり易い文だった。
恐らく、英雄と呼ばれる強者として、俺を見定めようといった魂胆だろう。
「ライア、この武勇祭ってのは?」
「4年に一度行われる祭典だよ。トーナメント形式で、大陸中から集まった強者たちが優勝を目指して命を削り合う」
「フィリウスも出るなら、他の奴らに希望はないんじゃ……」
「優勝できなくても、観客には各国の王や騎士団、名立たる冒険者など、著名な人達が居る。優勝できなくても、彼等に実力を見せ付ける事で得られるものは多いからね」
気に入って雇って貰ったり、パーティーに誘われたり……。そんなとこだろうか。
「で、君は行くのかい?」
仮に俺が出たとして、正直スキルポイント無しではかなり苦戦を強いられるだろう。かといって、対人では余り経験値を得る事が出来ず、使った分のポイントが還って来る事はない。
俺がもし、強者との戦闘を糧に強くなる系主人公なら迷わずに行くが、最終的に必要なのは経験値――ひいてはポイントだ。
別に最強の男に「逃げた兎野郎」って思われてもいいし。
「めんどくさいから、辞めとく」
何よりも、王都はここから結構時間がかかる。
――新しい物語の予感は、10秒で終わりを告げたのだった。
「……ならその手紙、貰っていいかな?」
「別にいいが」
「ありがとう、大事に使わせて貰うよ」
「その企むような笑顔……一応聞くが、一体何に使う」
「デート、かな?」
何時まで経っても、金髪の美少年を図る事は出来なさそうだと、俺は静かに嘆息した。
●●
「おっと。危ない、危ない。二人とも、大丈夫かい?」
ガタンと、敷石の段差に馬車が揺れる。ライアは優男らしく動じずに、同乗している二人に話しかけてた。
「うん、大丈夫だよ」
一人は、翡翠色の瞳が特徴的な少女。年齢には少し不相応な未発達な体を持つ彼女の名はミアだ。
最近まで、自分の外を歩く事も許されなかった少女は、馬車の外の世界にせわしくなく足をバタバタしている。
一方、その隣。
「なんで、私がてめぇと二人で王都にいかなきゃならんのだ」
機嫌が悪そうに頬杖を付くのは、同じ翡翠でも、似ても似つかない凶暴さを有する愛しの君――リアだった。
「僕は引き返しても構わないよ。でも、ミアはそれを許すかな?」
「お姉ちゃん……」
「うっ……そりゃ、反則だ!」
「何よりも、この手紙がないと君は『武勇祭』に出られない。そうだろ?」
以前のデートは、まごうことなき『大敗』に終わった。ライアはずっと、挽回の時を伺ってきたわけだが、そんな時に丁度ハルが王都の手紙を断った。
そこでふと、思い付いたのである。
デートに誘っても、正当法ではリアは答えてくれない。なら、彼女の闘争心を擽ればいい。
本来、『武勇祭』は招待された人しか出場する事が出来ないのだから。
ハルの招待状を使って、リアが出場する。一見、不可能とも感じるその作戦だが、彼女には『変身スキル』がある。
背の高くしなやかな筋肉を有するリアだが、それでも男性との骨格には差があるのは事実だ。それは幅の大きな服を着る事で隠す事が出来る。
ライアの提案に悩んだ挙句、ミアも同伴という条件付きで、こうして三人で王都に向かっている訳である。
一対一でのデートを望むライアにとって、ミアは邪魔者にも感じるが、妹である彼女を手懐けておくのは悪くない戦略だ。
「おい、糞金髪。私に1m以上近付くな、それが同行の条件だ」
「同行してるのは君なんだけど……でも、分かったよ」
「何だ、やけに聞き分けがいいが」
「君だけじゃなく、ここにはミアが居るからね。ね?麗しの君」
そう言って、ライアはミアの手の甲に口付けをする。さながら騎士様のような振舞に、狭い部屋で本を読んでばかりだった物語脳は嬉しそうに笑った。
「ライアさんすき」
「てめぇ、瞳で魅了しやがったのか!?」
「されてないよ」
他ならないミアの否定に、ぐぬぬとリアは押し黙る。
ミアがライアのそばに居るなら、彼女からこちらに近付いてくるしかない。簡単で、意地悪なやり方だ。
「ねぇお兄さん。私のお姉ちゃん、貰ってくれるの?」
「僕はそのつもりでいるけど、彼女はそれを許してくれないのさ」
「ならさ、もしお兄さんがフラれちゃったら、わたしと結婚しようよ」
「勿論、大歓迎だよ」
勝手に進められていく話に、遂にリアの怒りは爆発する。
「ざけんじゃねぇ!おいミア、こんなチビの何処がいいんだ」
「そう怒らない。ミアだって軽い冗談で――」
「だって、お兄さんイケメンだし、いっぱいお金持ってそうだもん。ハルお兄ちゃんと違って、めっちゃ優良物件だし」
「…………僕は君が恐ろしいよ」
純粋無垢な笑顔で淡々と語るミアは、姉よりもずっと恐ろしかった。




