仲間が増えた!
「よお、ハルお疲れぃ」
家を持つ資金のないハルは、無理を言って住まわせて貰っている宿に戻った。
しなやかな肉体に褐色の肌、アマゾネスと呼ばれる種族のニーニャは、見た目通りの好戦的な性格である。
しかし透き通る翡翠の瞳は、彼女がぎりぎり女性であることを俺に認識させてくれる。
この異世界で数少ない俺と懇意にしてくれてる人。エルフのお姉さんや可愛い獣人じゃないのは少し残念だが、それでもいい奴なのは違いない。
「ニーニャもお疲れ。食事を頼む」
「おう、少し待ってろ。いつものでいいな?」
ニーニャは料理を作るために奥の厨房に消えていった。ベッドの寝心地は微妙だけど、飯は美味いんだよなぁ……待ってる間暇だし今日の事でも考えよう。
確かにスキルポイントの変換はチート級の裏技だが、レベルを上げてこそ本領を発揮するから、爆発的に強くなる事は出来ない。
正直、ソロのままでは強くなるのに何年もかかってしまう。
再三レギオが言っているように、パーティーでも組もうか……だが、無能勇者として名高い俺とは誰も組まないだろうし。
実際、勇者パーティから除外されて以降、何度かパーティーメンバーを探したが誰も組んじゃくれなかった。
「何神妙な顔つきしてんだ?ほい、お待ち」
テーブルに並んだのは、色とりどりの和食によく似たものだ。この世界に和食の文化はないらしいが、それっぽい料理ならあるのでほぼ毎日食べている。
「私も食事がまだだったから、隣で勝手に食わせてもらうぜ」
「ちょうど俺も話がしたかったんだよ」
「何だ?話って。遂に私を口説きに来たのか?すまん、私弱い男は無理なんだ……」
「ニーニャ前冒険者やってたって言ってたよな?ランクはいくつだ?」
何も言ってないのに勝手に失恋して、罵倒されたことはさておき話を進める。
そう、俺の数少ない友人であるニーニャに自分より上の冒険者とパーティーを組んでレベルを上げてもらう、所謂レベリングをしてもらおうという魂胆だ。
「ああ、昔2年間だけやってたぜ。ランクは……たしかCだった。」
「折り入って頼みがあるんだが、パーティーを組んでくれないか?」
「おお、いいぜ」
「やっぱりだめか……なあどうすれば……って、え?いいのか?」
「どうせ宿の仕事は夜だけだしな。私とお前の仲だろ?それにこの宿のお得意様でもあるからな」
「まだ、1年程度の仲だけどな……ありがとう。それで明日から行けるか?」
「ああ、行けるが1つだけいいか?受けたい依頼があるんだがーー」
~次の日~
「うぉおおおおおおおおおお!」
周囲の至る所で、鍔迫り合いの音――鉄の狂乱が舞い上がる。
しかしそれを只の雑音で終わらせないのは、無数の足音と掛け声だった。
――そう、ここは紛れもない戦場である。
俺たちは街を出て、東北10kmに位置する"ある砦"に来ていた。この砦は最近作られた物であり、その理由は"あいつら"である。
「ギォォオオ」
全身を板金鎧で覆い、唯一外を見るために空いている兜の中からは深淵を覗かせるそいつの名前は『無苦の兵』。
魔王が板金鎧に魂を与えることによって作られたモンスターであり、1体の強さ的にはEランク冒険者と大差はない。
だが、こいつらの厄介な所が2つある。まずは、量が多すぎること。
毎回約200~300匹程進行してくるため、今も撃退するのに何十人もの冒険者で撃退している。
次に、出現場所だ。こいつは川を泳ぐことが出来る為、どこにでも現れる。魔王城から遠く離れたこの地に現れるのもそれが原因だ。あと、俺には関係ないことだが『魔法』が効かない。
「ギォォォ」
「どりゃあ!」
無垢の兵が槍を持ちこちらへ突撃してくるを回避し、兜と甲冑の間に剣を通すように振り分離させると『星の欠片』を残し塵となった。
この星の数により報酬は変動するので、保管しておく必要がある。
「ヴォオォオ」
俺も無垢の兵を撃退しつつ、拾い忘れている星をこっそり拾っていく。
他の冒険者のドロップ品を奪うのはルール違反だが、忘れてる奴が悪い、うん!
「ふはは。これで、新しい剣が――ってぉあ!?」
背後に気配を感じて素早く振り向くと、無垢の兵が槍を持った右手を振り上げる瞬間だった。
当然、俺の驚嘆に慈悲を与えてくれる筈もなく、亡霊らしい浅い踏み込みで突き刺そうと――、
「よそ見してんじゃねぇぞ!ハル!」
俺が突き刺される前に、近くで戦っていたニーニャが援護に入り、文字通り板金鎧を"バラバラ"に打ち壊し塵へと化した。
彼女の戦い方はなんとも豪快で、何も武器は持たず素手で戦っている。
俺を助けたのも、あくまで次いでと言わんばかりに、目を血走りながらニーニャは猛攻を続ける。
魔王が復活してから強い冒険者は他の重要な依頼に回されることが多くなったため、ほとんどがE,F,Dの下位ランクを占めるこの戦場の中で、ニーニャは異彩を放っているが……。
「オォオオラァ!!」
俺がギリギリ視界で捉えられる距離にいる、顔面にドラゴンタトゥーを刻むスキンヘッドの男が斧を縦横無尽に振り回している。
嫌でも目には居るその容姿――何よりもその豪快な戦い方に、先ほどからふと目を奪われているが、毎回一振りで4~5体は倒していて、恐らくこの戦場の中では一番の実力者だろう。
俺もここは、実力を見せるしかないな。
「ファイヤースラッシュ!!」
「ギグェ」
次は分離させるのではなく、甲冑の腹のあたりを狙い思いっきり、剣を振り抜いた。
だが、甲冑を両断することはかなわず、甲冑の真ん中で剣が引っ掛かり動かなくなってしまう。
「くっ、ドラゴンインパクト!」
動かなくなった剣を直ぐに手放し、そのまま屈伸、そして跳躍。
見事なアッパーをかましてやった。
からっと、兜と甲冑が分離されて塵となる。先ほどの反省を生かして、直ぐに俺は次の敵に備えるが……どうやらほとんど掃討されてしまったようで、何時の間にか喧騒は途絶えてしまっていた。
「さっきから魔法も使えねのに何ぶつぶついってやがるんだ?」
「――気持ちだよ!気持ち!」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
見られてたのか……今度からは控えることにしよう。