希望の果ての希望
太陽が沈んでいく。
代わりの希望は、もうこの場に居ない。
「最初にちゃんと確殺しておくべきだったと、後悔した。だが所詮、お前は只のヒューマンだった。結局、邪神の土俵に立つ事も出来ない」
戦う為ではなく、痛みを堪える為に俺は剣を握る。
最初から、無謀だったのだ。
この身は所詮、異世界で勇気を捨ててしまった男が記憶を失っただけの姿。ならば、少しの虚勢は抱けても、本当の勇気抱く事は出来ない。
「立て!!!ハル!」
1度は俺の奮闘に、希望を見いだした他の冒険者達が再度絶望した表情をしている中、膝を付く俺の姿にリアが怒号を飛ばす。
「俺は、貴方達が信頼するハルじゃない。俺に勇気は…………」
「勇気……?勇気だと、てめぇ。何ぬかしてやがる。ハルはな、小心者で捻くれてて、勇気の欠片もありゃしない。それでも、やるときゃやって来た」
「でも、俺は記憶がない」
「だからどうした?てめぇもハルだろ、なら出来ねぇ道理はねぇよ」
一理あるが、その強さはハルがこの世界で1年で突き詰めた強さだ。
それをヒントもなしに、理解して実行するには無理がある。
「言葉は済んだかな」
短く告げて、死の足音が近付いてくる。
今度は確実に命を刈り取る為に、復活の余地を与えない為に、邪神は右手に黒い炎を纏った。
「これで確実に、お前を消す。ご苦労だったね」
日が沈む。命が、暗闇に……。
「なるようになれ、だ!」
諦めに浸る心に、小石が投げ込まれる。
余りにも説明不足だ。
その台詞がはたして、どんな意味を持つのか分からない。
でもなぜだろうか、嫌いじゃなかった。お利口さんには到底受け入れる事の出来ないその言葉が、やけに耳障りが良く聞こえた。
――どうせ、このままだと尽きる命だ。
「なるようになれ、か」
再び、光は浮上する。
「なっ……!?」
「これは……勇気。どうして――」
なくなった筈の勇気が宿って、真勇が暗闇を払う。
――何となく。何となく、どうして勇気の欠片もないハルが強かったのか分かった気がする。
勝てなくても、"負けない"精神が――なるようになれ、と。何処までも汚く抗うその精神が……決して枯れる事の無い『無謀の勇気』があったから。
記憶を失ったのは、きっとこの為だった。
その勇気とは呼べない『勇気』を自覚する為だった。
駆ける、巡る、落ちる。失った筈のありとあらゆる記憶が、頭のピースを埋めていく。
やがて完成したのは、礼儀の欠片もない青年。
だけどその顔は、一点の曇りもなし。
「ぶっ殺してやる、糞邪神が」
何時だって俺はそうだった。口にはしても、今までの戦いで絶対勝てると思った時なんて一度もない。それはきっと、俺が『絶望』を知ってるから。
どれだけ強くなっても、弱い自分が脳裏を過る。
でも絶望を知ってるからこそ、俺は今まで勝利して来た。どれだけの苦境にあっても、『あの一年』が俺を奮い立たせる。
「何時もそうだ、お前達は……逆境に立って、初めて土俵に立ってくる。本当に本当に、これ程煩わしい対話は久しぶりだ」
俺の名前はハル、この糞ったれな異世界が大っ嫌いな無能勇者だ。




