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見返し

 スマホゲームってのは、大体『お金』の概念がある。

 ゴールドだとか、円だとか……勿論、そのゲームの世界観によって多種多様だが、唯一同じなのは、それがあっと言う間に溜まる事だ。


 当然ゲームの中なのだから、クエストやミッションをクリアすれば、膨大な量がゲットできる。


 そんな時、ふと。


 こんな簡単に一杯お金が手に入ればなー、と。


 俺は呟いた事を覚えている。

 そして俺が今陥っている状況は、まさにそれだった。


 何が言いたいかというと――。


 ―有り得る筈もない事が起きて、人生が変わろうとしている。


 しかし、一歩使い方を間違えると、破滅に向かう可能性も否めない。

 一旦振り分けるのは辞めといて、レギオに話を聞いておくことにした。


 ――結果、そんな事が出来るとは聞いたことがないらしい。

 そもそもスキルを持っていない奴なんて前例がないので「まあ、兄ちゃんならそういうこともあるんじゃねぇか?」とあっさり返されてしまった。


 長年ギルドで働いて、沢山の冒険者と顔見知りのレギオが知らないなら、何が起こっているのか追求するのは不可能に近いだろう。

 ……ならば、と。


 意を決した俺はATM(仮)に戻って、今回は一番効果がありそうな勇者の熟練度に振り分けてみることにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

勇者 熟練度★2 7ポイントが必要

1.基礎能力向上速度アップ 

2.レベル上昇速度アップ    

3.上記二つの効果を、五割に及び仲間と認めた者に付与する。

4.職業を2個まで兼用できる  

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 当然というべきか、次に要求されるポイントの量は多くなるらしい。

 ……しかし特に効果が変わった感覚はないが、これは1回戦って確認するしかないか?


「おいレギオ、ゴブリンリーダーの依頼はあるか?」


「おいおいそれは冗談でもおすすめしないぜ?兄ちゃんまだEランクだろ?ゴブリンリーダーのソロの推奨ランクはCだぞ?」


「さっき"あれ"を見せただろう?倒せる秘策があるんだよ。」


 もちろん、"あれ"とはスキルポイントの話である。一応他の人には話さないように、レギオには念を入れておいた。

 

 調子に乗って吹聴して、何か問題に発展する事は防ぎたい。

 その"何か"に検討は付かないが、異世界が甘くない事を誰よりも知っている俺は、案外保守的なのである。


「どうせ止めても行くだろうしな。分かった、生きて帰ろよ兄ちゃん。」


 いつものふざけた口調ではなく、真剣な眼差しとともにこちらに呼びかけてくる。やはり、俺の様に『冒険』をして戻ってこなかった人は大勢いるのだろう。


 俺はゴブリンリーダーが生息する森の更に奥地へ赴くことにした。



「ハアアアッ!」


 助走を付け、体を両断するように剣を一閃させる。普通のゴブリンが人間の腰くらいの大きさに対し、胸のあたりまでの大きさを誇るこいつこそがゴブリンリーダーだ。


「ギェ!」


 人では理解できない鳴き声とともに、携帯している棍棒(こんぼう)を咄嗟に使い、攻撃を受け流されてしまう。そして、俺の体制が崩れたところでゴブリンリーダーは棍棒を抱える右手を空高く挙げ、カウンターの体制に入った。


「遅い!」


「ギェエ」


姿勢を崩したまま、弧を描くように剣を首元へと振って、ゴブリンリーダーは塵へと化した。


「よし!」


 確かに手に乗る感触と共に、俺は拳を突き上げる。

 やはり、俺の授かった力は途轍もない代物で、円滑に、尚且つ無傷でゴブリンリーダーを倒す事に成功して――


「ないわ!」


 拳は……恐らく割れている。

 額からは視界を覆う程の血が溢れ出しているし、手当てをしなければ一時間も掛からずに命尽きる程の重傷だった。


 思い込みの力のおかげか、途中までは高揚感で何時も以上のパフォーマンスを披露する事が出来たが、いざ攻撃を被って我に返るとそんな事はなかった。

 

 せいぜいLevelが1上がったことによる、戦闘力の向上しか見られなかったのだ。

- - - - -

-Name ハル -

Level-5→6

HP-160→173 E→D  

力-120→130 E

防御-90→ 97 E

敏捷性-100→108 E→D

- - - - -


「レベルアップ、か。割に合うのか合わないんだか……」


 1年冒険して4しか上がらなかったレベルが、僅か一戦で向上したが、命を落としていた可能性は十二分にあった。

 ――いや、待てよ。ステータスの1レベルごとのトータル上昇幅は前回のレベルアップ時がたしか29くらいに対し今回は38。約1.3倍になっている。


 この結果から、勇者の熟練度は確かに上がっていたと結論付いた。

 と、そもそもよく考えると、『勇者』の効果に実力を底上げする記述はなかった筈だ。


 冷静で居たつもりだったが、知らず内に高揚感に浸ってしまっていたのだろう。

 深く、反省である。


 ドロップ品の大きな棍棒を道具に収納し、俺はギルドに戻ることにした。


「おお、兄ちゃん無事だったか・・・・ってそうでもなさそうだな、早く治療して来いよ」


 真っ赤に染まる額をタオルで抑えて、千鳥足のような歩き方でギルドに戻った俺は、直ぐに治療をしてもらった。

 常備している回復薬を使ってもよかったんだが、ギルドの専属の回復術師が無料で回復してくれるのでここまで歩いてきたのだ。


 落ちこぼれ勇者は当然金欠なのである。


~そして、一日後~


 割れた拳以外、すっかり完治した俺は再びレギオの元を訪れる。


「それで、その様子だとやっぱり負けたのか?」


「いいや、ギリギリだが倒せたぞ」


 証拠として、ドロップ品をレギオに叩きつけてやった。


「流石勇者ってところか?」


「勇者で思い出したが、俺以外の勇者は最近どうだ?」


「最近は魔王の幹部の1人を倒したらしいぞ、どうした?新しい力に目覚めたから勇者パーティーに戻りたくなったのか?」


「いいや……」


 元々この世界に俺が召喚されたのは、魔王が復活しモンスターの勢力が増し、それらを鎮静化させる為だ。

 しかし、そんな事は既に勇者の称号を捨てた――いや、強制的に捨てる事になった俺からすればどうでもいい。


 俺をパーティーから除外した"あいつら"を――無能だと嘲笑った奴らを見返すにはどうすればいいか。


 血と苦痛を伴う『報復』、『復讐』。そんな選択肢もある。


 でも後味が悪い事はしたくない。


 なら屈辱を――生涯拭う事の出来ない精神的な苦痛を。


 "全てが間違っていた"と、思わせてやりたい。

 あの時、俺を――ハルを見捨てなければ良かったと。勇者パーティーだけではなく、全ての冒険者に。


「……じゃあ、俺は疲れたから帰るよ」


「待てよ兄ちゃん、お前さんなんか危なっかしい目してるぜ?そろそろ仲間でも見つけたらどうだ?」


「考えておくよ」


 ATM(仮)でステータスの更新を済ませ、ギルドから出て空を見上げると、焼け爛れた真っ赤に染まっていた。


 それはあるいは、俺の瞳に滾る熱意の色かも知れない。


 ――魔王を倒す。


 それが俺なりの……元勇者、現『無能』が出来る最大限の復讐だった。

誤字や醜い文章は許して!!

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