デートorファイト
評価あざます!!
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-Name ハル- Rank C
Level 18→30 スキルポイント2→59
HP-307→502 C→B+
力-230→392 C→B+
防御-183→313 D→B
敏捷力-456→618 B+→A
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今回は敵の数が多かった為か滅茶苦茶レベルが上がった。スキルポイントも沢山ゲットしたし、正直、ライアに借りなくても俺が助力すればいいだけだが……面白そうなので、それはやめておくことにした。
「――ってことなんだけど、君さっきから話聞いてるかい?」
突然のデートの誘い。ひと悶着ありつつも、背に腹は代えられないとリアは承諾した。
「用意?そんなの必要ねぇだろ。1時間後、中央のでかい噴水に来い。私は少し、やるべきことがある」
と女性として、デートのために諸々の準備をやる気は毛頭ないと言わんばかりの発言とともに、約束は取り付けられた。
「ああ、リアの好きな物だよな?」
その1時間でライアに喫茶店に誘われた俺は、こうして質問攻めにあっているわけだ。
「またどうしてリアなんだ?」
「彼女の強さに惹かれてね、それに僕の魅了も効かないし」
『万能薬』の話は嘘だったが、伴侶を探している事は偽りがないらしい。
というか、無言で俺たちを戦闘に巻き込んだのも、彼女の――リアの強さを見定める為だったと。
「俺たちが死んだらどうしてたんだよ……」
「僕の眼は、君たちの勝利を疑っていなかった。それにこうして生きてる、だろ?」
「その考えは嫌いじゃないが……しかし、俺に好物を聞かれてもなぁ。――多分、甘いものとか好きだろ。多分」
「ふむ。参考にしておくよ」
口の回るライアとの会話は退屈せずに、あっという間に一時間が経った。
ライアが装着する腕時計が定刻を示すとともに、俺たちは集合場所の噴水に向かうと、既にリアの姿がある。
遠くからでも分かる、何ともひどいしかめっ面だった。
「用事は終わったのかい?」
「はっ」
「それは良かった。では、行こうか」
「はっ!」
「そう邪険に扱わないでくれよ。それに、そんなに怒ると折角の美しさが――」
「はっ!!!!!」
いじける子供のように、リアは話を取り合わない。
恐らく、デートはするといったが、その内容に関しては契約外だと、そんな理屈を示したいのだろう。
実際、その服装はデート用のあしらい品ではなく、水を彷彿とさせる戦闘衣だ。
きっとこのままでは、リアは永遠に「はっ」を貫く。何なら隙を見て、逃げ出すかも。
それはライアにとっては益体のない時間を過ごすことになるし、この後、背後から観察するつもりである俺にとっては面白くない。
「……照れてるのか?」
「て、照れてるわけねぇだろ!」
「だってお前、デートとかしたことないだろ」
「何を根拠に……!」
「だってお前、脳筋馬鹿じゃん。お?殴るのか?それは、俺の言ったことを肯定することになるぞ」
「っぁ~~~~~~~~~!!!」
プライドが高いのに、あほ。
何とも扱いやすいのがリアという女性である。
歯ぎしりをして、今にも飛びかかろうとするリアだったが、それをすれば男性経験がないことを肯定することになる。
まあ、そんなこと分かりきっている為、見栄を張る必要はないのだが……。
「わかった……わかったよ!やってやらぁ」
「ふむ、なるほど。君がどういう女性なのか、段々と分かってきたよ」
「るせぇ。さっさと行くぞ」
「女性である君に先行されると、僕の立つ瀬がないね。でもじゃあ、エスコートをお願いしようかな?」
遠のいていく二人の背は身長差も相まって、どっちが女性なのか分からなかった。
●●
「どこか、行きたい所はあるかな?」
「どこでもいいぞ」
まず、リアはライアの事が大っ嫌いだ。三番目にその身長が弱そうで嫌いだった。
二番目に嫌いなのは、その喋り方。よく透き通る声で、この世の断りを説くような冷静なそれが嫌いだ。
そして一番目。
純粋に顔が嫌いだ。何だか、ぶっ飛ばしてやりたい。
行いではない、リアはライアの存在自体が嫌いだった。
「まず君の敵対意識を解かないとね」
「生半可な魔法じゃ解けねぇが」
「親しくなるのに必要なのが、劇的な魔法じゃなく、一緒に分かち合う『喜び』さ」
「私を型に当てはめるな。お前が私の心を掴む方法は一つ、『私より強いか否か』だ」
「単純明快。なるほど、ではそうしよう」
そう言って、手元の地図を開いたライアは「ここにいこう」と指さす。
正直、リアはスキルポイントのために付き合ってるだけなので、どこに行こうと構わないので、適当に返事をした。
やがて到着したのは、エルフ以外の種族も多く行き交っている場所。
アトラクション街と言うらしい。
通りには見たこともない魔道具を使った『遊び』が並んでいて、リアは言われるがままに『パンチングマシン』という器具の前に連れてこられた。
砂か何かがパンパンに詰まっている縦長魔道具の中央に丸が描かれている。
ここを狙って生じた威力を、計測するらしい。
前任者達がどれだけ強く打ってもびくともしないのを見るに、中に敷き詰められているのは魔法砂か。
あらゆる攻撃の威力を殺す、魔法練習でよく使われる品だ。
「君、そういえばランクは?」
「聞いて驚け?何と、さっきAランクになってやがった」
「なら、僕と同じだね。土俵は同じって事だ」
「どれだけランク差があっても、小人族の細腕に膂力で負けやしねぇよ」
綺麗な瞳に綺麗な指、本当に冒険者をしているのかも怪しくなる様相。
このパンチングマシンとやらで、負けることを想像するほうが難しい。
「では、次の方!」
「先に私がやらせてもらうぜ。ぶっ壊して、お前の挑戦権も無くしてやるよッ!!!」
助走と魔法の使用は禁止。
重心を乗せ、素早い踏み込みで的を穿つ。
音を置き去りにする破壊の一撃に、周囲からは歓声が上がった。ぶっ壊す――までは至らなかったが。
「お客様!凄い数値ですよ!」
横に表示された数値は700。
店主曰く、観測できる数値では歴代五位に並ぶらしい。
一位ではないのは悔しくもあるが、この魔道大国でそれだけの結果を残したことは、自分でも称賛に値する。
「体の使い方が上手いね」
「怖気づいたか?」
「いいや、むしろ俄然燃えたよ。だって、この記録を超えるだけで、君は僕のことを見直してくれるのだろう?」
そう言って、ライアはパンチングマシンの前に立った。
小さな背だ。的が目線の位置にあって、とても打ちにくそうだった。
「はっ、よくやる。ただでさえ、弱者の一族である小人が、わざわざこんな所で晒し物になるとは」
近くにいた冒険者はそう言った。
この場にいる誰一人として、所謂「いい記録」を保持できるとも思わなかった。
しかし――、
「――――ふッ!」
金の瞳がきらりと輝き、ライアは素早く腰を切って的に拳を放つ。
リアのように重心を乗せない、最小動作での攻撃。
そよ風に抵抗すらも見せないその静かすぎる攻撃は、嘲笑の対象だった。
所詮は小人族かと――しかし。
数瞬後、パンッ!!!と。乾いた音が鳴り響き、パンチングマシンは中から砕け散る。
魔法砂がぼろぼろと零れるその光景に、まず、売り物を壊されてしまった店主があたふたとし始めた。
一方、そのパンチングマシンを実力の程度として見ていた観客は、リアを含めて目を疑った。
その小さな体に隠されている圧倒的な力に、驚嘆すらも零れることはなかったのだ。
「一つ、考えを正しておこう。リア、僕は君よりもずっと強い」
それが当たり前の結果だと、ライアは髪すらも崩していなかった。
その後も、二人は様々な所を散策して、その度に勝負に明け暮れた。
例えば――、
「はっ!てめぇの身長じゃ、この石を掴めねぇだろ!」
壁に設置される岩を登ってゴールに辿り着く、ぼるだりんぐ?という競技をやった。
確かに膂力はあちらの方に分があるかも知れないが、俊敏性と手足の長さも要求されるこの競技なら――、
「要点を経由して飛べば、こんなのは簡単さ」
そう言って、10段飛ばしの荒行でライアは歴代最速でゴールしてしまった。
そもそもあいつは小人族、俊敏性でリアが勝てるわけがなかったのだ。
ならば動体視力なら、と――、
「僕は目がいいからね」
「くそぁああああ!!!」
10戦10敗、あらゆる遊びでリアは敗北して、遂に膝を屈してしまった。
認めよう、ライアはどの面でも優れている。
以前、ミノタウロスにこっぴどくやられたのは、わざとではなかったのかと疑ってしまうほど、基礎能力が高すぎる。
「……それでも、君は認めない目をしてるね」
「そもそも、てめぇは胡散臭い。デートだなんだって、何を企んでやがる?」
「他意はないのけれど……」
「信じられるっかっつうの」
まだ出会って一週間程度、それに得体の知れない小人族とあって、そもそもライアは認められる立場にいない。
人生の殆どを偽って生きていたリアは、人に対して疑い深いのである。
ハルのような能天気であっても、最近やっと信じる事が出来るようになったのだから。
「君は人を恐れてるね?」
「あ?」
「目を見れば分かる。君は僕じゃなくて、人を忌避している」
「何を根拠に言ってやがる」
「なら、どうして僕の事を嫌う?」
「そりゃあ……その顔と話し方だ」
「人は人の事をそれだけで嫌いにならないよ。君は人が怖いから、適当な理由を付けてそうして口汚く罵ってる」
もうすっかり焼けた空の下、石畳に落ちるリアの影が後退する。
図星だった。ハルに本当の願いを告げて、今、長年の夢であった妹の治療が叶おうとしている。だから、最近リアは本当の自分が何者なのか考えるようになった。
その過程で、薄々気付いていた。
昔はミアのように優しかったこの身は、どうしてこうも横暴になってしまったのか、と。
その答えは、金の瞳が導き出したそれと同じだった。
――でも。
「だからどうした?人なんて、ろくでもねぇ奴ばっかだ。今更、ニッコリ笑顔を面に張り付けてふるまうつもりは毛頭ねぇよ」
「どれだけ避けようとも、人は誰かの助力がなければ試練を乗り越える事が出来ない。それでも、君は人の事を嫌いであり続けるのかい?」
「別に、全員が全員大っ嫌いってわけじゃねぇよ。大好きな奴が何人か居れば、それでいいだろ」
「人はそう強くは在れない」
「私は強い」
「――確かに、君の胆力には驚くよ。だけど、それだけじゃない。君は、既に君にとっての『勇者』を見付けてるという事だね」
「私は勇者様に護られる姫じゃねぇよ」
「でも、ハルに助けられた。そしてそれは、君が変わる分岐点になった。――問おう、君にとってのハルはどんな人間か。もし『勇者』なら僕も諦めが付く」
「…………ペット、か?」
絞り出したリアの答え。
ライアはきっと、リアがハルの事を少なからず想っているからこそ、自身に靡く事がないと考えたのだろう。
断じて、否だ。
確かに彼は、絶望の淵から救ってくれた。
が、それだけで惚れる乙女心は、既に『本当の姿』と一緒に置いて来ている。
リアの飯を美味しそうに食べて、時々牙を向いて来る――ならば、ペットしかないだろうと。
「――ふは」
ライアは笑った。
腹を抱えて、何時もの気品を忘れてひとしきり笑った。
「助けられて、更にふてぶてしくなるとは……全く、ハルも救われない。だけど良かった――俄然、君の『勇者』になりたくなったよ」
口が悪くて、プライドが高くて……どうしようもない女が、今のリアである。
それだけが『真実』だった。
ハルに助けられてしおらしく成る処か、割り切って、悪い方向に成長を始めてしまったのだ。
「その意気込みは嫌いじゃないぜ」
「初めて君に肯定された気がするよ。――いいデートだった、ありがとう」
「良く分からねぇ奴だ。何が本当で、何が嘘なのか」
「さぁね?ただ、僕が君の事を好いているのは本当さ」
そう言って金髪をかきあげる姿は、やはり胡散臭かった。




