エルフの王国
「渾身切り!!」
職業の熟練度を上げた際、技や魔法が発現する事がある。
その職業をベースにして、スキルや適正、その人のあらゆる可能性から発言するそれだが、あくまで『ヒント』に過ぎない。
結局、何度も練習しないと、習得には至らないのである。
だからこそ、俺は初めて習得したこの技を、馬鹿の一つ覚えのように使用していた。
正直、技リセマラランキング下位に入ってそうな『渾身斬り』だが、俺にとっては念願の代物だっ。
効果は簡単、その一太刀に全てを込める。
発動までに少し精神統一が必要だが、威力は言うまでもない。
深く剣を構えて腰を落とす。
目を瞑って、己の魔力――は感じる事が出来ないので、心臓の鼓動に耳を傾けた。
静寂の世界で感じる、騒音。――敵の襲来を察知して、剣を振り抜く。
「グェエ!!!」
イカみたいなモンスターの十本足の半分が千切れ飛ぶ。
「リア!」
怯む触手をすり抜けて、リアが追い打ちをかける。
「火拳破!」
火を纏った拳を突き放ち、悲鳴一つ上げることなくイカの化け物は塵へと化した。
いいなぁ、魔法。俺も漆黒の炎とか欲しかった!
「また、レベルが上がってるぜ……ほんとずりぃ能力だよな」
俺の羨望の眼差しとは違う。
純粋な驚きを孕む視線が、リアから送られる。
俺たちは、スキルポイントを付与することが出来るというエルフの女王の元へ向かっていた。場所はギルドのある都市から東北に馬車で5時間ほどの海沿いの近く。
その間遭遇したモンスターと数度戦ったのだが、リアはレベルが2つもあがったらしい。
やはり、今までリアに勇者の効果が適応されなかったのは、俺の事を本当の仲間だと認めてなかったからのようだ。
強さへの独占欲から、少し複雑な気持ちではあるが……。まあ、所詮は効果半分だし、いいか。
「お、見えたぞ」
丘を超えると、遠くからでも分かるほど大きな鉄扉が見えてきた。
一般的な兵士ではなく、扉にはローブを纏う厳めしいエルフの兵士が待ち構えていて、長蛇の列が出来ている。
おそらく入国待ちの最中であろう。
俺たちも列に並び、しばらくすると順番が回ってきた。
「入国許可書を持っているか?」
「そんなのいるのか?」
「いるもなにも持っていないと入国することができないぞ、他に特別な理由があれば別だが……」
おいおい、レギオはそんな事いってなかったぞ!
「実はなこいつ勇者なんだよ……今回は極秘の任務でな」
俺がどうしようかとあたふたしているとリアが門番の耳元に近づき、そう囁き始めた。俺は一応持ち歩いている勇者の紋章を提示すると、あっさりと承諾して中に入れてくれた。
あまり、こういうのは好きじゃないんが、この形骸化した称号が役に立ってくれるなら、それでもいいか。
「おぉお」
街全体は整備されており、至る所で噴水など水を使ったオブジェクトが設置されている。まさに水の都といった印象だ。
俺がホームタウンにしている都市――冒険都市は、何かと荒くれ者が多い印象があって、それに付随して街も騒がしさに満ちている。
だからこそ、美しくて安寧を感じるこの場所が新鮮で仕方が無かった。
「……と、なんかさっきから俺たちめっちゃ見られてないか?」
街を歩いてしばらくたったが、ずっと視線を感じる。それも1つではなくかなりの数。
「前々から思っていたが、本当何もしらねぇんだな、エルフはな他種族嫌いで有名なんだよ」
「なら、なんであいつはあんなにエルフの女の人に囲まれてんだ?」
指を刺した先には、1人のエルフの女性に囲まれる少年がいた。175㎝である俺の胸の少し下あたりまでしか身長のないそいつは「きゃー!かっこいい!」とか「結婚してーー!!」とかそれはもうモテモテだ。
好奇心で覗いてみる。
金髪金目、整った顔立ちは絵にかいたような美少年だった。
仕立ての良い服に身を包み、身長の低さを感じさせないスタイリッシュな様相だ。
ヒューマン……いや、この身長の低さは小人族だと思うが、美少年ならエルフの国であっても大歓迎か、なるほど。
世知辛い世の中である。俺も一応勇者なんだけどなぁ。
「そこの君、よかったら助けてくれないか?」
「ん?俺か」
「ああ、そこの死んだ魚の目をしている君だよ」
「君たち、その少年が困ってるだろ?」
死んだ魚の目に疑いもなく反応してしまった自分に嘆息しつつ、注意してみる。
ここで恩を売っとけば、後でいい事が起きるかも。イケメンは幸福を呼ぶっていうし。
「話しかけないで貰えるかしら、凡人ヒューマンさん?」
「あーあ。いいところだったのに冷めたわー」
「ふぁっきゅー!」
散々な罵倒に、しかし俺はびくともしない。
ふっ、俺のメンタルを破壊したいなら、魔王でも持って来いってんだ!
やがて散っていくエルフ達、その後ろ姿に美少年は胸を撫でおろした。
「僕のスキルの影響でね、女の子を魅了してしまうんだ。エルフを魅了した何て、気高き妖精の種族が黙っちゃいないからね。ありがとう、ところで君名前は?」
「ハルだ」
「僕はライア、君たちはどうしてここに?」
「女王に用があってな」
「奇遇だね、僕も用があるんだ。君と一緒にいれば悪い虫も近づいてこなさそうだし、一緒してもいいかな?」
エルフを近寄らせないスキルでも持っているのか俺は?
しかし、見た目は15歳前後なのに、喋り方は成人した大人のそれだが一体何歳なんだろうか。
「ライアは歳いくつだ?」
「たしか、22だね」
やっぱりそういう感じか。
「こんな弱そうなやつが22?はっ、笑わせんな」
ライアに出会って初めてリアが口を開いた。
この女は相手に暴言を浴びせなければ気が済まないんだろう。
「少なくとも君よりは強い自身があるよ」
「おっ?やるか?」
リアが構えの姿勢、対してライアは静かに佇んだ。
止めようとも思ったが、面白そうなのでそのまま見ておくことにした。
「いくぜ」
リアが右足を軸に一気に加速しライアに迫る。迷いがなくなって、しかも短時間でレベルの上がった彼女は、最近実力をめりめりと伸ばしている。
振り上げられる腕、その偽りのない筋肉は見事だった。
一方ライアはただリアの目を見て「止まれ」とそう呟く。
「っっ!」
瞬間、吹き抜ける風と共に、リアの動きが完全に静止してしまった。
悠然と輝く金色の瞳、先ほどエルフを魅了した瞳が馬鹿力すらも手玉に取る。
「これは僕の勝ちでいいかな?」
「こんなものぉおお!!!」
「何!?」
勝負はあったと思われたが、リアの大気を震わせる怒号が停止状態を打ち払った。
そして、もう1度構え直して加速しようと――、
「はい、そこまで」
このままではどちらもただで済まなさそうだったので、間に割って仲裁した。
「君速いんだね、Aランクレベルかな?」
「まぁな、お前のスキルは魅了じゃなかったのか?」
「『発展』を済ませてるからね」
スキルに対し一定以上スキルポイントを振り分けると発展することがあるらしい。基本の効果に類似した、効果が発現すると。
まあ、スキルを持っていない俺には全く関係ない話だけど。
評価してくれるともっとやる気がでるかもしれません!!!




