ギフト
森の奥深く。
1人の男―――ハルが剣を振りゴブリンと戦っていた。
人とは違う緑色の肌、その獰猛な牙を剥き出しにする相手に、ハルは一歩も譲る事はない。
「ハッ!」
裂帛の気合で肉薄し、その体を両断するように剣を斜めに振る。
「――ギェエ」
ゴブリンは小さな断末魔を上げると、一瞬で塵へと化した。
「ふぅ、これで完了か。」
袖で汗を拭って、一息吐く。
今、俺はギルドで受諾したクエスト、『ゴブリン50匹撃破』を、ちょうど達成した所だ。今日は調子が良く、2時間ほどで終わらせることができた。
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-ハル- Rank E
Level 4→5 UP
HP-160 E
力-120 E
防御-90 E
敏捷性-100 E
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「はぁ、俺は一体何をやってんだか……」
クエストの達成感とは裏腹に、思わず息を漏らす。
端的に言ってしまうと、俺は『異世界転移者』だ。
最初は、未知の世界にどれだけ心が躍ったことか。
しかし今では、自分が異世界転移者だと忘れる程、俺の実力は下の下である。
呼び出されて一年、同時期にこの世界に来た奴らは、もう既に50levelを超えているという話だ。
冒険者はアルファベットの数字でギルド側から評価されるが、俺のランクは下から2番目の『E』である。
ショボい、余りにも弱者の証
「どうして、こうなったかなあ・・・」
深くため息をつきながら、俺は1年前を思い出す――。
◇◇
『お前は、勇者としては弱すぎる』
今でも夢に出てくる言葉だ。
ある日俺は、勇者としてこの世界を救うために、19歳ながら勇者の1人として召喚された。
だが、誰しも絶対発現するはずの『スキル』を持っておらず、尚且つ魔力適正がなかった俺は、挙句の果てにスパイだと疑われて……最終的に、『転移者』で構成される勇者パーティーから除外され、1人での冒険になってしまった。
別に馴れ合うのは好きじゃないし、勇者ならば1人でも生き抜く事が出来ると思っていたが、勇者の特徴である『職業兼用』をもってしても、俺は唯一魔法の使えない最弱職業の『剣士』しか適正がなかった。
才能の無さが、唯一の才能を殺すという皮肉。
その為、勇者としては見る影もないくらい弱い俺は今もこうして雑魚と戦っているのだ。
「帰るとするか・・・・」
使い古された愛剣を鞘に納めて、俺はギルドにクエスト達成の報告に行くことにした。
「おう、勇者の兄ちゃん。元気かい?」
沢山の冒険者で賑わいを見せているギルドに入ると、大柄なヒューマンの男性が話しかけて来る。
額に人差し指くらいの大きさの傷があるそいつの名は、レギオだ。
「勇者はやめてくれっていつも言ってるだろ?、クエスト終えたから換金を頼むよ。」
今日獲得したゴブリンの棍棒や皮などのドロップ品を取り出し、報告書と一緒に納付し換金を行った。
このギルドではクエスト毎にレベルアップの有無や、何か変わったことがなかったかなどの『報告書』を書くのが決まりである。
「確かに受け取ったぜ。お、兄ちゃんレベルが5になったのか。そろそろスキルポイント貰えたんじゃねえか?」
「おいおい、嫌みか?俺はスキルなんて持ってないだろ?」
「はは、そういやそうだったな。これが、今回の報酬だ。」
もう何度目の雑なボケを振って来たにも関わらず、雑に納得すると、レギオは5枚の銀貨を手渡してくる。
「どうする?まだ昼だが新しい依頼を斡旋するか?」
「いや、今日はやめておくよ。」
「わかった。ステータスの更新は忘れんなよ?」
先ほどのゴブリンとの戦闘終了時にレベルアップしたが、冒険者として、ギルドで正式な更新作業をしなければならない。
その作業はギルドの奥にある、ATM見たいな機械に手を当てることで出来るのだ。
「ピッ」
機会に手を当てると、画面に自分のステータスが出てきた。
『スキルポイントが付与されたことにより、スキルの成長及び発展が可能になりました。振り分けますか?』
【はい】 【いいえ】
俺に真面なスキルはない。
はいを押したところで、何の意味もない事は分かってる。
「やれるもんならやってみろよ」
→はい
「自動でポイントを振り分けますか?」
【はい】 【いいえ】
→はい
行ける所までやってはいるが、そろそろビビ―って警告音でも出るのだろうか。
……なにやら画面に【処理中】の文字が出てきたぞ。一体、何を処理してるんだか。
「スキルが見当たりませんでした。他の物に変換をしますか?」
【はい】 【いいえ】
→はい
他のものに変換だと?そんな事できるのか?
【基礎能力】 【職業熟練度】 【武器熟練度】
押すと、3つの項目が出て来た。こんなの使用説明には載っていなかったぞ?【職業熟練度】を押してみよう。
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勇者 熟練度★1 5ポイントが必要
1.基礎能力向上速度アップ。
2.レベル上昇速度UP。
3.上記二つの効果を、五割に及び仲間と認めた者に付与する。
4.職業を2個まで兼用できる。
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サブ 剣士 熟練度 ★1 3ポイントが必要。
効果 1.基礎能力向上速度UP
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「ん……あ?」
思わず唖然して、俺は何度も目を拭った。
普通熟練度というのは戦う度に累畜されていくものであって、どんな職業に限らず、一般的には1つ上げるだけでも相当な時間がかかってしまう。
今回付与された5ポイントを使用すれば、もう勇者の熟練度は挙げられてしまう。
と、其処で。
冒険者ではなく、以前の世界で――神楽春として培ったゲーム脳がフル回転する。
本来、『スキル』とは、神から与えられるギフトと言われている。
殆どが先天的、類まれな経験で後天的にも授かる場合もあるが……と、そんな事はどうでもいい。
言わば、スキルポイントとは、神々の力を伸ばす為の『神水』だ。
そんな膨大な力が、スキル以外に――あくまで、人の範疇である基礎能力や熟練度に割り振る事が出来る。
―俺だけが『スキルポイント』をスキルではなく、自身の体で制御する事が可能なのだ。
「俺の時代、きちゃった?」と。心の中で思わずそう呟いたのだった。
気に入られたなら是非に(。・∀・)ヨロシク♪
追記;2023年1月、全話を大幅に推敲しました。