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最後の弟子

 魔物の砦を攻略した頃、北方と南方の戦線もレリジオ教国の本土への侵攻が始まったという情報が入った。

 これに伴い、各戦線との連絡・連携を密にするべく、様子を見るための連絡任務が始まった。

 僕もこの任務を受ける事があった。もちろんただの様子見だけでなく、応援の為の物資を届ける役目も担っている。


 そんなある時、北方戦線への連絡業務が終わった後のことだった。

 僕達はレリジオ教国近海の様子を探るため、帰りの航路は行きの航路よりもなるべく沖を航行するようにしている。

 一般的な船では遭難や魔物の被害に遭うリスクが高いので、こういうのもへーゲル号ならではの任務なのだ。


 この日もレリジオ教国本土からだいぶ距離が離れた位置を航行していたが、ある物を発見した。


「島だな」


「しかも家がありますね」


 島があること自体は別に不思議ではないが、家が一軒だけある。

 しかも打ち捨てられた感じがしない。今も誰かが住んでいると思われた。


 気になった僕達はへーゲル号を島の近くに停泊させ、島に上陸した。


 家の扉をノックし、返事を待つ。


「アングリア王国の方ですね。お婆様がお待ちです」


 出てきたのは12歳位の少女だった。

 驚くべき事に、初対面のはずなのに僕達の事を知っていたのだ。


「なぜ僕達の事を知っているのですか?」


「それについてもお婆様から説明があります。とにかく中へ」


 そして少女に案内されるまま、僕達は家の中に入った。

 そのままある部屋に案内されると、そこにはベッドに横たわった老婆がいた。


「お婆様、お客様をお連れしました」


「ご苦労様。ようこそ、へーゲル号のみなさん。私はリリアーナと申します。もう忘れられているかと思いますけど、かつては『教祖最後の直系の弟子』と呼ばれていました」


 このリリアーナという老婆、どう考えてもベッドから起き上がれそうにない体なのになぜか僕達の船の名前を知っていた。

 それに『教祖最後の直系の弟子』の異名の意味とはなんだ?


「僕はウィル・コーマック。へーゲル号の船長をしております。ところで、なぜ僕達の船のことを知っていたのですか? それに僕達の所属国の事まで……」


「私は『千里眼』の才能を持っていますからね。ここから動かずとも、世界中で起こっている出来事を把握することが出来るのですよ」


 だから現在のこの国の状況も、2人しか人が住んでいない辺境の島に居ながらにして知ることが出来るのだそう。

 そして僕達の事も、千里眼の才能を使って知ったのだそうだ。


「なるほど、そうだったのですか。しかし、なぜ僕達を招き入れたのですか? そこの女の子に玄関先で対応させることも出来たでしょうに」


「それは、この国の真実をお話したかったのと、1つお願いがあるからです。あなたたちにとっては、決して無視できない事ですので」


 そしてリリアーナさんは、弱々しい声で語り始めた。


「まず、この国を支配している宗教を創設した教祖様なのですが……実は、本人は自身が創った宗教を全く信じていなかったのです」


 開口一番、僕達はいきなり衝撃を受けてしまった。

 宗教を創設した本人がそれを信じていないなんて、前代未聞過ぎる。


「そもそも教祖様は、当時権力を握っていたロマナム帝国に貧富の格差を是正して欲しかったのです」


 しかしロマナム帝国は格差是正に消極的で、なかなか動こうとはしなかった。

 そこで教祖は帝国にプレッシャーを与えて動かそうと、新興宗教を立ち上げたのだ。

 長年苦しい生活を続けている人々にとって、自分たちを救ってくれない今までの価値観を捨てて新興宗教に活路を見いだすのは簡単なことだった。


 その結果、帝国全土で新興宗教の信者を増やす事に成功。そして信者の数を力に、帝国の上層部と交渉を行った。

 最終的に、新興宗教の社会的地位は保証されたそうだ。


 ところが、ある出来事がきっかけで事態が迷走し出す。


 教祖が病に倒れたのだ。

 それを皮切りに権力志向が強すぎた一部の幹部が勝手に行動を始め、いつの間にか国の乗っ取りを行っていたのだ。

 特に中心的役割を果たしたのが、アバーテとチュルラという人物。現在レリジオ教国内で敵対関係にある2大派閥の始祖である。


 その後の展開は、以前母様から教わった事と同じだった。

 国の乗っ取りに成功し、ロマナム帝国皇帝を退位させ処刑した。

 この時、皇帝の一族や血縁にある者を捕まえてはどんどん処刑したらしい。これは初耳だった。


 そしてとうとう、レリジオ教国の誕生に至ったのだ。



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