火船
味方の船が次々に燃えている。
その理由は簡単。燃料や火薬を満載した船『火船』が体当たり攻撃を仕掛けてきて、こちら側の船を次々に燃やしているからだ。
しかも絶対に逃がさないようにするためか、火が付いた状態なのに船員を乗せ、操船させている。
もちろん、そのままの状態で突っ込めば命の保証はない。
要するにレリジオ教国側の戦術とは、特攻の類いだ。
「どうする、ウィル?」
「前に出るぞ、エリオット。囮になって可能な限り味方から引き離す」
『海の暗殺者』なんて異名を付けられているが、へーゲル号は現在全長100メートルに達する巨船で、帆は夕日色と視認できれば非常に目立つ。
特に船の大きさは体感で脅威度を認識させられるので、最優先攻撃目標として僕達を追って来てくれるだろう。
僕はへーゲル号を最前線まで移動させるとそこから取り舵に切り、敵の火船を誘い出した。
そして見事、火船はへーゲル号の後を付いてきてくれたのだ。
「マリー、大砲を発射するぞ。水の魔力弾を撃て」
『了解しました』
甲板や舷側から大砲が顔を覗かせると、そのまま後方へ砲を向ける。
そして、水の魔力を発射した。
敵に着弾した水の魔力は火船の甲板を洗い、火を消し火薬をダメにした。
「とりあえず、火船の無力化には成功した。ただ……」
「まだ出てくるみたいですね……」
レリジオ教国は、火船をかなり大量に用意していたようだ。
一体どこからそんな資源や人手が出せるんだと言いたくなるが、終わりが見えないほど次から次へと湧いて出てくる。
「力ずくで片っ端から倒してみる~?」
「姉様らしい意見ですが、難しいと思いますね」
最終的にはそうするしかないだろうが、姉様の考えた作戦では時間が掛かりすぎる。
そうなれば急な戦況の変化で消耗が激しくなる恐れがあるし、終わりの見えない戦いは精神的な負担が大きい。
なので、別の方法が望ましい。
「とりあえず、敵の内側に混乱を起こしつつ総司令官が乗っている船を叩く」
「……できるの、そんなこと?」
「普通だったらキャンプスさんみたいに考えるよね。でも、50万ポイントかけて追加した機能があれば――」
そして僕は、その機能の発動を命じた。
「マリー、潜行開始だ」
『了解。潜行を行います』
すると、何やら沈み込む感覚が。
「あの、お兄様? 海面が近くなっているような気が……」
「……というか、沈んでる……?」
「おい、どうなっているんだ、ウィル!」
まぁ(約1名以外)心配の声を上げたが、心配無用。
数秒後には完全に海中に沈んだ。
だが、艦橋を含め甲板には空気が留まっている。
「これが海の中かぁ~。面白そうな所だねぇ~」
「いや、言うべきなのはもっと違うところだろう、ジェーン。ただ沈んだ訳ではなさそうだが……」
「鋭いね、エリオット。これは新しく取得したへーゲル号の機能によるものさ」
以前潜水装置を設置したとき、新しく追加できる機能が増えたのだ。
それが『潜水装置(船用)』。その名の通り、へーゲル号を潜水させるための装置だ。
『装置』と言ってもそれらしき装置は見つからなかったので、実際は『機能』と言った方がいいと思うが。
この機能で潜水すると、船室、甲板、艦橋は風魔法によって空気が確保されるため、乗員の呼吸機能に影響はない。
そしてプロペラはスクリューとなり、さらに帆で海流を受けて推力にするのだ。
「よし、このまま全身。魚雷を撃ち込みながら敵総司令官を目指すぞ」
そのまま僕達は全速前進を開始し、所々魚雷を撃った。
まだこの世界では水中の敵に対する有効な攻撃はほとんど無いし、あっても対魔物用の戦術や才能だったりするのでへーゲル号に対して通用するかどうかわからない。
レーダーを見てみると、敵の動きから混乱している様子がうかがい知れる。アングリア王国海軍への攻撃どころではなくなっているのは確かだ。
『キャプテン、敵陣の最奥へ到達しました。この上にいる船は、他の船と比べ大きい物です』
「と言うことは、総司令官がいる可能性が高いな。全員、何かに掴まれ。上舵いっぱい!!」
「お兄様、上舵って……きゃぁっ!」
へーゲル号は船首を上に向けると、フルスピードで突進した!
そのスピードに艦橋では悲鳴が響いているが、事前に通告したので多めに見てくれるだろう。
そして浮上と同時に、敵の船に衝突。敵船はへーゲル号の衝角に貫かれ、真っ二つになってしまった。
「よし、総司令官はおそらく潰した。このままアングリア王国軍へ合流しながら、残りの船も沈めるぞ。全武装を使うぞ」
その後、レリジオ教国艦隊は総司令官がやられたことによる混乱と、アングリア王国軍とへーゲル号に挟まれる形になることによって徹底的に壊滅させられた。
もちろん、アングリア王国軍は山場の1つを乗り切った事になるのは言うまでも無い。