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要塞防衛戦

 冬から春に変わろうとする時期に入った。

 この季節は、風向きが東から西に変わる。すなわち、レリジオ教国にとって海戦で優位を取れる季節なのだ。

 すでにアングリア王国へ至る航路上に建設された5つの要塞は全てこちらの手に落ちている。レリジオ教国は、必ず取り戻そうと躍起になるだろう。


 だが逆に言えば、ここを凌げばレリジオ教国の戦力を大幅に削減できるので、アングリア王国としても正念場であることに間違いは無い。

 そのため、今回は僕達も裏方に回らず、戦闘に参加することになった。

 以前、国王陛下から言われていた依頼とは、この戦いへの参加依頼なのだ。


 そういうわけで、僕も気合いを入れて戦いの準備を進めていた。


 まず、船体を3200ポイントかけて100メートルに伸ばす。大砲の増設条件を満たすためだ。

 そして大砲の数を1層当たり80門まで設置した。現在3層まであるので、全部で240門だ。これが1600ポイント。


 次に魚雷発射管を2セットに増やした。1600ポイントで船の前方に設置されることになっている。

 さらに3セット目のプロペラを2000ポイントで敷設した。

 防御の方も忘れてはいけない。3200ポイント支払い7段階目まで装甲レベルを上げた。


 最後に、ある『秘密の機能』を50万ポイントかけて追加した。

 目玉が飛び出るほどの値段で、この機能を追加した結果ほぼ持っていたポイントを使い切ってしまったが、非常に有用な機能なので追加したのだ。


 一方、アングリア王国海軍の方も気合いが入っていた。

 まず目に入るのが、3本マストでフォアマストに横帆、他の2本に船体から飛び出るほど巨大な三角帆『ラテンセイル』を張った船だ。

 これは『ジーベック』という形式の船で、前世では地中海交易に使われたほか、私掠船としても使用されていたらしい。理由は速いからだ。

 事実、19世紀のある作家から『虎』と形容されていたらしく、それほど高い速さと攻撃力を持っていたのだろう。


このジーベックは、以前要塞の周辺で不審船が落とした物を僕達が調査した後、不審船対策として僕が提案した船だ。

 速度が速いので不審船の取り締まりにはうってつけだと思ったし、多めに作っても輸送船として活用できると思ったからだ。

 その目論見は見事に当たり、不審船を次々に拿捕出来たらしい。その後、あまり不審船を見かけなくなったとか。


 そしてもう1つ。実は戦列艦の開発に成功しており、この要塞にも多数配備されている。

 前世で戦列艦は帆船の中で最強というイメージがあるが、実は国や時代によって定義が違っているらしい。

 ただ、おおむね共通する特徴を挙げると、マスト3本以上かつ大砲50門以上を持つ船、ということになるようだ。

 アングリア王国の戦列艦もその条件を満たしており、全てのマストが横帆の『シップ帆装』で大砲をきちんと50門装備している。


 さて、僕達がこの要塞に滞在するようになってから5日が経とうとしたときだった。


『レリジオ教国の艦隊を確認した』


 この連絡が入ったので、僕達は戦闘体制に入る事になった。


「……船がたくさん並んでる」


「戦列艦の典型的な陣形だな」


 戦列艦は大量に装備した大砲を生かすため、縦列を組み舷側を的側に向ける陣形を取る。

 これで相手に対して砲弾の雨をお見舞いさせるのだ。

 この戦法を『戦列戦術』と言い、戦列艦の名前の由来にもなっている。


 『敵の第1陣、接近しました』


 マリーの報告通り、ブリッグやブリガンティンといった2本マストの船が接近してきた。


「お兄様、この季節では敵の方が有利なんですよね?」


「原則的にはそう。でも、今日に限っては逆だね」


 実は、今日は非常に強い風が吹いており、波が荒れているのだ。こういう日は普段の有利不利関係が逆転する。

 風に煽られる際、風上側の船は相手側の側面が下を向く。

 すると、低層にある大砲や火薬が波をかぶる危険性があり、使い物にならなくなる。そのため低層の銃座を閉めなければならなくなり、攻撃力を充分に引き出せなくなる。

 逆に風下側は船体が上を向くため、そういった心配がないのだ。


 そのせいか(船が元々持っている攻撃力の差もあると思うが)レリジオ教国側の船の攻撃に覇気がなく、逆にこちら側の攻撃の方が徹底している。

 だが、必ず仕留められるかというとそうではない。


「波の影響がひどいね」


 エリオットの指摘通り、荒れている波の影響で船の『高さ』がすぐ変わってしまい、砲撃が外れることが多々あった。

 しかし接近すれば当たりやすくなるので、ほぼ問題はないが。


 ある程度敵を掃討し終わったところで、マリーから報告が入った。


『熱源を複数確認。何かを燃やしている反応です』


 そして僕達が目にしたのは――燃え盛る船が突撃する光景だった。


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