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帰国直後のトラブル

 フグレイク連合スーハウから南下し、ハンザ連邦を経由してアングリア王国のノーエンコーブへと到着した。

 この間、3ヶ月。3本マストであれば4~5ヶ月かかっただろうが、マストを4本にしてから速度がアップし、短期間での帰国を果たした。


「帆を全て畳め。錨を降ろせ、タラップ展開!」


『帆の収納、完了。投錨、完了。タラップ展開、完了。帰港操作、完了しました』


 ヘーゲル号を降りノーエンコーブの港に足を踏み入れると、僕を呼ぶ声が聞こえた。


「ウィルさ~ん!!」


「ハーバート支部長?」


 声の主は、海運ギルド・ノーエンコーブ支部長、ハーバート氏だった。

 ノーエンコーブの屋敷にいたときはたまに屋敷で顔を合わせ、依頼について色々相談されていた。

 王都で学園生活が始まってから会う機会がめっきり減ったが、どうも久しぶりに顔を合わせて食事でも――という雰囲気ではなさそうだ。


「実は、大変なことが起こりまして……」


 ハーバート支部長は、場所を移すこともしないまま話し始めた。

 どうやらそれほど、緊急事態らしい。


「レリジオ教国のことですか?」


「確かにそれも大変なことですが、まだ国の上層部で方針を決めている最中です。海運ギルドの出る幕は、王国として一応の方針が決まってからになります」


 僕達がフグレイク連合で受けた依頼が発端になったが、レリジオ教国が今までに無い動きを見せていることはすでに世界中で情報共有されていた。

 いつか僕達にもその件について協力を要請される可能性が高いが、今回はそれとは別件らしい。


「エルマン侯爵の三男、デイヴ・エルマンさんが海上で行方不明になりました!!」


 僕達が航海に出る前、その嫉妬心から僕達に商品を売らなかったあのデイヴ・エルマンだ。

 その件についてはすでにエルマン侯爵からも謝罪を受けて手打ちになっていたはずである。


「なんでも、南方への航海を強行したそうなのですが、連絡が取れなくなっているのです!」


 エルマン君は航海届を商船学校に半ば押しつける形で提出。

 本来、商船学校は国外への航海を原則禁止している。僕達に認められたのは、僕が築いた今までの実績とヘーゲル号の特異性が評価されたからだ。


 しかしエルマン君は南方にある国への航海を計画。しかも事前に密かに準備した上で、届出を提出すればすぐ海に出られるようにしていたという周到さだ。


 そして強引に船出した物の、本来ならアングリア王国南部の港、サザンエントランスに到着してもいい時期に連絡は無く。

 さらにサザンエントランス到着日を大幅に過ぎてもまだ連絡は無かった。サザンエントランスの海運ギルド支部でも、エルマン君の乗った船の目撃情報はつかんでいないらしい。


「その船の船乗りのキャリアは?」


「エルマン商会が抱えている船乗りです。いずれも経験豊富で、最新式の船の扱いも慣れているとか」


 さすがは、天下に名高いエルマン商会、と言ったところか。最新式の船をいち早くお抱え船乗り達に教え、訓練も欠かしていないらしい。

 ちなみに、エルマン君が乗った船はケッチ。2本マストを持ち全て縦帆であるが、同じ全て縦帆で構成されるスクーナーと違いミズンマストがメインマストより低い。

 バランスが非常に優れていることが特徴の船だ。


 ちなみに、2本マストの船は民間でも購入できるようになっており、エルマン商会のような大店であれば手に入れていてもおかしくない。


 しかし、最新式の船でしかも船員もベテラン揃い。少なくとも国内を航海する分にはあまり危険は無いはず。

 なのに、なぜサザンエントランスにたどり着いていないんだ?

 考えられる可能性はあるにはあるが、あまりにも非常識すぎて、さすがのエルマン君もそれを犯しているとは思いたくない。


「それで今、各海運ギルド支部が総力を挙げて捜索をしているのですが……ウィルさんも、出来れば協力していただきたいのですが……」


 するとここで、メアリーが口を挟んできた。


「失礼します、お兄様。手打ちになったとはいえ、エルマンさんは一度私達のことを邪魔した経歴があります。別に助けなくてもいいのでは?」


 貴族としてなら、メアリーの言う選択もアリだ。駆け引きの一環として採用していたかもしれない。

 だけど、海の上であれば話は別だ。


「メアリーの気持ちはわかる。でも、僕は船乗りなんだ。海の上で起こった事件であれば、海の上の原則に従う」


 これは海運ギルドに加入して研修を受けた際、最初に教わる海の原理原則だ。

 簡単に言うと、船乗りは助け合いが一番重要視される。

 海という大自然を相手にする以上、個人の力ではまず刃が立たない。だから人々が協力し、大自然を乗り切る。

 それができなければ、命を奪われるまでだ。


 だから救助要請があった際、可能な限りそれに協力するのは当然の事なのだ。


「それに、これで貸しを作っておくのも一興じゃないか? 後々役に立つかもしれない」


「確かに、それもいいかもしれませんね。わかりました。お兄様の決定に従います」


 でも、すぐに救助活動には参加できない。


「ハーバート支部長。申し訳ありませんが、僕達は長い航海から帰ってきたばかり。積み荷の整理もありますし、すぐに航海に向かうための準備も必要です。2日ほどお時間をいただきたいのですが」


「ええ、それで構いません。急いで出航しても、準備不足で遭難してしまっては元も子もありませんから」


 今日はコーマック伯爵家の屋敷に泊まり、翌日から救助に向かうための準備を始めるのだった。



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