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妨害

「――というわけで、コーマック君は来月から半年程度、授業をお休みします」


 それなりに出港準備も整ってきた頃、クラスの先生から僕の航海予定とそれに伴う授業の欠席がクラスメイトに通知された。

 個人の活動なのでわざわざ言わなくても良いと思うかもしれないが、一応クラスメイトに心配をさせないための配慮でもあるそうだ。


「コーマック君の航海は、商船学校初となる外国への航海だ。この偉業を無事成功できるよう、みんなで応援してあげよう!」


 『すげー』『がんばって!』など、驚きの声や励ましの声が次々と上がった。


「ありがとう。必ず成功して帰ってくるよ」


 この時、僕はクラスメイトに応援されてのんきに感謝の言葉を口にしていた。

 しかし、この後やっかいなトラブルが転がってくることに気付いていなかった。


 事件の始まりは放課後になってから。

 帰り支度をして屋敷に帰ろうとしていた矢先のことだった。


「おい、コーマック、調子に乗るのも大概にしろよ」


 いきなり罵声を浴びせられた。あまりに突然の事だったので、僕はポカンと口を開けたまま固まっていたと思う。

 しかし僕の反応を意に介さず、その少年は次々と言葉を浴びせてきた。


「孤児の出のくせに、たまたまいい船を手に入れたからって調子に乗りやがって。船の性能頼りで船乗りの腕前は無いくせにさぁ」


 ああ、思い出した。

 こいつはデイヴ・エルマン。商務関係の官僚系貴族エルマン侯爵家の3男だったはずだ。

 エルマン家は商務関係の重鎮で、過去に商務大臣を何人か輩出している。特に貿易関係に詳しい一族だったはずだ。


 そんな彼がなぜ僕に突っかかってくるのか不思議でしょうがないが、1つ行っておかなければならないことがある。


「言っとくけど、船乗りとしての努力を怠っているつもりはないよ。それに船の性能を軽視するような発言をしているけど、それは極論だよ。いい設計士、いい船大工とコネクションを築いていい船を手に入れやすくするのも重要だと思う。船のオーナーとしてはほぼ必須だと思うね」


 エルマン君はその後も何か騒いでいたが、時間の無駄なので無視してさっさと帰った。




 屋敷に帰ってから、すぐさま航海の準備を始めた。

 今日は、ある大型商店を訪れて色々と買い込む予定だ。その商店は有数の貿易商で、舶来品の他に航海に必要な物資も取り扱っていた。

 自分で貿易船団を持っている商会が運営している商店なので、自らの経験に基づいた品揃えで船乗りにとって非常に便利な店となっている。


 だが、来店した途端に予想外の出来事が起こった。


「申し訳ございません。急に大量の注文が入りまして、航海関連商品のお取り扱いが一時的に出来ない状態になってしまいまして……」


 なんと、航海用品が急な品切れになってしまったというのだ。

 船乗りの間でも有名な店で品切れとはなんとも考えにくい話だが、避難するだけの証拠もないので仕方なくこの日は屋敷に帰った。


「……なるほど、それは怪しい話だね」


 翌日、僕は事の顛末をエリオットに話した。

 実は昨日、エリオットは別の予定が入っていたので僕とメアリーだけで商店へ出掛けていたのだ。


「ところで話は変わるけど、昨日エルマン侯爵の三男と諍いが起こったんだっけ?」


「あ、それは私も聞きました。どうしてすぐ私におっしゃらなかったんですか?」


 実は、エルマン君と口論になりかけたことを家族にも一切言っていなかった。

 初めて海外へ航海するための準備で忙しかったので、あの程度のことを一々問題にして時間を取られたくなかったからだ。


「ウィルとメアリーが昨日行った店、名前は覚えているかい?」


「……何だっけ?」


「『エルマン商会』ですよ、お兄様」


 実は僕、店の名前はあまり重視していないときがある。

 店の場所や取扱商品などしか覚えておらず、店の名前が全く頭に入らない時がたまにあるのだ。


 そして店の名前を聞いたとき、合点がいった。


「もしかして、エルマン君と関係がある……?」


「大ありだ」


 エリオットから語られたのは、エルマン侯爵家の得意な事情と、そこから推察される昨日の事件のカラクリだった。



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