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「姉様……」


 現れたのは、メアリーの姉で僕の義姉であるジェーン姉様だった。

 いきなりの登場に空気が固まってしまったが、最初に動けたのはメアリーだった。


「お姉様は、なぜここへ?」


「ウィルに船に乗せてもらおっかな~って」


 やっぱりこんな事だろうとは思っていた。

 ジェーン姉様は、自分を負かしたエリオットに惚れた。そしてエリオットの進学予定先である商船学校に入学。

 もちろん、姉様に船員経験なんかあるはずないので、基礎クラスに配属された。


 普通、基礎クラスに入るとコツコツ学んだり経験を積んだりして一人前の船員になるのだが、そんな型にはまらないのがジェーン姉様だ。

 入学してわずか3ヶ月で船員に必要な最低限の技術を習得した。

 それはすごいことだが、それ以降成長は見られなかった。今ではすっかり同級生に抜かされているらしい。


 だが、姉様のすごさはまた別の所にある。

 姉様は野生の勘というか、直感力というのが特に優れていて、船に迫る危機を誰よりも早く察知できた。

 そして持ち前の光魔法の才能を遺憾なく発揮し、近づく魔物や海賊を瞬殺してしまうらしい。


 こういった経緯から、姉様は商船学校の教師達から『見張り係、戦闘員としての適性が高い』と評されている。


 こう言われると商船員よりも軍人に向いていると思われるかもしれないが、この世界では少し違う。

 なにせ、この世界の海には魔物や海賊が跋扈しており非常に危険なのだ。商船とは言え、一定以上の戦闘力を求められている。


 そう考えると、姉様の戦闘力は非常に魅力的だ。

 ヘーゲル号自体はこの世界のどの船よりも戦闘力は高いし、これからもその戦闘力は上昇するだろう。

 だが、ヘーゲル号の能力のみに頼るのはリスクヘッジの観点から危険だと思っている。1つの物だけに頼り切るのはあまり良くない。

 しかし、メアリーもエリオットも持っている才能としてはサポート向きで、直接的な戦闘力はあまりない。銃で武装させてもどのくらい活躍出来るか未知数だ。


 それに比べ、強力な戦闘力を持っているジェーン姉様は即戦力になる。

 問題は、その自由気ままで周りを振り回しがちな性格なのだが……。


 しばらく考えた末、結論を出した。


「決めました。ジェーン姉様の乗船を許可します」


「やったね!」


「お兄様、本当によろしいのですか?」


 喜ぶ姉様に対し、メアリーは懐疑的な目で尋ねてきた。


(姉様の戦闘力は是非とも欲しい。それに、ここで断っても姉様ならあらゆる手段を使ってでも乗船を認めさせようとしてくる。まあ最悪、エリオットに全部投げるという手もあるしね)


(確かに、そうですね)


 姉様に聞かれるとまずいので、小声で答えた。


「ところで、ウィル。最初の行き先は決まっているのかい?」


「ハンザ連邦を考えているよ、エリオット」


 ハンザ連邦とは、アングリア王国から北へ3ヶ月近く航海してたどり着く国だ。

 『商人の国』とも呼ばれている重商主義の国で、その商魂は『金のためなら過去の遺恨も水に流す』とも言われている。

 ハンザ連邦のさらに北にある国から、その国でしか取れない素材や物品を仕入れており、それを輸出している。

 輸出先にはもちろんアングリア王国も含まれている。


「ヘーゲル号なら片道1ヶ月半、往復3ヶ月しかかからないし、将来は世界各地の品々を取り扱いたいからね。商人の国であるハンザ王国に行けば、貿易商として良い経験が積めると思うんだよね」


「良い考えだね。それに、成功すれば商船学校創設以来の快挙を成し遂げられる」


 実は、商船学校の生徒の活動はアングリア王国内でしかやられてこなかった。

 学生であるため時間がかかりすぎる可能性がある活動は忌避されるというのもあるが、そもそも造船技術や航海技術上の問題から、長年キャリアを積んだ船員ですら相応の覚悟を決めないと国外へは行けないのだ。


 そんな行為が認められるようになったのは、近年になって航海・造船技術が急速に発展していることもそうだが、『ヘーゲル号』という反則級の性能を持った船を僕が所持していることも大きいだろう。


「ま、エリオットと一緒居してくれるんだったら、どこにでも。で、いつ出発すんの~?」


「早くて1ヶ月後ですね、姉様。いくらヘーゲル号とは言え万全の準備をしないと国外へは行けないですし。それに最初の1ヶ月は絶対に講義を受けなければならないので」


「わかった。じゃ、その時がきたら教えてね~」


 航海は楽しいが、姉様と一緒だと不安の方が強くなってしまう。

 講義を受けている時間が幸せと感じるのは異常なことなのだろうか?



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