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学園生活の始まり

 それから季節は巡り、季節行事となっているレリジオ教国の襲撃があった。

 しかし今年は去年のような強敵がやって来ていたわけではないので、コーマック伯爵軍はほぼ損害0で勝利。僕の出る幕は一切無かった。


 また、今年のレリジオ教国の襲撃前には、僕が開発に協力したカッター帆装の船が普及し始めていた。

 カッター帆装は縦帆で逆風に強い帆装であるため、季節風に関係なくアングリア大陸の海を縦横無尽に駆け巡ることが徐々に一般的になりつつあった。

 ただ、小型船の範疇なのでまだまだ外国への航海は命の危険がかなり高い確率でつきまとっているし、積載量もそれほど多くないのでまだまだ研究の余地はある。


 新型船の研究開発をしているブリジットさんとレナードさんとはたまに連絡を取っているが、僕が情報提供したのもあり2本マストの船の実用化にもう少しでこぎ着けられるようだ。


 春までに起こった大まかな出来事はこのくらいだ。


 そしてこの春、僕は王都の学園に編入することとなる。




「――というわけで、今年度から編入してきたウィル・コーマック君です」


「よろしくお願いします」


 学園に編入した初日、転校生の紹介のように僕がクラスメイトの前に立ち、担任の先生の紹介と共に挨拶をする。

 その後に自分の席を示されるわけだが、そこはメアリーの隣だった。


「お兄様と同じクラスだけでなく席も隣なんて、とても運命的ですね!」


 いや、そういうのじゃないと思う。明らかに僕が円滑に学園生活を送れるよう配慮された結果だと思う。

 口に出すと色々と大変そうだから言わないでおくが。


 そして同じクラスなのがもう一人。


「俺と同じクラスになれたね。困ったことがあれば何でも言ってくれ」


 去年から知り合った、おそらく今世で今のところ唯一の同性の友人、エリオットだ。

 こっちは配慮されたか単純に運だったのかは、正直不明だ。可能性としてはどちらもあり得るが。

 いずれにせよ、僕にとっては渡りに船な状況だと言うことは確かだ。


 今日は新学期初日と言うことでホームルームのみで授業終了。そのまま放課後となる。

 だが、編入生という僕の存在が気になる人が多く、放課後になっても僕に近づき、質問を畳みかけられる。


「コーマック君って、もしかしてあの『海の暗殺者』の船長やってるんだっけ?」


「すげー。俺らと同じ年でもう戦闘を経験済みかよ」


「魔物も狩ってたりするんだろ? なんか聞かせてくれよ」


 男子からは主にヘーゲル号の船長として、武勇伝に興味がある人が多いようだ。


「コーマック君とコーマックさんって、もしかしてご兄妹? しかもそれで婚約者!?」


「ってことは、まさか禁断の愛……!」


「いや、確かコーマック君はコーマック伯爵に養子として引き取られたって聞いたけど」


 一方女子と一部色恋沙汰に興味がある男子からはメアリーとの関係について聞かれた。

 ただ、単なる興味本位ではなく今後の参考にしようという意識が少なからず感じられた。

 学園は貴族や富裕層の子供が通っており、そのためすでに婚約者が決まっている人も多いらしい。僕とメアリーの関係が他人事とは思えない部分もあるのだろう。


 ただ、一部の人達は僕達から距離を置き、何かひそひそと話していた。

 話の内容は聞き取れなかったが、明らかに良いことを言われているようには思えない。


「気にする必要はないよ。ウィルの活躍は非常に注目を浴びているが、それは同時に嫉妬などの負の感情も生まれる。特にウィルの出自が不明なところが気に入らないのだろう。でも、それはよくあることだ。向こうから何か手出しをしない限り相手にする必要はない。馬が合わない相手は必ず存在すると割り切って対応することが貴族の交友というものだ。メアリーさんも、それでいいね?」


 僕は別に構わない。前世を経験しているからかエリオットの言うことに一理あると思っているからだ。むしろ11歳にしてその考えに至っているエリオットの方がすごいと思う。

 メアリーは僕の陰口を言う人に対して一言文句を言おうとしたようだが、エリオットに止められておとなしく僕の横にくっついていた。


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