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夜襲

『キャプテン。前方に敵船と思われる船を検知しました』


 艦橋内にあるモニターに映し出されたのは、暗闇に浮かぶ1隻のコグだった。

 僕達は計画通り夜に接敵できた。現在、こちらの存在に気付かれないよう、照明類は全て落としてある。


「肉眼でも見えない位置の敵まで映し出すとは、さすが精霊から与えられた船。それにあの船の形状から言うとコーマック海軍の船を鹵獲したようですな。その証拠に、報告にあった敵旗艦の状態からはほど遠いほど綺麗ですし、やつらが搭載していないはずの大砲も装備してある」


「ジェフリーさん、捕虜はどうしたのでしょうか?」


「奴らは捕虜なんて取りませんぞ、ウィル様。レリジオ教国にとって異教徒は生かす価値がない人種ですからな。むしろ下手に捕虜を取ると異教徒に情けを掛けたとされ、最悪死刑になるほどの重罪ですからな。その証拠に、戦闘力があるガレーを鹵獲せず、必要な船員が比較的少ないコグを鹵獲しています。あいつらが捕虜を運用する発想があれば迷うことなくガレーを鹵獲するはずでしょうからな」


 なんとも胸くそ悪くなる話だ。それに政治に宗教ががっつり入り込んでいる弊害みたいなものも見える。

 宗教を優先しすぎて合理的な行動を取れない状態だ。これでは他の国に侵略して領土を拡張するなんて夢のまた夢だろう。


「ところで、これからどうされますかな? どう考えても大砲や銃が届かない位置ですし、仮に打ち込んだとしても回復魔法使いが敵の負傷を元に戻してしまいますし、船の破片を弾にしてこちらに投げつけてきますぞ」


「それなら、出撃する前に準備してあります。マリー、魚雷の用意を」


 実は、ポイントを使って魚雷発射管を装備した。場所は船後方の船底部分で、両舷に1門ずつ、計2門。

 大砲と同じく風魔法か水魔法で破裂させる。さらに魚雷だけでなく機雷もばらまける。さらに、使わないときは折りたたんで収納でき、航行時に余計な水の抵抗を受けないように出来る。

 ちなみに、設置費用は700ポイントだった。船を大きくすれば、最終的に5セット10門装備出来る。


『魚雷発射準備完了』


「よし。弾種は水魔法だ。狙いは敵船の火薬庫。撃て!」


 そしてヘーゲル号の船底から、2発の魚雷が発射された。

 ちなみに水魔法を応用し、ミサイルの側面から海水を取り込み後部から高い水圧を掛けて噴射し推進力を得ている。


 魚雷は敵に気付かれぬまま突進し、見事船底に命中した。

 しかも僕の狙い通り静かに破裂したため、音で気付かれた様子はない。衝撃で気付かれるかもしれないが。


「ほう、水中を泳ぐ爆弾とは驚きました。して、これから敵はどう出ますかな?」


「このまま沈んでくれればありがたいですね。そうでなくても火薬庫を狙ったので、火薬は濡れ大砲の弾は水没して取りに行けなくなるはずなので、少なくとも大砲は使い物にならなくなるはずです」


 しばらくすると、敵船の甲板に人が続々と集まった。どうやら沈みかけていることに気づき、なるべく安全な甲板上に退避しようとしているらしい。

 そして、それは僕の狙い通りある人物をおびき寄せた。


『強力な魔力反応を2点確認。いずれも敵船甲板上に出現しています』


「例の肉体強化系の魔法使いと回復魔法使いだな。その2人に注視しておけ」


 しばらくすると、敵船がスピードアップした。どうやら櫂を取り出して沈没する前にノーエンコーブへたどり着こうという腹積もりらしい。

 が、よく見ると出された櫂は1本のみ。それが左舷と右舷をせわしなく動き、船の直線的な動きを保たせているようだ。


『魔力反応の1点、左舷と右舷の間を動き回っています。櫂の動きと完全に同期しています』


「ってことは、肉体強化の魔法使いが一人で動かしてるって事か!?」


 そんな小舟でやるようなことをコグでやるとは、本当に恐ろしい才能を持っているな。

 だが、敵船が進んでいることに変わりは無い。次の計画を実行に移す。


「マリー、機関銃の狙いを付けろ。射程に入り次第、あの厄介な魔法使い2人をさっさと始末する」


『了解』


 そして敵船はぐんぐんこちらに近づいていき……。


『機関銃の射程距離に入りました。狙撃します』


 パスパスッ。


 2発の空気音が炸裂し、2人の魔法使いの命を刈り取ったかに思えた。


『狙撃、一発は成功。ほとんど動いていないターゲットです。櫂を漕いでいたと思われるターゲットは射殺に失敗』


「これで完全に警戒されてしまいましたな。ウィル様、次の作戦は?」


「接近戦を実行する。各員、武装準備。接近次第敵の甲板に銃を撃ち込め。フォアセイル、トップスル、トガンスル、メインスル展開、こちらも接近するぞ!」


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