カーバンクル
うん、落ち着こう。見間違いだきっと。短い前足で何度も目を擦る。よし、もう一度。
個体名:ナビ
容量1/100
内容物:魔王(幼体)
アウト。これは普通にアウト。何考えてんだあの神。
だからあんなにしつこく確認するかどうか聞いてきたのか。
いくら魔王でも子供そんなところに入れたらダメだろ。
『魔王(幼体)を還元しますか』
ナビさん君突然喋るなよ。ビックリするだろ。
で、還元とは?
『還元:収納に入っている物を使って自身の能力をあげる。また価値があればあるほど上昇する。使用したものは消滅する』
消滅て、君・・・ダメでしょ!なにさらっと魔王殺そうとしてんの!
とりあえず出して!一刻も早く魔王出して!
『収納より魔王(幼体)を取り出します』
そう言えばどうやって出てくるんだろう。普通に考えればポーチの開け口からだろうけど、このナビに常識を求めてはいけない気がする。
じっと脇腹を見つめていると、にゅっと何かが飛び出してきた。
リスの口から。
ポトンと地面に白い布に包まれたものを落とすと、大きく口を開いていたリスは口を閉じて沈黙した。
キモチ悪。なんださっきの。常識は通じないとは思ってたけど口から出すとは思わなかった。
ただそこにリスの顔があるからってだけで、口本来の用途ではないのだろうけど、なんか、その、触りたくないな・・・。
でもそう言うわけにもいかない。
この子を魔王に育てることでちゃんと輪廻の輪に戻れるのだ。いわばこの子は私の生命線。ちゃんとしなければ。
人の頭ほどの大きさのもの。布に包まれていてよく分からないけれど何やらモゾモゾ動いている。
抱きあげようとして自分が獣だと言うことに気づいた。
この前足じゃあ流石に子供を抱き上げれない。
仕方ないので口で軽く咥えて布を少しめくった。
白くもちもちとした肌、ぷっくりとしたピンク色の唇。黄金色のつぶらな瞳。ぷくぷくの手をこっちに伸ばしてバタバタさせている。丸々とした愛らしい赤ん坊がそこにいた。
まるで普通の人間のよう。
唯一「魔王」を思わせるものがあるとすれば、額にある小さな角だろうか。
「か、かわいい・・・!!」
なんだこの小動物。可愛すぎる・・・。
一瞬で母性本能とやらをくすぐられた。
私オスなのかメスなのかわからないけどね、感覚的に何かそんな衝撃が襲ってきたんだよ。
きゃっきゃっとこちらに手を伸ばしてくる赤ん坊の頬を爪があたらないようにそっとつつく。
すると、ぎゅっと前足を握られた。
ちっちゃい手でかわいいねぇ・・・いだだだだだ!
あまりの痛さに思わず前足を引いた。
うわぁ、何か感覚ないんだけど、大丈夫?これ。
というかさすが魔王。赤ん坊でもとんでもない力だな。転生初日で足もげるところだった。
赤ん坊はまだきゃっきゃっと嬉しそうにこちらに手を伸ばしている。
うん、もう迂闊に足伸ばしません。
さて、これからどうするか。ここは森のなか。見渡しただけでも、食料や隠れる場所は豊富にありそうだ。
とりあえず何がいるかわからない場所では落ち着いて考えることもできない。隠れることができて、且つ拠点にできそうな場所を探すか。
と、その前に。
「ナビ。私の能力とかって見える?」
『可能です。ステータスを表示しますか』
頷くと先程と同じように半透明な板が現れた。
なになに・・・。
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個体名:カーバンクル
レベル1
無性
種族:カーバンクル
HP 80
MP 20
力 G
耐 G
速 G++
魔 G+
育児度─
スキル:逆鱗 鞭術(尾)
特殊:賢者の石
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ふぅむ、ステータスはアルファベット表記なのか。GからFED・・とあがっていくのだろうか。そうなるとこれかなりステータス低くないか?速さは一番あるけど耐久が、Gって何かしら攻撃受けたら即死の可能性もあるのでは・・・。
というか個体名が種族名と同じってどうなんだろう。これ自分で変えられないのかな。
『不可能です。個体名は自分以外の誰かに名付けられて始めて変えられます』
あ、そうですか。別に不便はないからいいけども。
しかし、私無性だったのか。前世の自分のことは記憶にないからオスでもメスでもどっちでもいいと思っていたけれどまさか性別がないとは。これって母親でもあり父親でもあるとかそういうこと?いや、まさかね、神がそこまで考えてるとは思えないし、たまたまカーバンクルという種族がそういう性質だったんだろう。
魔王がいるってことはファンタジーな世界だろうし、何でもありなんだろきっと。
それから・・・育児度って何だ?数値は出てないけど魔王ベビーを育てたら増えるのだろうか。ナビさん教えて。
『育児度:魔王を育てるにあたり、その成長に貢献することでポイントが与えられる。このポイントは進化にも影響する。』
うん、アバウト。わかってたけどナビってあまり詳しいこと教えてくれないよね。不親切設計だ。
スキルも気になるけど、特殊項目の賢者の石ってなんだろ。
『賢者の石:カーバンクルの特殊なパッシブスキル。瀕死になっても額の宝石で復活することができる。宝石は使用すると壊れてしまうがしばらく魔力を与え続けると再生する』
ほーほーなるほどなるほど。
うん、なかなかいいスキルだ。ステータスは弱いけど特殊スキルは強いなカーバンクル。一回死んでも復活できるとか、ボスによくある仕様だな。しかも額の宝石を再生させれば何度でも使えるとか・・・。あ、でも何かナビが進化がどうたらこうたらって言っていたけど、進化したら使えなくなるんだろうか。それはちょっとなぁ。万が一の保険は残しておきたいし・・。
まぁ進化のことはまたその時にでも考えるか。
ところでナビ。こんな特殊スキル持ってるカーバンクルとは一体?
『カーバンクル:額に赤く美しい宝石を持つ幻獣。額の美しい宝石を得るためと、愛玩動物とするために狙われやすく、また力も弱いため人間たちの格好の獲物である。魔法と素早さに優れ、喉元にある逆鱗を剥がすことで大幅なパワーアップが可能である。この逆鱗を剥がした際のカーバンクルは非常に危険なため魔物に分類されている』
スキルにあった逆鱗ってこれのことか・・・。何かこれだけ見ると何気に強そうだなカーバンクル。
そう言えば魔王のステータスも見れるのだろうか。
『可能です。魔王(幼体)のステータスを表示しますか』
よろしく。
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個体名:魔王
レベル-
男
種族:魔王(幼体)
HP 1000
MP 500
力 C
耐 B
速 E++
魔 D+
スキル:衝撃波、眷属化
特殊:環境適応
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・・・うん、これさ。私いらなくない?