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Episode-86 『明日に向けて・超清純派女優の場合』


「いやぁ、何やかんやで今日は色々ありましたねぇ~」


「そうだねぇ…。やっぱり一筋縄じゃいかないって感じかな」


「でも突破口はちょいと見えたんちゃいます?」


「――うん、そうだね」


 時刻は深夜0時ちょっと前。

 宿泊学習中でも関係なく私と紗凪ちゃんはメインルームのいつもの布団に並んで眠ろうとしていた。


 ちなみに鬼村ちゃんは数時間前に自分のプライベートルームに戻っていった。

 といっても、あの昼食から実は結構な時間話せたし夕食も一緒に食べることができた。そのおかげでその人となりはそこそこ分かったつもりだ。

 それを踏まえて言うと私個人の意見では悪い子じゃない。むしろ、見た目ちょっと尖ってるだけで中身は普通にいい子だ。それはきっと紗凪ちゃんも同じ認識だと思う。


 さて、となると問題は必然的にもう一人。

 あの漫画家先生なわけだ。

 結局あれ以降は部屋から出てきたのはトイレの一度きり。それもこちらに目もくれずにそれを終えるとすぐに自分の部屋へとリターン。当然昼食以降、私たちが二ノ前先生の姿を見たのはその一度だけ。

 珍しい動物か何かかな?

 あとお風呂入れよ!


 とまぁ、数年前初めて会った時の変人感は未だに健在という訳だ。

 しかし、現実的に私たちはあの変人漫画家先生と鬼村ちゃんの間を取り持たなくてはいけない。それも残された時間はあと二日だけだ。

 というわけで、私たちが考えた作戦はというと、


「というか、ホンマに明日の個別作戦って大丈夫なんですか? うちは何となくもう鬼村とは打ち解けた感があるからあれですけど、夜さんはほぼほぼゼロからでしょ。負担的には夜さんの方が圧倒的な気がしますけど…」


「心配してくれてありがと。でも、大丈夫だよ。昔一度会って話してるからこれでもそこそこあの人の人格は理解できてるつもりだしね。それに確かに大変な役目ってのは重々承知の上だけど、逆にそんな大変な役目を紗凪ちゃんに押し付けるわけにはいかないしね。頑張ってみるよ」


「おー! ――夜さん、かっきぃです!」


「ふふっ、ありがと。そして二ノ前先生の方は私に任せて紗凪ちゃんも頑張ってね」


「はい、うちはうちで全力で頑張りますわ」


 名付けて個別攻略作戦。

 二泊三日の中日なかびである明日は私と紗凪ちゃんが別々に動き、一人一人とより関係を築き二人を引き合わせるための材料をつくるという作戦だ。

 

 お察しの通り組み合わせは紗凪ちゃんと鬼村ちゃん。そして私と二ノ前先生。

 現役女子高生コンビと23歳コンビだね。

 …余計なこと言ったね。今のなしで。


 まぁ紗凪ちゃんの言うように多分私の方が重労働で難関だろうけど、決めたからにはやるしかないね。

 紗凪ちゃんに良いとこ見せたいし。

 お姉さん頑張っちゃうぞ!


「――じゃあ、明日はお互いに大変そうだしもう寝よっか」


「そですね。おーい、百合神。電気消してくれや」


 そしていつも通りの紗凪ちゃんから百合神様への声の合図でメインルームの電源が落ちる。

 あっ、今さらながらこれ夜に起きてきた二ノ前先生と鬼村ちゃんビックリしちゃうかな? …いやっ、でも大丈夫か。その辺は個人で何とかしてくれるでしょ。


「じゃあ、夜さん。おやすみなさい」


「うん。おやすみ、紗凪ちゃん」


 紗凪ちゃんの就寝の挨拶に私も同様に答えて瞼を閉じる。 

 あー、もう日常の一部と化したこの「おやすみなさい」の瞬間がすっごい幸せ。

 寝る前に好きな子から名前呼ばれて「おやすみなさい」って…、サイコ―過ぎでしょ!!


 ってなわけで、もう何回も経験していることなのに今回も新鮮に幸せを感じてそれを噛みしめながら、横から紗凪ちゃんの寝息が聞こえ出した辺りで私もゆっくりと眠りに落ちていった。


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