Episode-85 『天才たちの邂逅・変人漫画家の場合』
第一印象は変なやつ。
そんでもっと言うと漫画に出てきても全くおかしくない様な圧倒的な個性を持ってるやつ。
***―――――
「二ノ前せんせー、アポの確認終わりましたよー。さあ、レッツらゴー!」
受付から小走りで戻ってくる陽気な女の声に私はゆっくりとソファから腰を上げる。
今いるのは、とある収録スタジオ。そしてここに来たのは私の作品のアニメ化のレコーディング見学のため。ただそれだけだ。
最初は行くつもりもなかったのだが、とある人物の全力の説得+お願いにより仕方なく腰を上げたってな感じだ。
そして、そのとある人物こそが意気揚々と現在進行形でこちらに向かってくる私の担当編集、青葉三奈というわけだ。
年齢は一度聞いたが忘れた。多分大学新卒数年目だから二十前半~半ばあたりだろう。
「テンション高いな…」
「そりゃあそうでしょう!? 声優さんのアニメの録音を生で見れるんですよ、これはアニメファンにとって恐悦至極の狂喜乱舞案件ですよ!」
「あっそ…」
「しかも、先生の意見と偽って私のキャスティング希望を申請したらそれが半分近く通ったんですからこれでテンション上がらなかったら嘘ですよ~。いやぁ、これホント私は先生に一生頭が上がりませんね。よっ、大先生! 私でよかったらなんでも言うこと聞いちゃいますよ♪」
「なら少しはテンション抑えろ。それでアポ確認できたんならさっさと行くぞ」
ちなみに聞いてわかるように非常にテンションが高いのが難点だ。
だが、その分だけやるべき仕事は完璧にこなす優秀さを持ってる。そこそこ年下の私にタメ口を利かれてもまったく気にしてないのも好印象だ。
まぁまとめるとそこそこ有能な編集ってとこだな。
そんな青葉の「ははぁー」と芝居がかったムカつくエスコートの元で私たちはエレベーターに向かう。
そしてその前まで辿り着くと、青葉が上のボタンを押す。エレベーターは最上階にいたようで少し時間がかかりそうだ。
「そういえば先生はアニメとか見ないんですよね。それってクリエイターとしてどうなんですか?」
「私はアニメ監督でもアニメーターでもなく漫画家だ。ちょい似てるだけで、そもそもの畑が違うだろ」
「そういうものですか? 違ったとしても創作活動同士として参考になりません?」
「そういうもんだ。もしアニメが舞台の漫画を描くことでもあればその時は勉強のために参考にするさ」
「あっ、それいいですね。次回作は声優さん主役の日常物とかどうですか? そう言えば知ってます? 主役の声優さんはオーディションでの選出だったんですが、選ばれたのはデビューしたての新人さんらしいですよ。凄いですよね、天才肌ってやつかな~望城レインさんですって。天才同士で先生と気が合うんじゃありません?」
「…疑問を連続でぶつけるの止めろ。それとさっきも言っただろう、私は別の畑には用がないと行かない。よって興味ない」
『ポーン、一階です』
ちょうど青葉の質問に私なりに答えたところでエレベーターが到着する。
特に降りてくる別の人間もいなかったため二人して乗り込む。そして、青葉が収録スタジオのある三階のボタンを押すとゆっくりと扉が閉まっていく。
「まぁでも、お仕事に関係なくても肩休めとかも兼ねてアニメとか見るのは個人的におすすめですけどね」
「…地味にしつけーな」
「ははっ、まぁ私がリアルでアニメを語る相手が欲しいってのもありますけどね。いやぁ実は私って先生と同じくらいの歳の妹がいるんですけど、先生と同じく生真面目な性格でね~。昔は一緒に見てたりしたんですけど数年前から学業に集中したいってアニメ卒業しちゃったんですよ」
「私は妹の代わりかよ…」
「そんな代わりだなんて人聞き悪いですよ、ただぁ新しい仲間が欲しい的な? ――あっ、そうだ。唐突ですけど、声優さんに貰うサイン用の色紙ってカバンからもう出しといたほうがいいと思います?」
「ホント唐突だな。というか今さらながらお前職権乱用し過ぎだろ。担当漫画家が私じゃなかったら、結構大目玉じゃねぇのか?」
「かもしれませんね。――でも私の担当は二ノ前先生ですから♪」
ニカっとまるで罪悪感皆無の顔で笑う青葉。
それに私は「はぁー」と諦めた様なため息で応える。
私も相当変わっているという自覚はあるが、こいつも相当だよな。
だが、短期間で何度も担当を変えてきた私がこいつでもう一年以上定着しているのだから、私の担当編集はこれくらいぶっ飛んでいた方がいいのかもしれない。
変人漫画家と変人編集者。コンビとしては噛み合っているのだろう。
「――ふっ」
「? なんで笑ったんですか、先生?」
「笑ってねぇよ。ほら三階だ」
思わずこぼれた笑みを目ざとく指摘してきた青葉の言葉をはぐらかす。
そして私の言うように、
『ポーン、三階です』
エレベーターが三階への到着を告げた。
そして、ドアがゆっくりと開く。開いた視界の先には『収録スタジオ』と書かれたドアが一つ。
それを見ただけで青葉のパッと移り変わり、エレベーターからノリノリで飛び出す。
現金なやつだ。
「おおおっ! あれが夢にまで見た声優さんの収録スタジオ!! あー、アニメ化漫画家の担当になれて本当によかった~~、幸せ~~!!」
「青葉、いい大人がうるさい。心の声で喜べ」
その社会人とは思えないテンションに呆れながら、その後に続く様にエレベーターから降りる。
が、
「ん?」
そこで思わぬ声が横からかかった。
澄んだ可憐な声。おそらく声優だろう。単語どころか一文字だけだが、それを聞いただけで反射的にそう感じるほどに綺麗な声音。
それにつられる様に青葉と二人揃って声のした方へと顔を向けると、
「は?」
「ええっ?」
そこで思わず疑問の声が青葉と重なってしまった。
何故ならそこにいたのは、外見からして凄まじい程の個性が溢れ出している二人組。
一人は美容とか人の容姿にほぼ関心のないといってもいいレベルの私でさえも美人に分類されると本能で理解できる程の整った容姿をした同い年くらいの女子。
そしてもう一人。こちらも整った容姿だが…それを上回って覆い潰すほどの圧倒的な特徴があった。メイド服を着ているのだ。その上何故かコスプレ的なパチモン臭さが無くどこか本物のメイド然としている気がする。
それを見たときの私の第一印象はもちろん、
――なんだ、この漫画に出てきそうな二人組は…。
ってな感じだったわけだ。
何はともあれ、これがおそらく一生忘れるほどのない程に衝撃的な私と望城レインの百合の花園以前での初めての邂逅だった。




