Episode-83 『はじめまして、鬼村さん・人見知りヤンキーの場合』
とりあえず思ったことがある。
同じ状況下でもこうも別の関係性になるんだなぁ、ってな感じだ。どう考えても元から知り合いだったって感じではなさそうだしな。ここに来てからの数週間足らずでこの今の関係性を築いたのだろう
テーブルを挟んで目の前で仲良さそうに話す二人を見て単純にそう思う。
「あっ、次うち聞いてもええ?」
「別に…、構わないけど…」
「おおきに。でな、なんであんたらそないに仲良くないん? ワースト5に選ばれるとか相当ちゃう? ちなみに、うちらの予想やとあの人が漫画ばっか描いとるさかいにそもそも話す機会自体無かったんちゃうかと思うてんけど」
そんなことを考えていたところで、関西弁の同年代の方――音木の方がそんなことを聞いてきた。
また随分ストレートだな…、とは思いながらもその包み隠さない言動行動はどちらかといえばアタシは嫌いじゃない。裏表なくスッキリしてそうなのが逆に話しやすい。
「うーん、そうだなぁ…」
しかし、そうは言ってもテキトーに答えるわけにもいかない。
少し考えるように顎に手を当てながら、頭の中でその問いに対する回答を整理する。
そして、
「実際、二ノ…いやあの人がずっと部屋にこもって漫画を描いているのは事実だ。まぁ、漫画を描いてたってのは今知ったんだけど…」
「せやろ~」
「ああ、…でもそれでも会話する機会が無かったわけじゃない。メインルームでバッタリってのは何回も会ったし。その時、アタシから話しかけることもできたんだけど…なんというか…上手く踏み込めなくて。それでいつもちょっとだけ挨拶するくらいで済ましてて、そのままズルズルと…ってな感じで」
「なんや、自分そんなナリして人見知りかいな」
「うっ、うっせーな…! しょうがねぇだろ、昔っからそういう性分なんだから。人を見かけで判断すんな!」
「ハハッ、そりゃ堪忍な。それにしてもあれやな、見た目は完全に輩やけど結構とっつきやすいやっちゃな。気に入ったわ。ね、夜さん」
カラリと笑いながら音木が話を虹白夜に振る。
……ていうか、今さらだけど本物だよね。
うわーっ、すげぇ顔が小っちゃい! 肌凄い綺麗! それにテレビで見るよりも更に美人!
「そうだね。まぁでもこれで主原因はやっぱり二ノ前先生だってことも判明したね。鬼村さんはちょこっと人見知りしちゃっただけってことで。だって、二ノ前先生の方からもっとコミュニケーション仕掛けてきてくれればそれには全然応じるつもりはあるってことだもんね」
「…え、ええ。まぁ、はい、そんな…感じです」
「せやったら、意外といけそうな気ぃしますね。お互いに会話したくないとかやったら手の施しようがあらへんけど、これならキッカケさえ作って背中押せばいけるんと違いますか?」
「そうだね。安心して、鬼村さん。私と紗凪ちゃんが頑張って力になるから。ここで二ノ前先生との
距離を縮めちゃえば元の場所に戻ってからの11ヶ月も過ごしやすくなるはずだよ」
「…えっと、どうもです」
メチャクチャ親切なその対応に思わずペコッと小さく頭を下げながらお礼の言葉が口から出る。
この二人――いい人たちだ! それも凄く!!
が、そう心の中で人の善意にグッと来ていたところで音木の方が「んー、それはええねんけど…」と不思議そうに口を開き、
「なんで自分、うちとの会話も夜さんとの会話も両方うちと顔合わせてしてんねん。夜さんと話してる時はちゃんと夜さんの方を見ぃや」
「…え?」
唐突にそんなことを指摘してくる。
正直、気づかなかった。というか意識してやってはいなかった。
…いやでも、それは無意識下でやってしまうのは仕方なくないか?
「いや、だって…! テレビでしか見たことない有名人だし、現実感ないっつーか…。アタシみたいなもんがそんな顔をマジマジと見るのも失礼だろって話で。…そもそもっ、なんでお前はそんな距離感近いんだよ!」
「あー、まぁそう言われれば気持ちが全くわからんわけやないけど…。そこは慣れやろ、慣れ。いくら夜さんが絶世の美女で女優さんやからって人は人や。それに夜さんメッチャええ人やねん。一緒におって楽しいし。せやから、うちも気軽に接して暮らせるんやろな」
「いやっ、まー、そりゃあ…そうだろうけど…」
その真っ直ぐすぎる言葉にアタシの方がリアクションに困る、よく本人の前で恥ずかしくなくそこまで言えるな。
…いや、こう真っ直ぐ自分の気持ちを言えなかったからこそアタシたちの今の関係性があるってことか。
それを虹白夜の方も嬉しそうというか幸せそうな顔でそんな音木を見てるし。
この二人はお互いに心から仲良く楽しく暮らしてるってことね。
…うん、ちょっとうらやましいかな。
――もしかしたら、本当にこの二泊三日が終わってアタシとあの人の関係性が少しでも近づいたらアタシ達もとこんな風に…とまではいかないだろうけど、少しは仲良くできるのかな。
このときにアタシの中でほんの少しまで考えもしなかった、いや正確に言うならばすでに諦めていた同居人との関係の向上に光明が差した。
そんな気がした。




