Episode-82 『はじめまして、鬼村さん・超清純派女優の場合』
紗凪ちゃんの頭脳プレイ?により、ゆっくりとドアが開く。
そして、そこからおっかなびっくりといった様子で鬼村ちゃんが顔を出した。
初めて近くで見たその顔は思っていたよりもずっと可愛く美人さん。歳も紗凪ちゃんと同じくらいかもしれない。
まぁ、紗凪ちゃんの可愛さには当然敵わないけどね。
「あっ、あの…」
でも、同時に人見知りさんなのかな。
出てきたはいいがドアから離れずに、発する言葉を探している様子。
だからこそ私は、
「ささっ、お昼ご飯食べよっか。紗凪ちゃんのたこ焼きはすっごく美味しいよ。そこで食べながら色々と話そうよ」
そう笑いかけた。
そして、
「えっ…、あっ、はい」
「よっしゃ。ほな、作戦完了いうことで。テーブルに戻りましょか」
そんな紗凪ちゃんの声と共に私達三人は食事の仕切り直しをするためにテーブルへと戻ったのだった。
***―――――
「てなわけで、改めて初めましてやな。うちは音木紗凪や、あんじょーよろしゅう頼むわ」
「虹白夜です。しがない女優やってます。三日間の間だけどよろしくね」
そんなわけでテーブルを挟んで改めての自己紹介。
席順は四人掛けのテーブルに私と紗凪ちゃんが並んで座り、紗凪ちゃんの対面に鬼村ちゃん。空席が今はいない二ノ前先生の席。
うーん、最終日辺りには四人全員席についてご飯とか食べられたらいいけど…。これは正に私たちの頑張り次第だよねぇ。
「えーっと、アタシは鬼村桃。歳は十六で高校二年生…です」
そして、私たちに習うように鬼村ちゃんも自己紹介をしてくれた。
予想通りというかなんというか、紗凪ちゃんと学年も一緒の同い年。つまり女子高生なわけだ。
ふぅー、まさか女子高生二人に囲まれてお昼を食べれる日がくるなんて一か月前は思わなかったよ。あっ、でも一応言っておくけど可愛い女子高生だからって紗凪ちゃんから目移りとかは絶対しないけどね。
「おー、タメやん。偶然やねぇ」
「えっ、てことはあんたも高二なの?」
「せやけど、見えへん?」
「いや、別に見えないってわけじゃないけど…」
「ハハッ、なんやそれ。変わったやっちゃなぁ。まぁええわ、熱いうち食べよか」
どこかぎこちない鬼村ちゃんの喋り方に快活に笑いながら、紗凪ちゃんが舟皿と飲み物を配膳する。
「夜さんも、もう一舟くらい食べられますか?」
「うん、全然食べられるよ」
同様に私にも舟皿を運んでくれた。
そして、私はいや私だけは気付いていた。何気なく私と鬼村ちゃんにたこ焼きを渡してくれた紗凪ちゃんだけど、紗凪ちゃんの行動の一挙手一投足を見逃さない私は紗凪ちゃんがくれたのが新しく焼いたまだ温かいたこ焼きが載っている二つの舟皿だということに。
あ~、なんていい子なの紗凪ちゃん。
それが当たり前のことの様に他人に暖かくて美味しいものをあげて、自分は何も言わず最初につくった少し冷めてしまったたこ焼きを食べるなんて!
やっぱり、紗凪ちゃん大好き! ホント好き!
というわけで、外面にも内面にも私は紗凪ちゃんに心底惚れ込んでおり今後さらにこの惚れ込みは深く大きくなっていくのは間違いない。
だから、これから先にどんな可愛い女のことであっても私が紗凪ちゃん以外に目移りするなどということはありえないのだ!
――っと、いけない。
また紗凪ちゃんのことを想いながら自分だけの世界に入ってしまった。
うーん、さっき二ノ前先生がいたときも私は問答無用で紗凪ちゃん好き好きモードに入ってしまう癖があるからな~。
そこは反省しよう。そしてできる限り控えよう、少なくともこの三日間は。
「鬼村ちゃんは、元の世界ではどの辺に住んでるの?」
その反省の意味も込めてたこ焼きを食べながら鬼村ちゃんに話を振ってみる。
まぁ、解決の糸口を探すには二ノ前先生とのこれまでの生活のことを知りたいけど、いきなりそこ聞くのもド直球過ぎる気がするしね。こういうのはまずは世間話から。
「えっ…えーっと、昔は親の転勤とかであちこち住んでたんですけど五年前からは東京です」
「あっ、一緒だ。私の場合はずっと東京だけど。あっ、たしか二ノ前先生も住んでるのは東京だよ」
「えー、じゃあうちだけちゃいますね。地味に仲間外れ感やぁ」
「? あっ、そういえば。私、紗凪ちゃんが住んでるの関西ってことしか知らないかも」
「ん。あー、確かに言うてへんかったかもしれませんね。住みは大阪で生まれは京都ですね。おとんが京都でおかんが大阪なんですよ。せやからうちの喋り方、大阪弁とか京都弁がちょい交ったみたいなちょい変わった感じなんですよ」
「へぇ~」
思わぬところで新たな紗凪ちゃん情報をゲットできた。
まぁ、今まで「何となく大阪じゃないかなぁ~」くらいは予想してたけど、当たったね。私の愛に狂いなし。
っと、いけない。
また紗凪ちゃんワールドに迷い込んでしまった。
二人で会話しちゃ、鬼村ちゃんが気まずくなっちゃうよね。えーっと、次の質問は――、
「あっ、次うち聞いてもええ?」
が、私と同じことを思ってか今度は紗凪ちゃんの方が鬼村さんに向かってそう話しかける。
さすが紗凪ちゃん!
「別に…、構わないけど…」
「おおきに。でな、なんであんたらそないに仲良くないん? ワースト5に選ばれるとか相当ちゃう? ちなみに、うちらの予想やとあの人が漫画ばっか描いとるさかいにそもそも話す機会自体無かったんちゃうかと思うてんけど」
…………ド直球だね、紗凪ちゃん!!




