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Episode-7 『百合談義・関西弁JKの場合』


「いや、ええて。もうぶっちゃけ聞きたいこと聞けたし、これ以上は余計やねんけど」


『いーや、聞いてもらうぞ! 絶対に、ぜーったいに聞いてもらう!』


 うちのどの言葉が琴線に触れたんかは知らんけど、なんややけに盛り上がっとる百合神。

 あかん、マジで興味ないわ。どないしよ?

 チラリと隣の虹白さんへと視線を送る。


「どないします?」


「えっ!? ああ、そうだね…。私は聞いてみてもいいと思う」


「ほんまですか?」


「うん、郷に入れば郷に従えって言うし。一回百合神様の考えを聞いておくのも悪くないんじゃないかと思うんだ」


「うーん、まあ確かにそうかもしれませんね」


 どうやら虹白さんは前向きに考えてはるらしい。

 そして、何故か頬がちょっと赤い。

 風邪やろか、いやそんな急に風邪ひかへんやろ。自分で自分にツッコミを入れる。

 …まあ、それは今はええか。


「なんや虹白さんは聞いてくれるらしいわ。お礼言うといた方がええんとちゃうか」


『ん? ああ、ありがとう。――って、なんで私が礼をせねばならんのだ!?』


 おっ、なんやこいつ。

 中々やるやんけ、自然にノリツッコミしてきよった! 


「フッ、そのノリツッコミに免じてうちも話を聞いたるわ」


『何故、私がわがままを言っているような感じになっているのかわからんがまあいい』


 しぶしぶといった感じの百合神。

 そこで切り替えるようにゴホン咳払いを一つしてから百合神は話し始める。


『初めに問おう? お前がさっき言ったようにもし仮に私が貴様らのプライベートを隅から隅まで覗けたとする。はたしてそれは百合と胸を張って言えるか?』


「いや、知らへんわ」


『知らないのなら教えてやる。それは百合ではない、百合に似た何かだ。いいか、百合とは女子で始まり女子で完結しているものだ。そこに他者の入る余地はない。余分な不純物が入るとその純度はガクッと落ちてしまうのだ』


「…うん、自分さっきからなにを言うてんの? 一回、医者に診てもらえや。百合神なんてよーわからんのがおるんやから医者神なんてそこらじゅうにぎょうさんいてるやろ」


『その例における今回の不純物とはつまり私だ。神とはいえその多くには性別はある。そして、私は男性神だ。いくら百合を司る百合神である私といえど性別が男性であるのだから必要以上に百合に介入すれば百合の純度は落ちてしまうのは必然。さっきも言ったように女子で始まり女子で完結するのが真の百合だからだ!』


 全然、うちの話聞いてへんなこいつ…。

 メッチャ熱弁振るっとるわ。

 …しゃーない、聞き流すか。あー、結局今日の晩飯どないしよ。


『だから、私はお前たちの生活に必要以上に干渉できない。いいか、ここで重要なのは”しない”のではなく”できない”という点だ。”しない”のであれば、言葉を返せばする気になればできるというわけだ。それだけで百合純度は落ちてしまう! だから私は事前にお前たちが住むその場所に私に絶対干渉できないエリアを作った。それがすなわちトイレ、お風呂、プライベートルームだ!』


「うん、せやな」


『これで純度は保たれる。私が見ることのできるのは公の場所だけ。そしてその制限は私にとってもなんのリスクもない。何故だかわかるか? それは私はお前たち個人には全く興味がないからだ。私が興味関心があるのはお前たち二人の共同生活を送り交流することで巻き起こされる百合の化学反応だけだからだ!』


「なるほどな~」


『ふっ、どうやら納得したようだな』


「…ん? ああ、終わったんかいな」


 ようやっと百合神のご高説が終わったみたいやな。

 後半ほとんど聞いてへんかったわ。

 だって興味あらへんし。あれやな、朝会の校長の話と同じジャンルやな。


『終わったんかいな? …お前、ちゃんと聞いてたのか?』


「なにを言うとんねんな~。聞いてたに決まっとるやろ」


『本当か?』


「本当やって。あれやな、最後がやっぱよかったわ。熱い思いがこっちにも伝わってきたで」


『そうか!』


 パッと花が咲いたかのように百合神の声が明るくなる。

 わっかりやすいな~、こいつ。素直なんは個人的には嫌いやないけど。

 まあその反面、人間にそんな簡単に内心読まれる神とかどうなんやろと思うけどやな。


「で、話はそれで終わりでええんか」


『ああ、満足だ――っ!? おいおい、どうした!?』


 と、そこで百合神が急に焦ったように声を上げる。

 そして、微かにそのお面はうちじゃなくその隣に向いとることにうちも遅れて気づく。


「虹白さん――?」


 百合神の視線に誘導されるように隣に目を向ける。

 そこで言葉が止まった。

 

 何故か、虹白さんの瞳からはスゥーと涙が流れてはった。


「ど、どないしたんですか!?」


「えっ、あっ! ごめん、ごめんね!! ちょっと目にゴミが入っちゃって…!」


「いや、絶対ちゃいますやん! 大丈夫ですか!?」


「大丈夫、本当に大丈夫だから心配しないで。あの、私ちょっとだけ自分の部屋行ってるね」


 とクルリと身を翻して、虹白さんは自分の部屋へと小走りで行ってしまう。

 そして、ドアを開けるときにもう一回うちの方へと振り返って「本当に心配いらないよ」と笑って、自分のプライベートルームへと消えてしまいよった。


「………」


『………』


 その突然の行動に部屋に残されたうちと百合神はお互いに無言。

 が、いつまでもそうしてるわけにはいかんわけや。

 ジトーっと百合神に目線を向ける。

 

「あーあ、泣ーかせたー」


『わっ、私が悪いのか!?』


「どう考えても起点はお前やろ」


『いやっ、まあ、そりゃそうなんだろうけど…。あれー、何が悪かったんだ…?』


 と、本気で心配そうに頭を抱えよる百合神。

 そんな様子に思わずフッと笑みが漏れるもうた。

 まったく、ホンマに変な神様やで。世話が焼けるわ。


「おい、ここ鉄板とかホットプレート的なんあるか?」


『ん? キッチンに大抵の調理器具はあるからあったはずだ』


「りょーかい。ほんなら、あとはうちに任せとけや。美味いもん食えば元気になるやろ」


 とモニターに映るアホなお面に向かってうちはニヤリと笑った。


『…ふぅ、お前に借りを作るのは癪だが背に腹は代えられん。うむ、では任せるとしよう』


「ああ、任されたで。それに貸し借りとかいらんわ。うちは思いがけずやけど新しくできた同居人に元気になって欲しいだけや」


『お前…」


 ――プルルルル、プルルルル。


 そこで不意に電子音が響く。

 音源はどうやら百合神の部屋らしい。なんや、あいつ電話なんか持ってたんかいな。

 百合神も当然それに気づき、「あっ!」と驚きを露わにする。


「ん? どないしたんや?」


『いや、なんでもない! では、もう通信きるぞ! 健闘を祈る!』


 と、メッチャ焦りながらモニターを切った。

 いや、絶対なんかあったやろ…。


「まったく、忙しいやっちゃな」


 口ではそう言いつつも、うちの口元にはやっぱり自然と笑みが浮かんでいた。


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