Episode-59 『お酒は飲んでも呑まれるな・超清純派女優の場合②』
「じゃあ。まずはコップ…やなかったグラスをどうぞ」
人知れず心の中で覚悟を決めた私に対して、紗凪ちゃんが同じくクーラーボックスの中に仕舞っていたらしいグラスを手渡してくれる。
別に呼び方はコップでも大丈夫なんだけど、まあ確かにグラスの方がお上品な感じはするからね。
「ありがとー」
受け取ると、ほんのり冷たく心地いい。こんなところにも紗凪ちゃんの気遣い力がさっそく炸裂している。
そして、肝心なお酒はというと、
「う~ん、どれがええんやろか?」
まあ当たり前ながら未成年の紗凪ちゃんからしたら何が何だかわからないだろうし、お悩みの様子だ。
というか正直そこそこお酒をたしなんでいる私でさえも紗凪ちゃんが運動場で取ってきたこのお酒たちの種類はいまいち分からない。
度数はおろかお酒の種類自体も不明。何故ならお酒のビンのラベルには『凄く美味しい最高級アルコール』としか書いてないから。
運動場の『スペシャルスポーツドリンク』のときも思った気がするけど、この簡素なラベルだけが張ってある容器にカラフルな液体が入ってるのってめっちゃ怪いよね。運動場での体験が無かったら少し躊躇するレベルだ。お酒なら尚更、密造酒感が出るしね。
そのため傍目から見たら全くどんな味がするのか想像できない。ならここは、
「じゃあさ、紗凪ちゃんがとるとき一番苦労したやつを最初に頂いちゃおっかな」
そんな提案をしてみる。
すると、紗凪ちゃんは「むっ、そうですね~」と少し悩む素振りを見せると、一本のビンを手に取った。
「やっぱ、スポーツクライミングのこれですかね。いやぁ、やってみるとアレメッチャむずかったんですよ。経験無いとはいえ小一時間くらいかかってもうたかもしれません」
「…経験なしで小一時間はとんでもなく早いほうだと思うけどね」
いや、だって紗凪ちゃんは普通に話してるけどスポーツクライミングってあの素手だけで登るやつだよね。
あれってそもそも初見じゃ絶対できない類のスポーツなのではなかろうか。
と、ひょんなことで再び垣間見た紗凪ちゃんの身体能力の高さに舌を巻きつつも、紗凪ちゃんが手に持ったお酒へと視線を移す。
色は薄いピンク色。そして、よく見ると微かに気泡のようなものが見えることからこれはもしやシャンパンの類かもしれない。
ふむ、私が最初に飲んだお酒と同じ種類と言うのは感慨深いものが少しあるね。
「へぇ~、これが。紗凪ちゃんの努力の結晶だね」
「ハハッ、そんな大層なもんちゃいますよ」
「ううん、ありがたくいただくね」
「はいな。じゃあ、開けますね」
そう言うと、紗凪ちゃんが慣れた手つきでシャンパンを開け始める。
それに私が若干不思議そうな視線を向けると、「ああ」と私の内心を察したかのように紗凪ちゃんが声を漏らす。
「これ、うち結構うまいんですよ。おとんもおかんもそこそこ色んなお酒飲みましてね。昔、『一回開けるのやらしてー』言うてから、おとんが柄にもなくシャンパンとか買うてきたときはうちが開けてやっとたんですわ」
「あー、そうなんだね。実はうちも両親がお酒好きでね、その影響でちょくちょく色んなお酒は飲んだりしてたんだ」
「へぇ~、それは思わぬ共通点ですね」
「うん、そうだね」
そして、相変わらず私と紗凪ちゃんは思いもよらぬところで共通している部分があるらしい。
ふむっ、やはりこれは運命の赤い糸とかそんなベタだけど素晴らしい奇跡で私と紗凪ちゃんは繋がっていると言っても過言じゃないね。
ふふっ、ふふふふふっ♪
「はい、夜さん。空きましたよ」
とそんなことを考えているうちにササッと紗凪ちゃんがシャンパンを開けてしまった。
うん、やっぱり早い。手先が器用なのかな。
そして感心しながらも、紗凪ちゃんがどうやらついでくれる様なので先程手渡されたグラスを差し出す。
「おっとと、こんなもんですかね~」
そこへ紗凪ちゃんがお酌をしてくれる。
ん? シャンパンをついでもらうことはお酌と言う表現でいいのだろうか? うん、違う気がする。まっ、そんな細かいことは別にいいか。
「じゃあ、いただきま~す」
「はい、どぞどぞっ。グイッといっちゃってくださいな」
口元にグラスを傾ける。
すると、やはりというかなんというか凄く美味しい。
スッと口当たりのいいアッサリタイプの爽やかなお酒だ。故に、思った以上の量を一口で飲めてしまう。
「うーん、美味しい♪」
「おー、そりゃよかったわ~。ささっ、さっきまではうちがさんざんおもてなししてもろた訳やし、今度は夜さんが花見酒を楽しんでくださいな」
「う~ん。じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな」
そうして、再び私のグラスにシャンパンが注がれた。
そして、その時の私はあまりにも幸せで、そして楽しくて完全に忘れていたのだ。
疲れもあり、寝不足という自分の身体の状態を。




