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Episode-2 『初対面・百合神の場合』


 ふっ、ふふふふはははははっ!!


 目の前の巨大なモニター。

 そこからこちらを見上げる娘どもが呆然自失と言った顔をしている。

 

 きゃつらめ、私の正体に驚いて声も出ないと見える。

 先程までゴリゴリの関西弁で私を問い詰めていた女子高生もどうやらようやく私が本物の神であることを察したようだ。


 まあ、いきなり寝て起きたらこんな状況だ。狼狽するのも無理はない。

 許そうではないか。

 何故なら私は神だから。百合神だから。


「でだ、まずはこの場所にお前達を案内した理由を説明しようじゃないか」


『待てや、お前なに勝手に話進めとんねん』


「なんだ、まだ何かあるのか?」


 まったくうるさいやつだ。

 仕方ない…、聞くだけ聞いてやろう。

 もう一度言うが、何故なら私は神だからな。


『とりあえず、お前の正体はひとまず置いといてええわ。ぶっちゃけ、そこは大して興味あらへんし』


「むっ、何を言っているんだ貴様は? 私の正体は百合神だと先程言っただろうに…」


『あー、せやな。せやせや、百合神でええわ』


「なんだそのやっつけのような言い方は…。まさか貴様まだ私のことを――」


『信じてる、信じてるわ。百合神様なんやろ。話し進まへんからそこ巻き戻すなや。ほれ、神なんやからもっと器でかく持たんとあかんやろ』


「むー」

 

 軽くあしらわれている気がするが…、まあ気のせいか。


「で、なんだ…?」


 まったく自分の慈悲深さが嫌になる。

 こんな礼儀知らずの小娘にここまで丁重に接してやるとは。


『とりあえず、家に帰せや』


「残念ながらそれは無理だ」


『なんでやねん!』


「それは簡単だ。いま家に…いや元の世界に戻っても困るのはお前たちだからだ」


『…いや、どういうことやねん』


 怪訝な顔をする二人。

 まったく、結局説明することになるのだからさっきの問答は完全に回り道だ。

 だがまあ言っても仕方ない。許そう。

 何故なら――以下略。


「これを見ろ」


 二人のいる部屋にとある画像を投影する。

 それを見てすぐさま、女優の方が何かに気付いた様に「あっ」と声を漏らす。


『…これはもしかして私の家の近くの公園の時計ですか?』


「その通りだ」


『おっ、東京ですか?』


『うん、そうだよ。深夜三時少し過ぎか、流石にこの時間だと…!』


 そこで何かに気付いたかのように女優の方が言葉を止める。

 ふむ、聡いな。


『どないしました、虹白さん?』


『…秒針が動いてない』


『故障ですか?』


 そして、こいつは鈍いな…。

 まったく仕方ない小娘だ。

 こちらで操作し、投影した画像を引きの画にして再び見せてやる。


『なっ、なんやこれ!?』


 そこでようやく事の重大さに気づいた様で声を上げる。

 そうその映し出したモニター。そこに映りこんでいる人や鳥がまるで時間でも止まったかのようにピクリとも動いていないのだ。

 それも当然だ。何故なら、実際に時間は停止しているのだから。


「今、お前達の普段生きている世界の時間は停止させてもらっている」


『なんやて!? つーか、お前に何でそんなことができんねん!』


「だっから! 私は神だって言ってんだろうが!! 何回言わせれば気が済むのだ!!」


 まだ信じてなかったのか、こいつ…!

 あー、腹立つ。そして喋りすぎてのどが乾く。

 パチンと指を鳴らし茶の入ったコップを出現させる。そして、ひとまずそれを飲み干してのどの渇きを癒す。


『あっ、お前なに自分だけ茶シバいとんねん! こっちにもよこせや! なんやお前としゃべり過ぎたせいでごっつのど乾いてんねん!』


「あー、もう一々うるさい! わかったわかった! ホントお前遠慮とかそういうの無いのな!」


 再び指を鳴らし、二人分の茶をモニター内の部屋に出現させる。

 いきなり現れたそれを何のためらいもなく女子高生の方がグビッと一気に飲む。何の躊躇もなかった。

 

「というかお前…逆に凄いな。出しておいてなんだが、普通そんな風にいきなり出された怪しいものを何のためらいもなく飲むか?」


『ごっつのど渇いとった言うたやろ。――それにホンマに不本意やけど…なんやマジもんっぽい感じしてきよったしやな』


 女子高生の表情が若干変わる。

 止まった世界と飲み物の創造。どうやら、私の神の力を実際に目にしてようやく気持ちを改めたらしい。


「フッ、ようやく私が神であることを信じる気になったか…。手間がかかる小娘だ、まったく」


『言葉に反してメッチャ上機嫌やな。で、こんな大業なことしくさって、その百合神さんはうちらに何させようっていうんや』


「神とわかっても口調を改めないのはどうかと思うが…まあいい。いくら私が神とて何の同意もなくこんな誘拐まがいのことをした非はこちらにある」


 私の言葉に二人して意外そうな顔をしおる。

 まったく神をなんだと思っているのやら。いくら神でも常識や倫理観はある。私はその中でも特段の常識人だ。人ではなく神だがな。


『で、そろそろその理由とやらを聞かせてもらってもいいですか?』


「そう構えることは無い。外の時間を止めたのはお前達に対する配慮だ。一年とはいえ戻ったとき浦島太郎状態になられたらこちらも気分はよくないからな」


『一年、浦島太郎――。つまり』


「そうだ、お前たちにはこれから一年間そこで生活してもらう」


『なんやと!?』


「言った通りだ。お前たちのいる部屋、そこには生活用品も娯楽用品も充実させている。さらに入り用なものがあれば私に言えば追加で実装しよう。不便は全くないはずだ」


 当然だ。その部屋はそのために造ったのだから。


「納得いったか?」


『いくわけないやろ! 情報多すぎて頭ごっちゃになっとんねん! そもそもうちらがここで二人で生活することに何の意味があんねん!?』


『彼女の意見に私も同意ですね。そもそも、先程百合神様がしたのは私たちをここに連れてきた理由だけで、肝心なその中身の説明が全くありません』


『ですよね~、こいっつホンマ言葉たりひんわ。だから話してて疲れるとかよー言われんねん』


「そっ、そんなこと誰にも言われたことなどない! 勝手に推測でものを言うな無礼者!」


『なんで少しどもっとんねん。さては図星やろ。何や…お前他の神様仲間に嫌われとるんかいな』


「あー、うるさいうるさいホントうるさい! あー、もう知らない! これからそれについて説明しようと思ってたけどする気失せた! お前のせいだかんな!!」


 なんなんだ本当にこいつは!

 というかさっきも言ったけど何故神だと理解した後も態度が変わらないんだ!

 頭がおかしいのか!


『いや…別にそんな拗ねんでもええやろ』


「知るか! もうちょっと今日は慣れない説明しすぎて疲れたから話はまた今度だ、ざまーみろ! …それと! 一応それぞれのプライベートルームとか造ってあるから後で見てみるように!」


『あっ、ちょ! 待てや、お――』


 そこでこちらから一方的に二人のいる部屋との通信を切る。


「ふーっ」

 

 ……………………。


 ちょっと大人げ、いや神げなかったか。

 いや…でも、あの態度はなぁー。

 いやいや…でも、私神だしなー、もうちょっと慈悲深く接してやってもよかったかも。


「まっ、後悔しても仕方なしか。まさか最後があんな問題児だとは…、だがこれでようやく全員・・に説明が終わった」


 視線を上げるとそこには五十分割された巨大なモニター。

 その一つ一つに二人一組の人間の女性の姿がある。

 私が集めた五十組百人の個性豊かな百合の蕾たちだ。

 

 そのうち何組が咲き誇るかはさすがに百合神である私をもってしてもわからない。だが、分からないこそ面白い。

 そこに百合の可能性があるのだから。


 フッ、と自然と笑みが浮かぶ。

 そして、同時に胸の中に燃える決意の炎がさらに強まるのがわかる。


「見ていろ神々ども、そしてBL神! 私が貴様らに百合の素晴らしさを骨の髄まで知らしめてやる!!」


 だからこそ私はそう決意を口にせずにはいられなかった。


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