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Episode-97 『百合談義・変人漫画家の場合』


 ~~二ノ前ユキ・作品年表~~


 デビュー作:『空窓からまどの蝶と花』

 ジャンル:とある姉妹の冒険譚

 連載期間:二年三か月(全7巻) *アニメ化作品。


 二作目:『シンデレラの夜空』

 ジャンル:お姫様が過ごしたとある一夜のファンタジー

 連載期間:一年二か月(全3巻) *劇場アニメ化作品。


 三作目:『赤い原風景』

 ジャンル:離島ホラー

 連載期間:六か月(全2巻) *週刊誌での初連載。短期集中連載作品。OVA化作品。


 最新作:『スター・マリッジ』

 ジャンル:王道少女漫画

 連載期間:三年半~(既刊10巻) *アニメ化作品。実写映画化作品。アニメ実写映画共に続編製作予定。


***―――――


 十五になりたての時にデビューして今までほぼ空白期間無く漫画を描いてきた。

 そのおかげか、そこそこ有名にはなったしそこそこ金も稼いでる。でも、私にとってはそんなもの正直に言ってあまり関係ない。

 有名になって嬉しいのは私の漫画に目を通す人間が増えることくらい、金は別に日常生活と漫画を描くのに差し支えないくらいあれば十分。


 私にとって漫画を描くという行為は手段ではなく目的なのだ。

 だから私は今日も日がな一日漫画を描く。飽きもせずに黙々と。

 それだけで心の底から充実した人生を送れているのだから、なんとまぁ安上がりで燃費のいい性根だなと自分でも思う。


 しかしぶっちゃけ飽きもせずとは言ったが、漫画を描くことには飽きずとも同じ漫画を描き続けるのには若干のマンネリ感を感じてしまうのだ。

 一応言っておくが、長期連載作品を否定しているわけではない。むしろ私は彼ら彼女らを心から尊敬している。そもそも私は読者としてはどちらかと言えば長く続く漫画の方が好きだしな。

 一つの世界観で一つの物語を長期間紡ぎ続ける、それ素晴らしい才能であり研鑽だ。


 そして私にはその才能がなかった、ただそれだけの話だ。

 だから私はこの八年間で四作もの作品を世に出している。そして、四作目にして最大ヒット作の『スター・マリッジ』ももうかなりの終盤。大体連載期間は四年とちょい位で完結予定だ。私にしてはかなり続いたと思う。

 そして、簡潔まで一年足らずだということは当然次回作の構想も十何作分くらいはできており、すでにプロットもその中から何作か製作済み…だったのだが、


「百合漫画なんてどうでしょう♪」


 昼食中に対面から突然そんな提案が飛んできたのが今の私の状況という訳だ。

 

「百合漫画かー」


「あれ? お気に召しません?」


「いや、そういう訳ではない。構想として無くもなかったよ」


 首を傾げる虹白に正直にそう答える。

 確かに今や百合は人気ジャンルの一つだし、私は今まで描いたことが無かった。だがあくまで構想の中にあっただけ、プロットをつくるまでに絞り込んだ中に百合漫画は無い。

 なので、いきなりそう言われても――!


 そこで私は望城の意図に気付いた。


「――そうか。この場所はそれに最適だな。時間もあるし、女子しかいないし。一からストーリーを練る時間も材料も揃ってる。何より百合神なんてお誂え向きの存在が造り出した世界なんだから筆も乗りそうだ」


「?」


 が、そうちょっとテンションの上がる私を前に望城の方は不思議そうな顔をしている。

 なんだその反応は…。


「ん? お前はそれが伝えたかったんじゃないのか?」


「いえ、盛り上がってるところ申し訳ないですけど…私は普通に二ノ前先生の描く百合漫画が見たかっただけですが。百合漫画大好きなんで」


「………つまり、それってお前の我欲じゃねぇか」


「―――まぁ、そう言われればそうですね!」


 私の指摘に対し、堂々とし過ぎなぐらい堂々と望城が答える。

 というか、こいつ百合漫画好きなのか。意外だな。

 そんなことを思いつつ、「ふぅー」と息を吐く。


「まったく…。だがしかし、予想とは違っていたとはいえその提案はありか無しかで言えばぶっちゃけありだ」


「えっ、マジですか!?」


「ああ、マジだ。と言っても確定じゃないぞ。いくつかの候補の中に入ったというだけだ」


「なるほど。というか、今さらながら二ノ前先生って百合漫画読まれます?」


「資料として読んだことはあるぐらいで娯楽としては無いな」

 

 そう素直に答えると、望城の瞳がキランと輝いた気がした。

 そして「ほぉ~ほぉ~」とどこか楽しそうに頷くと唐突にスプーンを持って自分の分のチャーハンをガッガッと一気に食べつくし流し込むように水を飲む。

 

「急にどうした…?」


 その行動に呆気にとられながらもそう聞くと、望城は私の問いには答えずに「ご馳走様でした! よし!」とテーブルから立ち上がる。

 そして、


「百合神様! ホワイトボードとマジック下さい!」


 と天に向かってリクエストを送った。

 ほんの数秒後、まるで用意していたかのように望城の側にリクエスト通りのホワイトボードが現れる。百合神が即座に用意したのだろう。

 というか、なんだその謎のコンビネーションは…。


「よし、二ノ前先生! ここは私が百合漫画ビギナーのあなたに最高の百合漫画に必要なものをレクチャーして差し上げましょう!」


「…スピード感がエグいんだが。そんなに百合漫画好きなの、お前?」


 そして、唐突にそんな望城による百合漫画教室の幕が上がった。


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