探偵の友人は刑事
今回は大人の世界のお話ですので、助手は最後まで休憩です。
イケメンの友人はイケメンが多いなあと感じています。
クリスマスが近い。
小江戸川越の街並みは色とりどりの光を纏って人々を出迎えている。
本川越駅の前は川越駅前よりも落ち着いてはいるが、大きなツリーが飾られ、いつもより華やいでいた。
――触ってみたい? だめ、触らせない
紗川は、目の前に留まっている広告宣伝カーのモニターを眺めていた。
艶やかな髪に宝石のような光が波打つ。真っ白なシーツの上に広がるのは、手触りが良さそうな、思わず触れたくなるような髪だ。それをたっぷりと見せつけた後に、顔を上げた美女が微笑む。
一目でシャンプーの宣伝だとわかった。
宣伝カーの前では、はっぴを着てサンプルを配る男女の姿があった。
クリスマスとシャンプーとはっぴ、全く統一性がない。
眺めているうちにCMがまた再生された。どのタイミングで美女が顔を上げ、どんなセリフを言うのか、紗川はすっかり覚えてしまっていた。何度見たのか、10回を超えたあたりからカウントをしなくなった。
待ち合わせの相手はまだ来ない。
いつも10分前には着いている人物が5分過ぎても姿を表さないのは、何かがあったとしか思えなかった。
吐く息が白い。
先に行っていると連絡をしようかと思った時だった。
ポケットから振動が伝わってきた。
「――はい」
『ああ、キヨアキ。ごめん』
声の主は待ち合わせの相手だった。高校からの付き合いで、木崎英司と言う。
「英司、どうした?」
『仕事で遅れてる』
「日を改めるか?」
『ん〜、いや、大丈夫。遅れてるけど、行けそうだから』
「そうか。なら先に行って場所を確保しておく。混むからな」
『そうしておいてもらえると嬉しいな。明日は久しぶりの休みだからしっかり遊んでおきたいんだよねぇ』
「何連勤してるんだ?」
『えっと……13連勤? かな? うちには16日くらい帰れてないけど」
「おい、公務員。なんでそんなに働いてるんだ」
『酷いよねぇ、こんなに頑張ってるのにさ。俺の給料、上がらないんだって。悲し過ぎるからおごって?』
「遅刻するくせに何言ってるんだ」
『バイト君には奢るくせにぃ』
「その分時給を下げているから構わない」
『そのうち、ローキに怒られるからね? 埼玉の最低賃金って知ってる?』
三枝の時給は500円だ。埼玉の最低賃金をはるかに下回っている。
もちろん紗川も、雇われている三枝も三枝の両親もこれは納得済みだ。それどころか三枝の両親からは給与をいただくなど申し訳ないとまで言われている。
木崎はそれを知っているくせに敢えて絡んで来ているのだ。
「分かった。刑事をやっている親友にそう言われては仕方がない。従おう。適正な時給を与えて、こちらには家庭教師代を支払って貰えるよう取り計らう」
『うわぁ、いーやみー。足元見てるー。ひどーいっ』
「先程からその口調は何だ。女子高校生か」
三枝の勉強を見ている時間を考えれば、差し引きでプラスになってしまう。もちろん、プラスになるのは紗川が受けとる賃金の方だ。
木崎は紗川がしていることを知っているから、物好きだといつも笑う。
『きゃー、ひどいー、キヨアキ、あくにん~』
「もういい。分かった」
『不勉強だなぁ、キヨアキ。今時の女子高生はこんな口調じゃないよ。
軽い口調ではあるが、長い付き合いだ。疲労を隠していることくらいすぐにわかる。
紗川はため息をついた。
「くだらないこと言ってないで、さっさと仕事を終わらせろ」
『急いで終わらせようとしてるんだけどね』
「終わらないようなら来るな。キツイなら家に帰って寝ろ。体力に余裕があれば来い」
『分かってるよ。じゃあ、よろしく』
短く返事をして、通話を終了する。
紗川は一つ息をつくと、目的地に向かった。