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探偵と助手の日常  作者: 藤島紫
第1章 「本日のおやつは、さつま芋パイです」
15/26

カフェ、開店

 玄関を出ると、しとしとと雨が降っていた。


「まだ降ってるし……ついてないなー」

「いや、ついているのかもしれない」


 独り言を否定され、三枝はおどろいて見上げた。

 紗川は口の端だけで笑うと、雨にぬれながら車に向かう。三枝も続いたが、雨粒の冷たさに、すぐに後悔した。

 紗川は運転席運転席のドアを一度開けたもののすぐに閉めてしまった。


「先生?」

「車の中で待っていてもいいが、どうする?」


 紗川の手には傘と懐中電灯がある。

 このまま帰るわけではないのは明確だ。


(正直な気持ちを言えば、寝たいんだよなぁ)


 だが紗川が何をしようとしているのか知りたい欲求が勝つ。


「一緒に行きます」

「眠かったんじゃないのか?」


 雨に濡れた髪が、ニヤリと笑う紗川の頬に張り付いている。渡されたのはビニール傘だ。


「最初から傘二本持ってるじゃないですか」


 三枝の答えなど、聞く前からわかっているくせに、聞いてくるあたり意地が悪い。


「何のことだ?」

「いちお、俺高校生ですからね。無理に眠らせなかったわけじゃなくて、俺自身の意思で動いていることにしておきたかったんですよね?」

「酷いな。まるで僕が計画的に虐待の容疑を回避しようとしているみたいじゃないか」

「よく言うよ……で、それは良いから教えてください。何がわかったんですか?」

「こっちだ」


 紗川の行き先は自宅側の駐車場、ミニクーパーの後部だった。


「岸さんの車がどうかしたんですか?」

「正しくは被害者の車だ。これを見てみろ」


 懐中電灯の光がミニクーパーの足元を照らした。


「なんですか、これ」


 何かがコンクリートの上で虹色に光っている。

 直系にして五十センチメートルほどの円を描いていた。

 紗川は三枝の質問には答えず、懐中電灯の光を別の方角に向けた。何かを探すように光は揺れて、止まった。そこにも虹色の反射があった。それほど大きなものではなかったが、点々と続いている。紗川が一度懐中電灯を消すと、路面に街灯に反射する虹色の光があることに気づいた。よく見ると三筋の線のようになっていることになっている。

 雨に濡れた路面の上で、その光り方は明らかに異質だった。


「行くぞ」


 紗川が歩き出し、その後に続く。

 すぐに虹色に反射する点を追っているのだとわかった。念の為、その光を写真に撮っておく。紗川は先に行ってしまうが、そのペースは遅い。何かを考えながら歩いているのか、光の筋を失わないように注意しているのかは分からない。

 おかげで三枝は写真を撮りながら歩いても置いていかれずに済んだ。

 しばらく歩いていくと、三本の筋が二本と一本に別れていた。紗川は何も言わずに二本の筋のほうを選ぶ。やがて、コンビニエンスストアにたどり着いた。


「あれ? ここ、くるときに落ち合ったコンビニですよね」

「歩いたのは1キロ弱といったところか……旧16号はひと区画向こう側だな」


 紗川が呟いた。

 それから分岐点まで戻り、今度は一本の筋を辿る。

 点々と続く光の跡は、中央線のない道路の真ん中にあったが、絶え間なく続いていたので追うのに苦労はなかった。

 距離はそれほどないはずだが、ゴールがわからないと長く感じる。


(さむっ! まだコートはいらないと思ってたけど着てくりゃよかった。今度、レインコートを車の中に置いておこう)


 トランクに積んでおくくらいなら紗川も文句は言うまい。

 住宅街を歩き、寒さのせいで傘を持つ指の感覚がなくなってきたころだった。


「やはりな」


 指先に息を吐いて温めていた三枝は、紗川の声に顔を上げた。


「三枝君、見てみろ」


 懐中電灯の明かりで示された先には何もなかった。

 ただ太い道があり、車が走っている。スピードが出ているせいだろう、車が通るたびに泥水が狭い歩道に跳ね上がる。

 もしも歩道を歩いたら、胸のあたりまでずぶ濡れだろう。


「ここ、歩くんですか……?」


 戸惑って言うと、紗川は小さく笑った。


「この道は、夕方、僕らがとても退屈させられた、あの混みあった旧16号だ」

「え……? そうなんですか?」

「右側――西方面から僕らはやってきた」

「あ、はい」


 くる途中で見かけたレストランの看板を探したが、見つけることはできなかった。


「では反対側……東側にカフェがあるのが見えるか?」

「あ、オープンって書いてありますね。帰りに――」

「この時間でもある程度客が入っているようで何よりだ」


 紗川が被せるように言ってきた。これは明らかに三枝が何を言おうとしているのか分かっていて遮っている。

 三枝は内心で口を尖らせ、看板に書かれた24Hの数字にわずかな期待を向けることにした。


「開店直後だから余計に人が来てるのかも……あ」


 気づいた。

 カフェは反対車線側にある。右折で入ろうとすれば、対向車線が切れるのを待たねばならないため、流れを止めることになる。

 一度完全停止してしまった車は、すぐに元のスピードには戻らない。

 ましてや雨で視界が悪い。

 カフェだから自転車や徒歩の客も付近には多かったのではないだろうか。

 それだけではない。片道一一車線でガードレールがあるこの道は、歩道が狭いため自転車は車道を走ることになる。

 禁止されているとは言え、傘をさして自転車に乗る人は多い。フラつくそれを避けようとしたら中央線をはみ出なければならず、その為にはやはり対向車線の流れが切れる必要がある。


(混むはずだ)


 旧16号と言うからには、この道が混み合うから新しい道が作られたはずだ。と言うことはもともと交通量が多いところに人気のある店が出店した為、渋滞が引き起こされたと考えられるのではないだろうか。


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