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探偵と助手の日常  作者: 藤島紫
第1章 「本日のおやつは、さつま芋パイです」
1/26

密室の花嫁殺人事件の解決

最後に挿絵が入ります。

■王道とは、名探偵が皆を集めて「さて」と語るもの◼️



 シャンデリアが放つ明かりは、赤い絨毯についた黒いシミを際立たせた。

 ひと月前、ここで一人の花嫁が殺された。


「さて」


 男は皆を集めて声を発した。

 長い髪を無造作に結んだ男――探偵が、シャンデリアの下に立っている。

 長身の男が作る影は、乱反射するシャンデリアの明かりのせいで円を描くように周囲に拡散している。

 彼を見よ、光がそのように指し示しているようだ。

 誰もが息を飲む。

 探偵はほのかな甘みを唇に乗せて笑んだ。


「犯人をお教えしましょう」


 広い結婚式場の中央には、探偵を除き、12名。入り口には警察官が立っている。

 ここにいるのは、容疑者だ。

 探偵が誰を犯人と指すのか。

 靴音一つ許されぬ静寂の中、探偵は一度膝を折り、絨毯のシミを指先でなぞった。


「美しき花嫁、彼女の幸福の日を奪った犯人……」


 誰かが唾を飲んだ。

 探偵は立ち上がると中央からゆっくりと歩き、ある人物の前で立ち止まる。


「密室は作られたのではありません。密室など、初めからありはしなかった。しかし結婚式会場が密室であったかのように見せ、そう思うように人々を誘導した――貴女だけが、それを現実にすることができる」


 探偵の長く形のいい指先が、犯人の頬に触れた。


「わた、し……?」


 花嫁の友人であり、この結婚式場の職員でもある女は肩を震わせた。

 探偵は優しく彼女を見つめ、微笑みかけた。

 こんな場面でもなければ、彼女は顔を赤らめ熱に浮かされていただろう。

 女性の身長に合わせて頭の位置を下げたせいで、艶やかな黒髪がサラサラと背中から胸元に流れ落ちる。

 シャンデリアの明かりの下で、探偵は残酷に告げた。

 まるで愛の告白をするかのように。


「……貴女が、花嫁を殺した」


 息を飲む音がさざ波のように広がる。

 女が目を見開き、腕を振り上げた。

 刹那、光が走った。そして、彼女が何をしたのかを人々は知る。


「もう、罪を重ねなくてもいいですよ」


 探偵が犯人を後ろから抱くようにしてささやきかけた。

 犯人の華奢な手から、一本のナイフが落ち、絨毯にあったシミの一つに刺さる。

 それは、ひと月前、被害者が流した血の跡だった。


「あ、あんたなんかに何がっ!!」

「分かりません。人と人は分かり合えない。貴女が何を考えているのか、わたしにはわかりません。何故なら、わたしと貴女は別の人間だから、ですよ」

「離してっ!」


 探偵は犯人の耳元にささやきかける。


「被害者も、同じように求めていたはずです。貴女に……『わたしの心をわかって』と」


 憎悪と殺意に満ちた犯人に探偵は愛情を込めてささやきかける。


「しかし貴女は、殺した」

「――っ!!」


 犯人が身じろぎする前に、年若い刑事が犯人と探偵の前に歩み出た。


「矢萩美紗都、殺人未遂容疑で逮捕する」

「殺人未遂容疑? 何言ってんの! あたしは井上紗凪を殺した犯人でしょ!」

「――ああ、認めましたね」

「……っ!」


 探偵は犯人を解放し、歩み出た青年に向かって、呆然とする犯人の背を押した。

 よろめいた犯人は手帳を開いている刑事の腕に受け止められた。

 彼は、顔色一つ変えずに口を開く。


「殺人未遂は、今、そこの紗川清明を殺害しようとしたことを指しています。ナイフで刺そうしましたよね。俺は言っていませんよ。井上紗凪を貴女が殺したとは。貴女が言ったんです」

「あ……」

「なあ、英司。だから言っただろう? 犯人は自供する、と」

「全く……本当にお前ってやつは……女の敵っていうのはお前みたいなやつのことをいうんだろうな」


 刑事は犯人に手錠をかけた。


 カチリ


 無機質な音が、無音の式場に響く。


「これで事件は解決だ。帰ろうか、三枝君」


 刑事と入れ替わりに歩み寄ってきた少年に、探偵は声をかける。

 背筋を伸ばした探偵は、長い前髪をうるさそうにかき上げると、ニヤリと笑った。

















挿絵(By みてみん)

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