《第6話》勢いって大事なのかな!? 〜リーマンの思惑②〜
「なぁ、三井、」
熱いコーヒーに入れ替えてはみたが、手の中で湯気が上がり続けている。
今日の連藤は仕事をする気がないようだ。
「なんだぁ?」
三井もコーヒーを継ぎ足しながら振り返った。
「なぁ、嬉しくない特別な日ってあるのかな」
意味がわからない。
連藤のデスクに腰を寄せると、ふぃとコーヒーを吹き、口をつける。
「珍しく主語が抜けてるぞ。
どういうことだ?」
連藤を見下ろすが、彼は遠くを眺めたままだ。
目が見えないからではない。
いつもであれば、声のする方に視線を結んでいる。
目が見えない分、聞いているぞというアピールをそれで表現している。
が、彼は、天井に視界を置いている。
何かを思い出しているのだろうか───
「昨日、彼女とワインを飲んだんだ。
結構いいものだったから、高いんだろ、と聞いたんだ。
そしたら彼女が、今日は特別な日だからと。
誕生日かと尋ねたら、違うという。
声音から見て、嬉しい日ではなかったんだ。
だが、何かの日でいいお酒を飲みたかった。
どういう意味だと思う」
訊ねているのか、考えているのか、目に表情がない分、彼の雰囲気で判断するしかない。
思いつめているのだけはわかる。
「さぁな。なんだろうな。
辛い記憶の日だから、うまい酒でごまかしたいのか、
あとは思い出の酒だったのか」
「思い出の酒か……」
確かにあのワインは年代ものだった。
自分の目が見えないのが悔やまれる。
せめてエチケットがわかればまた違うのかもしれない。
いや、なんにせよ、何かの記憶に寄り添う酒だったことには違いない。
何故、自分がそこにいたのだろう。
「誘ってよかったのかな……」
またコーヒーが冷めてしまった。