《第5話》勢いって大事だよね! 〜オーナーの思惑①〜
一方、カフェでは────
「どういうことなんだろう………」
どういうことだと思う?
問いかけられたのは、あの後輩ふたり組である。
今日は平日ど真ん中のため、お客が少ない。
というより、彼らしか今日はまだ来ていなかった。
「ビーフシチューのレシピを聞き出そうとしてるとか」
巧が言うが、
「それは何度も聞かれてるし、何度も炒めて煮るだけって答えてるよ?」
「詳細な分量を聞きたいとか」
「え? そんなこと?」
彼女が変な声を上げた。
「いっつもレシピはぐらかされるっていってたけど?」
瑞樹が返すと、
「マジで?」
彼女は口を一文字に締めて考えこんでしまった。
そんなマジなレシピ知りたかったんだ……
なんか悪いことしてたな……
反省したのか、頭をうなだれ、
「次に会ったらちゃんと答えるようにする」
こたえながら慣れた手つきでグラスを磨いてはいるが、全然進んでいない。
仕事が手につかないことが彼女にもあるのかと二人は驚くが、彼女のため息も半端ない。
息がなくなるんじゃないんだろうか。
瑞樹は、不意にカウンターから体を乗り出し、
「なんか美味しいっていう感性が同じだから、一緒に食べてみたくなったんじゃない?」
目と鼻がくっつきそうなほどだが、彼女は至って冷静だ。
「そんな単純なのかな? 本当に?
なんか勢いで言っちゃったとかはないのかな?」
再びグラスを磨き始めた。
何が彼女の中でまずいことなのだろう。
二人はぬるいコーヒーを飲み干し、もう一杯お願いすることにする。
オーナーからは小さな返事が返ってきた。