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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第2章 café「R」〜カフェから巡る四季〜

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《第21話》吐けない悩み【前編】

 自分が女のオーナーだからだろうか。

 昼の時間は、男性より女性客の方が割合的に高い。

 事務員特有の制服姿であったり、私服姿でも華やかな方から、落ち着いた雰囲気の方まで、幅広い。

その会社の雰囲気に合わせて女性は着こなしを変え、さらに髪型からお化粧まで環境に合わせてコーディネートしているのは敬服してしまう。

 自分はといえばスリムのジーンズにシューズ、シャツは白と決めている。

 エプロンは黒で、髪の色は現在染めてなく、ショートだ。

 髪型はそろそろ飽きてきたので、色でも入れようかと思っているが、清潔・簡素・ナチュラル・自然派といったキーワードが出てきそうな格好は心がけているつもりだ。

 なので、というのはいいわけだが、化粧もそれほど濃くはしていない。

 料理をしていれば汗で流れて落ちてくるし、だいたいそんな顔を直す時間もない。


 だからかそういった華やかな女性がランチを食べに来てくれるのは嬉しい反面、少し羨ましくも感じてしまう。


 だが選んだ仕事がコレなのだから、仕方のないこと。


 素敵な女性たちが気軽に来店し、ランチを食べてくれるのは、本当に良い宣伝になるものだ。

 女性が入りやすい店は回転率は悪くはなるが、リピート率が高いのである。

 少し高めのランチでも、彼女たちは躊躇なく頼んでくれる、頼もしいお客様だ。


 そんなランチタイムだが、ほぼ毎日欠かさず来る男性というのが、連藤だ。

 あとは近所のおじいちゃんとタクシーの若手運転手さん。

 三井は三日に一度といったところだろうか。

 瑞樹と巧はお互いの時間が合ったら来るという感じで、一週間に一度ぐらいである。


 たまに4人で来る時もあるが、その時の女性たちの目といったら───


 子羊を狙う狼の群れの如し!


 彼らは全く羊になっているとは思っていないが、彼女たちが勝手に狼になるのだ。


 おかげさまで彼らが帰った後に、どこの誰だか聞かれるのは本当に慣れてしまった。

 巧は時折若社長として顔を出していることもあり、気づかれてしまうこともあるが、気づかれたからといってたくさんの女性たちが押し寄せるわけでもないので、そっとしておいている。


 そんな9割女性のランチタイムに連藤が来ると、浮いてしまう、というより悪目立ちするようである。

 色つきの眼鏡に杖を持っているのもそうであるし、何より他のサラリーマンと少し格好が違うのである。

 普通一般といったら語弊があるような気がするが、よれたスーツに緩んだネクタイ、適当に丸めた袖としおれた襟。営業周りを終えたサラリーマンなどこんなものだ。

 一方の連藤はどうだ。

 室内業務だからか、緩むことのないネクタイ、上まで閉められたシャツ、ベストを着込み、スーツはスリムタイプ。靴はしっかりと磨かれ、しかも紐靴。


 私としてはラーメン屋の感覚で来て欲しいのだが、これだけ身綺麗な人がいると女性にとってはそれが正義と見えてしまうもの。


 これもあってなのかな……

 ランチタイムにサラリーマンが少ないのは……

 

「ねぇ、オーナー、

 あの目、見えない人って何してる人?」


 最近足繁く通って下さっている【尾野】さんという方だ。

 事務員制服に名前が張り付いてるので、覚えられる。


「私もよく知らないんだ」


 誤魔化してると思っているだろうな。

 正直に言おう。


  本当によく知らないのだよ。


 一度なんとなく聞いてみたが、なんとなくで理解ができなかった。

 彼が盲目でもこなせて、彼でなければ成せない仕事であることは理解はしたが、それ以上でも以外でもなく、専門用語が多すぎて理解したくなかったというのが本音だ。


「でもさ、オーナー、めっちゃ親しげじゃないですか? 手とか触ってるし」


「あぁ、アレね。皿の場所とか大きさとか教えてるんだよ?

 一度ひっくり返っちゃってね。

 それから同意を得て、彼の手を使って大きさをお伝えしているという訳です」


 ふぅ〜ん。

 このふぅ〜ん、という音が胸に刺さる。


「オーナー、あたし、あの人、好きになっちゃったかも」


 私も、ふぅ〜んと返してみた。




 連藤のお昼休みが終わり、彼がオフィスへと戻っていく。

 その目で追う視線は、かなり熱い。

 彼女の昼休みももう終わりだろうが、彼の方向がどこに向くのか調べたいらしい。


 一体どうしたらいいのだろう。


 絶対尾野さんの方が綺麗だし、髪の毛もふわふわで今時の綺麗なお姉さんという感じだ。

 年齢は私より少し若い感じだろうか。


 連藤の隣に立つ姿を想像した時、間違いなく彼女の方が隣にいるのにふさわしく思う。


 きっと彼女なら淡い色のワンピースに大き目のハットなんか被って、革のおしゃれなサンダルに小さなバックを下げて、首には綺麗なスカーフが巻かれていて、それがシンプル目のワンピースに彩りが添えられて、側から見れば、『ベスト・カップル賞』を受賞できるほどだ。


 私なんかじゃ太刀打ちできない───


 目が見えていないとはいえ、ベストマッチする光景は、みんなが望むもの。


 だいたいお客さんに「あれ、私の彼氏ッス」なんて言える訳もない。



 どうしたらいいのかな……



 胃を痛めつつ、気づけばもう夜の7時だ。

 今日は雨か。

 少し肌寒いのはこのせいか。


「莉子さん、チーズケーキ買ってきたよぅ」

 瑞樹である。


「うん」


「どしたの、莉子さん?」


 巧が不思議そうに莉子の顔に手を振ってみる。

 だが無反応だ。


「……なんか飲む? 食べる?」


 おもむろにチーズケーキの箱を開けているが、いつもであれば感激の声が上がるが、今日は無音だ。


「ね、莉子さん、どーしちゃったの?」


「うん」


「何かあれば話してよ」


 瑞樹と巧が交互に言うが、


「うん、ありがとね」


 彼女の動きは本当に鈍い。

 鈍い上に重い。

 今日は雨だが、雨以上に重い天気が彼女にのしかかっているようである。


「オレ、いいこと思いついた!」


 巧がそう言うと、携帯を取り出し電話をかけ始めたのだった。




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