《第168話》クリスマスパーティ
時間が近づくほどに、人が増えていく店内だが、その度になぜか莉子には笑顔が浮かぶ。
「莉子さん、楽しそうだな」
莉子の手つきや声の雰囲気が明るいからか、最後の盛り付けにとりかかっている連藤がそう言う。
「家族が、増えたなって、なんか思っちゃって」
莉子の声に、連藤は頷いた。
「確かにそうだな」
オードブルが完成したようだ。
相変わらず、目が見えていないとは思えない出来に、莉子は感動のため息をもらす。
「連藤さん、きれい」
「それならよかった」
受け取った皿を運ぼうとしたとき、奈々美と巧が顔を出した。
「莉子さん、料理とか運ぶからいってー」
「ドリンクとかも出していいかー?」
2人の動きに釣られて、瑞樹たちも動き出す。
三井は相変わらず、ビールを飲んでいるが、彼女の星川に殴られている。
「あんた、動きなさいよ」
「いいだろ、こんなに後輩いるのによー」
「三井さん、少しは動いて」
邪魔だと煽る瑞樹に、三井はひらひらと手で払う。
「ちょっとぐらいいいだろ、瑞樹」
そこにやってきたのは九重ペアだ。
「そんなことしてるから、お腹ゆるんでるんじゃないんですか?」
「九重、言うようになったじゃねぇか……」
「前からですけど?」
真穂が九重を肘でつついているが、それに星川が笑う。
「仲良いってことだから気にしない気にしない。あ、そこの皿とか並べるの手伝ってくれる?」
「あ、はい。やります」
星川はすぐに仲良くなれる雰囲気がある。
莉子は羨ましいな、と思いながらセッティングを進めていると、横にするりと星川がついた。
「莉子ちゃん、ほかにある?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「ちゃんと言ってよ? もう、みんな、家族みたいなもんだし」
星川から、そんな言葉が出てくるとは思わず、莉子は驚いてしまうが、心から嬉しくなるのはどうしてだろう。
莉子が再び厨房へと戻り、料理を運んでくると、席が2つに分かれている。
男性席と、女性席だ。
「莉子さん、どうした?」
焼き上がったターキーを運ぶ連藤が、絶妙なタイミングで立ち止まった。
「いえ、あの、席が分かれてて」
「なら、ターキーは、ひとテーブルずつ。オードブルはカウンターに並べればいい」
だが、もう連藤が言う通りのセッティングがなされている。それに驚いていると、莉子の肩が掴まれた。
優だ。
「莉子さん、料理ありがと! 今日はみんなで忘年会みたいなもんだし、女子会女子会!」
そうして始まったクリスマスパーティだが、1時間もせずに席が乱れ、それでも会話は止まらず、追加の料理を作ることになるのもいつも通りだ。
「莉子さん、これ、よそってしまっていいです?」
今年は料理好きな九重の彼女、真穂のおかげもあり、かなりはかどっている。
ドタバタとわちゃわちゃとしているクリスマスパーティだが、莉子はこの時間が大好きだ。
「……はぁ…嬉しい……」
連藤はこの煩いなか、莉子の声を聞き逃さない。
そっと肩を抱き寄せ、
「俺も、嬉しい……」
楽しく幸せな思い出が、また増えたのだった。





