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ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
一章 騎士を目指す少女の一歩
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1-4 依頼方針

「さて! 担当が私に決まったということなので、今後の方針なのですが」

「依頼の内容などを決めることだな」


 傭兵にも個性がある。人を戦うことが得意なものもいれば、魔物を専門にする者もいる。護衛が得意な者もいれば、町から出たくないという者もいる。

 だからこそ担当となった職員は、受け持つ傭兵から希望を募り、それに合わせた依頼を見繕うらしい。

 私とて、町中で警備任務ばかり任されても困るからな。騎士になるためには注目されなければならないし、それならば町の外で強い敵と戦ったり盗賊を捕まえたりする依頼の方が優先したい。


「ええ、ただちょうどいい時間でもありますし、昼食でも取りながらゆっくり話しませんか?」

「それもいいな」


 実力テストを受けている間に、時刻は十二の鐘(十二時)に近づいてきていた。

 軽い運動の後でお腹も空いてきたことだし、この提案は実にありがたい。私とて、話している最中に腹が鳴るのは恥ずかしいからな。

 ただ、私は昨日この町に来たばかりで、店を知らない。


「美味しい店などを紹介してもらえると助かる。料理店のレパートリーは増やしておきたい」

「そうですね。では少々お待ちください。休憩と外出の連絡を入れてきますので」

「分かった」


 ルレアが立ち上がり、受付の奥へと掛けていく。

 何やら上司らしき人物に一言二言かけてから、デスクからショルダーポーチを手に取るとこちらに戻ってきた。


「お待たせしました。お昼ならここってお店知っているんです。期待してもらっていいですよ」

「それは楽しみだ」


 私はルレアと共にギルドを出る。

 まだ正確には昼休み前なので、表通はそこまで人に溢れてはいない。

 だが、ルレア曰く昼休みになるとこの辺りで働いている人たちが一気に飲食店に押しかけるため、どの店もパンク状態になるのだとか。

 昔から、食事といえば席についてゆったりと食べることが当たり前だった私からすればそんな経験も楽しみの一つではあるのだが、それはいつでも経験できることだ。日ごろから経験しているルレアを巻き込む必要もないだろう。

 ルレアが紹介する店までの暇つぶしに、私はルレアのことについて尋ねてみることにした。

 これから私の担当職員になってくれるのだ。私もルレアのことを少しは知っておきたい。

 

「そういえばルレアは何歳なのだ? 見たところ、私と同じぐらいだと思ったのだが」


 目線の位置も私と同じぐらいだ。むしろ私の方が少し高いか? 私が今、百六十だからルレアは百六十を切るぐらいだろう。

 胸は……ルレアの方が大きいな、比べるまでもないほどに。幼いころから筋肉を付けすぎた弊害か。きっとそうに違いない。

 私の静かな葛藤に気づくことなく、ルレアは穏やかに答える。


「今年で十七ですよ」

「年上だったのか。む、では敬語の方がいいな――ですね」

「いえいえ。私たちの関係は傭兵とそのサポートですから敬語は不要です」

「そうか。ならば私にも敬語は不要だ。サポートが無ければ傭兵は十全な状態で仕事ができないのだからな」

「ふふ、そういってくれる方は大抵の方が大成していますよ」

「なぜそんなことが言えるのだ?」


 十七ならば、成人してすぐに職員になったとしてもまだ二年しかたってないはずだ。それほど多くの傭兵を担当してきたとは思えないし、二年ではルレアの担当傭兵はようやく一端になってきたものたちばかりだろうに。


「先輩の担当傭兵さんたちを沢山見てきましたからね。職員になった新人は、最初の一年間先輩に付いて仕事を勉強するんです。なので、ミラベルが思っている以上の傭兵を見てるんですよ」

「そうだったのか」

「そして、私たちを対等に扱ってくれる人は、上に上がっている人が多いですね。逆に、下に見ていたり、便利な道具のような扱いをする人は、下の方でずっと燻ってます。まあ、言ってしまえば馬鹿なんですよね。私たちが依頼を選別しているのに、その意味を理解していないから」


 ルレア達だって人間だ。横柄な扱いを受ければ嫌な思いもする。そしてその仕返しは、その傭兵に合わない依頼をさりげなく提示すること。

 依頼を失敗すれば、それは依頼を受けることを選んだ傭兵のミスだし、そもそも功績としてほとんど評価されない依頼ばかりを任される可能性だってある。

 そうやってささやかな嫌がらせを受けた先に待っているのは、いつまでたってもうだつの上がらないその日暮らしの傭兵か。

 まあ、この程度のことを分からないような者が、難易度の高い依頼をこなせるとも思えないし当然の処置なのだろう。

 ただやはり、将来を握られているというのは――


「少し怖いな」


 私がボソッと口に漏らすと、ルレアはあははと笑いながら手を横に振る。


「そんなことありませんよ。私たちだって、優秀な方には上に行ってもらいたいんですから。担当に付いた傭兵さんが実力を認められれば、同時に私たちのサポートも評価されますからね。ボーナスも出ますから、よっぽどのことが無い限りは、実力を伸ばす方向で全力サポートしますよ」


 ふむ、依頼を提示するのがルレアたちである以上、傭兵の評価と無関係ではいられないのか。

 ボーナスも出るのならばなおさらだな。


「それを聞いて安心した」

「では安心したところで、ごはんです。私のおすすめは、ここ鶏肉専門店ごっとふぇにっくすです!」


 到着した建物の入り口には、巨大な火の鳥の絵が掛けられていた。

 なるほど、ゴッドフェニックス。確か伝説の魔物だったか。その身は常に神聖な炎を纏い、邪な者には(衰退)を、清らかなる者には(繁栄)を与えると言われている。

 魔物図鑑によっては、空想上の生き物として載っていないことすらある魔物だな。

 鶏肉専門店にはピッタリかもしれない。


「さあ、入りましょう!」

「うむ」


 店の中に入ると、たちまち脂の焼けるいい匂いに包まれる。

 カウンターの先では、昼に備えてか大量のチキンステーキが焼き始められており、その横の窯にはパンがずらりと並んでいる。

 ルレアが店員に二人だと告げ、テーブルに案内された。


「ここのお店、ランチのチキンステーキが美味しいんです。パンもつくので、挟んで食べると肉汁がじゅわーって!」

「私も鶏肉は好きだからな。楽しみだ」


 ランチセットを二つ頼むと、先にパンとスープが運ばれてくる。

 平パン二つにスープは鶏ガラだ。どこまでも鶏肉専門店なのだな。

 スープを口に含むと、濃厚なうま味が口いっぱいに広がり、その後にさわやかな風味が鼻へと抜けた。


「美味いな」


 我が家の料理人にも引けを取らない美味さ。いや、こと鶏料理に関してはここの主人に一日の長があるのかもしれない。

 私の満足そうな表情に安心したのか、ルレアもスープを飲み笑みを浮かべる。

 そして、チキンステーキが到着した。焼きたてのステーキは、甘い香りを放ち食欲をそそる。


「パンに挟むのだったか」

「はい、こうして」


 ルレアは器用にナイフとフォークで肉を持ち上げ、平パンの上へと乗せる。そして、付け合わせのキャベツも乗せると、もう一枚の平パンでサンドした。

 私もそれに倣ってサンドイッチを作り、噛り付く。

 肉汁が溢れ、わずかな酸味と共に舌を刺激する。

 スパイスの風味が鶏肉と合わさり、がつんと胃袋を刺激してくれる。

 食べごたえもあるし、かといってくどいわけでもない。

 さっぱりとしながら、味をしっかりと主張し、だが鶏肉本来のうま味もしっかりと引き出している。

 ルレアのおすすめするだけのことはあるな。


「これは美味しいな。私も気に入ったぞ」

「このお店、持ち帰り用もあるんですけど、やっぱり焼きたてのチキンステーキを挟むのが一番美味しいんですよ」

「確かにそうだろうな。冷めても美味しいだろうが、この味は出せない」


 そして気づけば、私たちはほぼ会話もなく、サンドイッチを平らげてしまっていた。

 手に付いた油をちろりと舐めつつ、布巾でふき取る。


「ふぅ、美味しかった」

「満足していただけたようで良かったです。さて、ではお腹も膨れたところで本題に入りましょうか」

「そうだな」


 ここに来た目的は、腹ごなしもあるが今後のための意見交換が本命だ。

 それを疎かにしてはいけないな。――決してサンドイッチの美味しさに忘れていたわけではないぞ?


「まず、私が担当になると最初に聞くことがあるんですけど、ミラベルはどうして傭兵になろうと思ったんですか?」

「うむ。私は騎士になりたいのだ」

「騎士? 騎士ってあの騎士ですよね?」


 メビウス王国で騎士というと一つしかないが、別の国では騎士の意味が少し違ってくることもある。

 だが私がなりたいのは、メビウス王国騎士団の騎士だ。

 この国の騎士は、所属であると同時に称号でもある。厳しい入団テストを越え、その後の血反吐を吐くような訓練に耐え抜き、研ぎ澄まされた一握りの戦士たち。

 その強さはこの国随一であり、他国からも注目されている。

 彼らの特徴といえば、メビウス王国騎士団は常に戦場の最前線に立ち、その獅子奮迅をもって仲間を鼓舞することだろう。

 それゆえにメビウス王国騎士団の騎士は、この国では下手をすると陛下よりも尊敬を集めている存在だ。


「そうだ。私の実家は昔から騎士を輩出してきた家系でな。私も騎士に憧れて稽古を積んできたのだ」

「なるほど、だからこそあれ程の剣技や覇衣を使えるのですね」


 ルレアは納得したように何度も頷く。


「だが、今年十五になり(成人して)いざ騎士団への入団試験を受けようと父に頼んだのだ。だが、それは駄目だと言われた」

「なんとなく理由は分かりますが」


 この国に生きていれば、父が拒んだ理由は誰だって想像がつく。


「うむ。この国の騎士に女はいらない、そう言われてしまったよ。その上、見合いの準備まで進められそうになってしまってね。だが私は諦められなかった。幼いころにじい様と約束したのだ、騎士になると。その夢を叶えるためには、私自身の実力を見てもらう必要があると思ってね」

「なるほど、つまり傭兵として名を馳せ、騎士団側から逆にスカウトさせてしまおうということですね」

「理解が早くて助かる。そういうことだ」


 父が駄目だというのならば、私は父よりも上の権限を持つ者に掛け合おう。

 だが、私自身にそんなコネクションは存在しない。だから、むこうから目を向けてもらうのだ。

 実力があり、騎士としての資質に問題がない人物ならば、騎士団がスカウトすることもごくまれにではあるがあるにはある。

 それは王国兵士隊であったり、都市警備隊であったり、そして傭兵であったりするのだ。

 私はこの制度を利用して、騎士団長や女性王族の目に留まりスカウトされることを目指す。

 父だって、王族からの要請にはノーとは言えまい。

 ククッ、我ながら完璧な作戦だ。

 私が内心で笑みを浮かべていると、突然身を乗り出してきたルレアに手を掴まれた。


「むっ!?」


 驚いてルレアを見れば、なぜか目尻に涙を浮かべている。


「感動しました! 祖父との約束を果たすために、あえて困難な道に挑戦する! 凄い覚悟だと思います! この国で女性が戦うというのは凄く難しいと思いますが、傭兵の中にはやはり女性だっています。彼女たちも頑張っているけど、やっぱり戦いの場からは遠ざけられがちなの。けどミラベルが王国騎士団に入ることができれば、そういう子たちの希望になれると思うわ! だから私も、全力で協力させていただきます!」

「そ、そうか。うむ、そう言ってもらえると嬉しいな」


 今思い返してみると、我が家にいた時もあまり騎士になることを賛同してくれることはなかった。

 それとなく別の道を進められたり、話を逸らされたりしていた気がする。

 素直に賛同してくれたのは、騎士になることを進めてくれたじい様と、一緒に練習を積んできたルー兄さまだけだった。

 全くの他人に私の考えを認めてもらえるのは初めてかもしれない。そう思うと、無性に嬉しくなった。


「では、騎士っぽい依頼を中心に進めるということでいいでしょうか? 実績がない最初のころは、主に討伐依頼を回します。魔物の駆除や害獣駆除ですね。そして、ある程度実績が付いたのちに護衛依頼を主軸に進めましょう。誰かを守りながら敵を倒す姿は、騎士のように見えるはずです」

「そうだな」

「なるべく省く依頼は、警備の依頼でしょうか。けど、警備も騎士の仕事っぽいですし」

「警備は時々入れてもらえると助かる。騎士団にも、王族の周辺警備などが仕事になることもあるからな。経験は積んでおきたい」

「分かりました。では戦闘部署の依頼は比較的なんでも受けて行けそうですね。これなら実績を積むのも早そうです」


 依頼の達成に偏りが出ると、実績を積んでもそこが不安材料になりなかなか次のクラスに上がることができないこともあるらしい。

 逆に、全てを平均的にこなすことができれば、ギルド側も安心してクラスを上げることができるのだとか。


「私もいろんなところから騎士っぽい仕事集めてきますので、一緒に頑張りましょう!」

「うむ。私も期待に応えられるよう努力しよう」


 こうして私のギルドでの方針は、とにかくいろんな種類の依頼をこなしていくことで決定した。しかし、全てが順調に進んだというわけでもない。

 

「あとはチームをどうするかですね」

「チーム? 傭兵団のことか?」

「ええ、傭兵の皆さんは昔からの知り合いやギルドからの紹介などで知り合った人達とチームを組むのが一般的です。そうすることによって、依頼中の安全性を高めたりすることができますから」


 詳しく聞いてみると、チームを組むメリットはかなり大きいように思える。

 まずルレアが言っていたように複数人で受けることで依頼時の危険性を下げる効果がある。次に、複数人に対して募集された依頼をチームで占有することができるようになる。さらに、連携の確立や報酬の分配、装備や食料の貸し借りや一括した管理などをチームの非戦闘部署(サポーティメント)に任せることで、個人の集団だと揉める可能性がある自体をことごとく回避することできる。

 戦闘部署(ファイティパート)の傭兵として戦闘以外の些末なことで無駄に体力は使いたくないし、話を聞く限りチームを組むことに異存はない。

 だが、ここで私のスタンスが問題になってしまった。


「ミラベルは何年ぐらいで騎士になる目標ですか?」

「できれば三年以内にはスカウトをもらいたいと考えている」

「そこが問題ですね」


 チームを組む以上、なるべく一つのチームを長く続けたいと思うのが普通だ。

 そのほうが相手のことを理解できるし、信頼できるようになる。

 だが、私は騎士になれば傭兵を止めることになる。つまりチームを組んでも、三年以内には解散してしまうことになる。

 そんな相手に、チームを組みたいと思う者がいるだろうかということだ。


「引退が二、三年以内のチームに入れてもらうことは可能だろうか?」


 それならば、あと腐れなくチームを離脱できる。もし向こうが解散したいと言ってきても、こちらは快く受け入れられる。


「難しいですね。ベテランのチームは長い年月を一緒に過ごしてきているので、チーム仲もいいですから外部の人間を入れたがりません。せいぜい他のチームと共同で受ける程度だと思います」

「そうか」


 難しいか。となると、チームを組むのは諦めたほうがいいか……しかし高難易度が受けられないのは痛いな。実力を発揮する場面が限られてしまう。

 と、ルレアが何かに気づいたように顎に手を当て、眉を寄せる。


「そうだ、実力の問題もあるんですよね」

「実力?」

「ミラベルさんの実力は、先ほどの試験を見たところ個人であればAクラスであってもおかしくはありません。そのせいで、他の新人傭兵の方とは組ませるのが難しいと思うんです」

「確かにそうだな」


 新人が挑戦する弱い魔物や害獣は、私ならば片手間に片づけられてしまう。同じチームを組むということは、私の要求する依頼のランクに合わせるか、それとも私が初心者の依頼ランクに合わせなければならない。となると、チームに齟齬が出てきてしまう。長続きはしないだろう。

 ここまで問題が多いと、チームを組むのは諦めたほうがいいかもしれないな。個人ランクを早々に上げて、個人の高難易度をこなしつつ集団募集の依頼の隙間に入るぐらいがいいかもしれない。

 私がルレアにそう告げると、ルレアは悔しそうな表情になりながらも納得してくれた。


「分かりました。ではしばらくは個人依頼で評価を稼ぐ方向で行きましょう。ですが、私もチームになれそうな人を探してみます」

「よろしく頼む」


 やや暗雲を残しつつ、私の個人面談は終了するのだった。

 

 昼食を終え、私たちがギルドへと戻ってくると、中が何やら騒がしい。


「何かあったんでしょうか? ちょっと聞いてきますね」


 ルレアが小走りに職員の下へと駆けてゆき、この騒がしさの原因を訪ねる。

 その間に、私も何か分かることが無いかと周囲を見回してみた。

 傭兵の姿は少ない。だが、ギルドの隅に出かける前にはいなかった男たちが集まっていた。

 依頼から戻ってきたのだろうか。それにしては、浮かない表情をしている。

 そして、他の傭兵たちも一様にどこか困惑した表情だ。


「お待たせしました」


 そこにルレアが戻ってくる。


「何か分かったか?」

「ええ、どうも強い魔物が出現したみたいですね。彼らの仲間が足止めしている間に、彼らがギルドに知らせに来たらしいです」

「なるほど」


 仲間が不安だからあの表情か。それに、周囲の傭兵は強い魔物とやらに不安を抱いているのだな。

 この時間にいるような傭兵は、たいていが非戦闘部署の傭兵かまだ遠くに出ることが許されていない新米傭兵たちだ。彼らではその魔物に対処できないのだろう。


「ギルドの対処は?」

「手が空いている傭兵に討伐依頼を出すそうです。ただ、今この町に高ランクの傭兵がいないみたいで」

「出払っているのか。まさか倒せる傭兵がいない?」

「いえ、倒すことならできる傭兵はいます。ただ、その子は魔法使いなのですが運動神経はからっきしなところがありまして援護が必要かと。その援護をどうするかでもめているそうです」


 魔法使いの強力な魔法は発動までに時間がかかるからな。強い魔物ならば、その時間を稼がなければ無防備な状態の魔法使いがやられてしまう。

 それを防ぐために前衛が必要になるが、その前衛が見つからないと。

 周りの傭兵がざわざわしていた理由はそれか。単騎で防ぐことのできる実力者を確保できなければ、次作は集団による足止めだろう。怪我や死のリスクは上がるが、魔物を野放しにするわけにもいかないからな。

 だがこれはちょうどいい。


「ルレア。その依頼こちらに回せないか?」

「ミラベルが行くつもりですか?」

「丁度いいだろう。ギルドに存在と実力をアピールできるし、他の傭兵たちにも私を紹介できる。今後チームを作る作らないに問わず、人脈をある程度作っておくのは決して悪いことではないはずだ」

「確かにミラベルの実力なら――分かりました。依頼を取ってきます」

「頼む」


 ルレアが相談している職員たちのもとに向かい、何かを告げると彼らの視線が一斉にこちらを向いた。

 そしてぞろぞろとカウンターから出てくると、真っ直ぐに私の下へと向かってくる。


「ミラベル君だったね。本当に大丈夫なのか? 魔物はボアフィレアスだという話だぞ」


 ボアフィレアス、確か猪の魔物だったはずだ。強力な脚力から放たれる突進に注意が必要な魔物で、谷などの走ることができ無い場所に誘導して退治するのが定番だったはずだ。

 だが、今回ボアフィレアスが出現しているのは、町から比較的近い森の中。当然谷などなく、走りたい放題なのだろう。確かに実力のある傭兵でなければ対処できないはずだ。


「問題ない。過去に退治の経験もある」


 十二歳のころに、父と騎士団の訓練に付いてボアフィレアスの退治をしたこともあった。

 あの時は騎士団が魔法で足止めをした後に囲んで切り刻んでやったが、やたら表面が硬かったことを覚えている。

 討伐の後で調べてみれば、野生の猪と同じように泥で体に鎧を纏っていたようだ。

 あの鎧を抜くのは一苦労だが、今回の役目は魔法使いの準備ができるまでの足止め。ならば、私一人でも安全マージンを確保しながら十分対処できる。


「では傭兵ギルドはミラベルに討伐依頼を発行する。すでに魔法使いのクーネルエが現地へと向かっている。彼女と合流して、ボアフィレアスの討伐に当たってくれ。報酬などは緊急条項に伴い定額が支払われることとなる。その後、想定被害を算出し追加の成功報酬が支払われることとなる」

「うむ。では行くとする。ルレア、依頼の受注処理を頼むぞ」

「分かりました! お気をつけて!」


 さて、では傭兵としての初仕事をこなすとしよう。

 鮮烈にな――


tips

緊急依頼は、クラスに係わらず担当受付が大丈夫と判断した場合に限り受けることができます。

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