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ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
一章 騎士を目指す少女の一歩
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1-3 実技テスト

 ルレアの後ろについて通路を進んでいく。

 そして、突き当りにある両開きドアを開けると、そこはドーム状の訓練施設が広がっていた。

 我が家の訓練場よりも一回り小さくはあるが、一通りの設備はそろっているのか数名が今もここで訓練を積んでいる。

 剣に槍に弓、比較的槍を持っているものが多いのはまあ当然と言えよう。

 戦いの中でリーチというのは最も大切なものだ。これが長ければ長いほど、戦いを有利に進めることができる。

 最近は騎士の間でも槍を持つ者が多いと父が嘆いていたな。

 騎士の剣は全てを切り裂く最強の刃。リーチが大切なことは認めるが、それだけが全てではない。

 ナイトロード家では、槍への対処法を知るために槍を学ぶが、使うことはまずない。私たちが使うのは、いつだって腰に下げた剣のみである。

 練習施設の中へ入ると、彼らの視線が集中する

 ルレアは視線の中を突っ切ると、壁際に立っていた熊のように巨大な男の下へと駆け寄った。


「オブノさん、お待たせしました。こちらが今回実力テストを受けるミラベル様です」

「ミラベル、十五歳だ。よろしく頼む」

「そうか、俺が実力テストの試験官になるオブノだ。現役の傭兵だが、最近はギルドの手伝いがもっぱらな仕事になってる」


 ふむ、引退間近の傭兵ということか? 見たところなかなか高齢のようだし、体力的に厳しくなれば比較的危険の少ないギルド職員のような仕事をするようになると聞く。

 その頃まで生き残っている傭兵ならば、それなりの貯蓄もあるので安全だが少ない給料の仕事を自然と受けるようになるらしい。

 私は騎士になるまで続けるだけなので、あまり関係ない話だがな。


「話を聞く限りある程度実力はあるみたいだから、テスト形式は実戦だ。あんたは剣が主だと聞いているから、魔法なしの純粋な実力を見せてもらうことにするが問題ないな?」

「ああ、もちろんだ。覇衣も使えるが、こちらも禁止にするか?」


 覇衣は剣術の延長線にあるものだと考える人と、全く別のそれこそ魔法と同じようなものだと考える人がいる。あらかじめ聞いておかないと、後々の問題になりかねないのだ。


「覇衣は問題ない。俺も使えるから、必用となれば使わせてもらうぞ」


 あくまで最初は覇衣なしで戦うと暗に言われてしまった。

 つまり「俺の覇衣が見たければ、実力を示せ」ということか。

 うむ、いいな! 燃えてきたぞ!


「では早速始めようか」


 オブノが槍を構える。

 上段に構えられた槍先は、私の体を狙うように鋭利に輝いている。

 だが、それを見た瞬間、私の心が高鳴るのを感じた。

 戦いの前のこの空気、一瞬の隙から始まる戦いの気配、タマらない!

 愛剣を鞘から解き放ち、中段に構える。少しだけ傾けるのがナイトロード家の構だ。

 お互いに構えるが、オブノから動いてくる気配がない。試験なのだし、こちらから動けということだろう。

 ならば!


「参る!」


 足に力を込めて、一気に踏み込み距離を詰め、切っ先までを腕の一部として振り下ろす!

 ズパンッ!!!!

 愛剣の刃は、何の抵抗もなく下まで振り下ろされた。

 躱されたのか!? ナイトロード流の渾身の一撃を!?

 だが直後、カランッと乾いた音が訓練施設に響く。


「むっ?」

「なっ!?」


 それは、私の足元に落ちた槍の先だった。

 視線を上げれば、オブノの持っていた槍の先が綺麗に斬りとられている。

 これは――私が斬ったのか?

 オブノは構えを解くと、驚いたように目を丸くして槍先を見る。切断面には荒れ目の一つもなく、やすりで研いだかのように滑らかだ。

 うむ、あの断面は間違いなく私が斬ったものだな。ということは、受けるのに失敗したのか? だが、オブノには動いた気配がなかったが。

 まさか!? オブノは私が知覚できる以上の速度で動いたということか!?

 傭兵は凄いな!

 確かにそんな実力を有しているのなら、覇衣を使う必要などないだろう。だが、私とて騎士を目指すもの! 簡単に諦めるつもりはないぞ! 槍が切れたのはおそらく槍自体の品質に問題があったのだろう。ギルドで貸し出している量産品のようだし。

 ならば今度は、覇衣も使って全力で!

 私が全身に覇衣を纏い愛剣と肉体を強化すると、オブノは慌てたように柄だけになった槍を投げ捨てた。

 新しい武器を手に取るのか。今度も槍か? それとも剣か?


「こ、降参だ! 試験終了! 満点合格だ。ルレア、いいよな!?」

「は、はい! ミラベルさんは満点で合格です!」

「む? もう終わりなのか」


 終了と言われてしまえば、終わらないわけにはいかない。騎士は戦う意思のないものと剣を交えない。

 覇衣を解き、愛剣を鞘へとしまう。


「もう点数を着けてしまって大丈夫なのか? まだ一振りしかしていないのだが」

「ああ、大丈夫だ。あんたの力は十分すぎるほど理解できた」

「そうか……」


 ちょっと不満だが仕方がない。せっかく強い相手と戦えると思ったのだが――ハッ!? そういうことか! 彼ほどの実力を持つ傭兵であれば、一振り見ただけで相手の力量を全て把握できるということなのだな!

 私にもまだそんなことはできない。騎士団長やじい様はきっとできるのだろう。団長と良い勝負ができるからといって慢心せず、これからも精進しなければな!


「で、ではミラベル様カウンターへ戻りましょう。登録の手続きを済ませてしまいます」

「うむ」


 今すぐにでもオブノと練習をしてみたいが、今は登録が優先だ。

 ルレアの後について再びカウンターへと戻ると、先ほど気になった少女が待合席にポツンと座っていた。肩をがっくりと落とし、落ち込んでいるようだ。まあ、依頼の失敗ならば仕方がないか。

 だが、人は失敗を経験して学び、そして成長していく存在。

 私も今まで多くの失敗を繰り返してきた。そのたびに反省し、改善点を見つけ、次は失敗しないようにと心がけることで成長してきたのだ。

 頑張れ少女よ。私も頑張るぞ!


「ではミラベル様、手続きの続きを行いますね」

「後は何が残っているのだ?」


 実力テストは受けた。必要書類への記入も終わった。私がやるべきことはほぼ終えていると思うのだが。


「ミラベル様に何かしていただくということはありません。後は傭兵ギルドの所属を証明するプレートができるのを待っていただくだけですね。ただ、その間に当ギルドのシステムやルールを簡単に説明しますので、それを把握していただきます。そして、今後の依頼に関する相談などを行いますので」

「なるほど、そういうことか」


 ギルド員になるのならば、ギルドのシステムは当然理解していなければならないし、ルールも守らなければならない。

 暗記科目は苦手であったが、生活の一部として常に身近にあるものならば、すぐに覚えることもできるだろう。


「ではまずシステムですね。ご存知かもしれませんが、傭兵ギルドの依頼は基本的に紹介制となっております。ギルドに登録していただいた傭兵の方には、一人ずつ担当の職員が付きますので、その方と相談してどのような依頼を受けるのかなどを決めていただきます」


 つまり、担当職員がその傭兵のレベルに合った依頼を持ってきてくれるということだ。これならば、自分の力を過信した事故も少ないし、依頼主もある程度安心して依頼を出すことができる。


「ですが、壁際の掲示板にあるように、常時募集している依頼もございます。有名なものですと、ゴブリンの討伐なのですね。常に増えて困っているもの、見つけ次第対処したほうがいいものなどは、常設依頼として掲示板に張り出してありますので、たまにご確認ください」

「うむ、分かった」

「依頼の内容は多種に渡りますが、ミラベル様が登録した戦闘部署(ファイティパート)では主に戦うことで解決する依頼が提示されます。討伐依頼や護衛依頼、稀に警備依頼などがありますね。討伐依頼の場合は、討伐対象の一部を持ち帰っていただくことで依頼内容達成の証明ができます。護衛依頼や警備依頼の場合は、依頼主の方に依頼完了証に署名を頂くことで完了と証明されます」

「もし依頼主が不当に署名をしないなどの行為に出た場合は?」


 依頼が失敗した場合、依頼主に料金が返却される仕組みになっている。それを悪用して、依頼が達成しているのにも関わらず、難癖をつけて依頼失敗にするような輩も少なからずいるはずだが。


「基本的に依頼主はこちらで選定していますので、そういったことは無いと思っていただいて大丈夫です。もしそんなことをすれば、依頼主も今後ギルドに依頼が出せなくなりますから。ただ、もし遭遇してしまった場合は、運が悪かったと思うしかありませんね。以降同じことが無いように、その依頼人がギルドのブラックリストに載るだけです」

「そうか」


 まあ、さすがにその保証までギルドで請け負うことはないか。


「それと、ギルドでは色々な物の買い取りも行っていますので、何かお売りしたいものがあれば、気軽にお声掛けください」

「何でもいいのか? 剣や肉でも?」

「はい、ギルドは各商店と提携しており、ここで買い取ったものをそれぞれのお店に卸すこともしておりますので。ですが、必ずギルドに持ってきていただく必要はありません。個別で商店などに持ち込むのも傭兵の皆様の自由となっております」

「なるほど」


 ギルドが中間業者として色々な物の入荷情報などを管理しているのだろう。

 傭兵としても、売りたいものを一つ一つ欲しい人がいる場所に持っていくのは面倒だ。そして、商売人も欲しいものを持っている傭兵を見つけるのは大変だろう。それを軽減できるのは良いシステムだと思う。

 その分買い取りの売値は下がってしまうのかもしれないが、それが嫌ならば自分で買い取ってくれる商人を探せばいいだけの話だ。


「では次にギルドのルールです。基本的にはこの国の法律を遵守していれば、ルールに背くことはありません」

「それだけ?」

「はい。大変言いにくいのですが、傭兵の方は記憶が苦手な方が多いので、あまり細かく決めても覚えられないんです。なので、問題が起きたら、過去の前例からその場で解決策を探るのがベストという判断になりました」

「な、なるほど」


 まあ、納得できる部分も多い。

 なにせ、父に付いて見学させてもらった騎士団の者たちの中にも、筋肉至上主義のようなものたちが少なからずいたからな。父がよく脳筋どもがと言って呆れていた。

 確かに彼らに細かいルールを覚えさせるのは大変そうだ。傭兵ギルドは所属人数も騎士団より遥かに多いし、現実的には不可能に近いのだろう。


「それと、ギルドから提示するルールは一つです」

「どんなものだ?」

「私闘は禁止です。傭兵の方に暴れられると、こちらの対処が大変なので」

「それもそうだな。ん? 私は先ほど試験で戦ったが、私闘でなければいいのか?」

「はい、それなら大丈夫ですよ。あらかじめこちらに伝えていただければ、見届け人も用意いたしますので。でも、だからと言ってむやみやたらに決闘を挑むようなことはダメです。怪我で仕事ができる人を減らされるのは困りますので」

「当然だな」


 見届け人のいる戦いであっても、戦いである以上怪我をする。骨を折ったり、臓器を傷つけたり。そうなれば、治るまで仕事はできないのだから、当然ギルドの依頼も滞ることになる。

 ギルドとしては決闘も極力避けたいわけか。

 まあ、私もそんなむやみやたらと喧嘩を売る気はないし、あまり気にしなくてもいいだろう。

 そんなことを思っていると、ルレアの後ろに別の受付嬢が近づいてきた。


「ルレアさん、プレートできたわよ」

「あ、ありがとうございます。ミラベル様、こちらがミラベル様のギルド員としての証になるプレートです」


 ルレアが差し出してきたのは、一枚の銅板。そこに私の名前や所属、ギルド評価などが掘られている。


「ギルド評価とは?」

「依頼の達成度などで判断されるギルド員としての実力評価です。今はCになっていると思いますが、依頼によってはB以上やA以上ではないと受けられないものもありますので」

「なるほど。依頼をこなしていけば上がるのか?」

「担当の者が、この人なら大丈夫だと判断したときに、今日のテストのようなものをしていただきます。そこで合格した場合にギルド評価は上がります」

「そうか」


 おそらく、その評価よりも高いものと戦わされるのだろう。そこで、どの程度実力が育ったかを確認し、問題がなさそうならば評価を上げてより難しい依頼にも挑戦させるわけか。


「ならば私も多くの依頼をこなして、早く評価を上げなければな」


 私の最終目標は騎士だが、騎士になるためには実力を騎士団の者たちに見せつけなければならない。それには、私が有名になることが一番の近道だろう。


「そうですね、応援しています」

「ありがとう。それで、私の担当は誰になるのだ?」

「プレートの一番下に担当者の名前があるはずですが」


 言われた通りに、プレートの一番下。ちょうど私が指で隠してしまっていた部分を見てみる。

 そこには、担当職員ルレアと掘られていた。


「どうやら私の担当は君になったようだ」


 すると、ルレアは少し嬉しそうに微笑む。


「そうでしたか。大抵ギルドへの登録を担当した者がそのまま担当職員になるので、たぶんそうなるとは思っていましたが。では――」


 ルレアはコホンとわざとらしく一つ咳を吐くと、こちらに向き直り姿勢を正す。


「ミラベル様、本日よりミラベル様のサポートをさせていただくことになりますルレアと申します。気軽にルレアとお呼びください。改めてよろしくお願い致します」

「うむ。ではルレア、こちらこそよろしく頼む」


 私たちはカウンター越しに、がっしりと握手を交わすのだった。


tips

ギルドクラスはD.C.B.Aの四種。ミラベルは実力を見せたのでCからとなりました。

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