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ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
二章 国境なき騎士団と涙の宝石
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2-14 依頼完了報告

 仮眠を終え、起きた私たちは約束通り三人で遊びに出かけることにした。

 だがその前にやることがあった。ギルドへの依頼完了報告だ。

 誘拐事件の実行部隊であり裏組織であったドレッドノータスの幹部と代表の殺害。これだけやれば、依頼主としても満足だろう。騎士団も同時に動いたのだ。その情報は既に町中に拡散しているし、依頼主も知っているはず。

 ということで、ギルドへとやってくると、昼過ぎだというのに中は人に溢れていた。

 だが受付が混雑しているわけではないようだ。どちらかといえば喫茶スペースが混雑している。全員情報収集のために集まっているのか?

 そんな光景を横目に受付へと向かう。ギルドに入ってきた私たちに気付き、ルレアとヒューエが同じ窓口で待っていた。


「こんにちわミラベル、それにクーネルエさん、それにトアちゃんも」

「二人とも久しぶりね」

「こんにちわ、久しぶりです」

「ん」

「うむ、依頼を終わらせてきたぞ」

「こっちでも把握しているわ。というか、その詳しい情報を集めるために、ギルドがこんな状態よ」


 なるほど、それでこれだけの騒ぎになっていたのか。ウェーダ宝飾店やドレッドノータス私設警備団はギルドともなかなか関係が深かったようだし、関わったことのある傭兵も多いのだろう。

 だがだいたいの事情はまだ警備団が秘匿しているはずだ。ウェーダの尋問も完全には終わったわけではないだろうし、捕まえたドレッドノータスの団員からも尋問しなければならない。それらをまとめた報告書が上に上がるまでは秘匿が続くだろうな。


「警備団が秘匿しているなら私たちもあまり話さない方がいいだろう。とりあえず以来の完了報告だけ済ませたい」

「分かりました。分類が討伐依頼であり、証明できるものや証人がいませんので確認に時間が掛かりますのでご了承ください」


 前の緊急依頼の時は複数の証人がいたからすぐに報酬が出たが、普通は確認に時間がかかり三日から四日は報酬の受け取りまでに待つものだ。

 緊急依頼後に受けた通常の討伐依頼もみんなそうだった。


「うむ、とりあえず警備団の公表待ちということだな」

「そうですね、それが一番確実な情報でしょうし。とりあえず依頼人には完了したと伝えておきます」

「頼む」


 これで少しでも依頼主の気が晴れてくれればいいが。


「ではこれで依頼は完了としましょう。お疲れさまでした」


 いつもの定型文で締めくくられ、私たちも気持ちを切り替える。


「それで、これからどうしますか? 何か簡単な依頼でも見繕いましょうか?」


 時間的には近隣の依頼を受けて帰ってくるぐらいでも問題ない。だが私たちにはこの後大切な予定がある。


「いや、この後は三人で遊びに行く予定なのだ」

「あら羨ましい」

「ヒューエ先輩は昨日休みだったじゃないですか」

「他人の休暇は羨ましいものよ」

「もう」


 ルレアが頬を膨らませ、それをヒューエが軽くつつく。

 真面目なルレアも、先輩のヒューエには形無しということか。別にヒューエがサボっているというわけでもないから、強く出られないということもあるだろうが。

 と、私は足元でもぞもぞとしているトアに気付く。どうやら早く遊びに行きたいようで、しきりにギルドの外を見ていた。なんだかんだ言ってもまだまだトアも子供ということだろう。


「では私たちは行くぞ」

「あ、はい。そうだ、これでしばらく落ち着くんでしたら、クラスアップテスト用の依頼を見繕っても大丈夫ですか?」


 そうか、それもあったな。しばらくは大きな依頼を受けるつもりはないが、個人的に少し不味いかもしれないな。


「私は一週間ほど猶予が欲しい」

「あ、月のものですか」


 ルレアはその期間を聞いてすぐに気づいたようだ。私はさほど重くない方だが、やはり期間中は腰が重くなるし感覚も鈍くなる。依頼を受けるには適さない期間だ。


「そういえばクーは月のものは大丈夫なのか? ここ数カ月で話を聞かないが」


 まさかまだ初めてが来ていないということはないだろう。とすると、どこかで必ず月のものが来ているはずなのだが、そういう話をクーから聞いたことが無い。


「それなら最初の月にミラベルに合わせましたから、私も来週ですね」

「合わせる? そんなことができるのか?」

「あれ? ミラは知りませんでしたか? ギルドでも調整剤は販売されていますよ?」

「なに?」


 ルレアを見ると、きょとんとした表情で頷いた。ヒューエも当然とばかりにうなずいている。

 そんなものが販売されていたのか。

 詳しく話を聞くと、長期依頼などでどうしても月のものを挟んでしまう場合に使用する薬があるようだ。基本的には先延ばし用の薬と短縮用の薬の二種。短縮用ならば予定日の二週間前から飲めるが、延長用は二十代でも一週間までと決められているらしい。それ以上は体への負荷で危険なのだとか。

 まあ本来出してしまうものを体内にとどめるわけだからな、延長はなるべくしない方がいいに決まっている。

 そしてクーは最初の月に短縮剤を使い私の月のものに合わせてくれていたようだ。

 だから私が依頼を止めている間にクーも月のものを終えていたらしい。


「そうだったのか、気を使わせてしまっていたのだな」

「傭兵としては私が先輩ですからね。当然のことです」


 胸を張るクーはどこか誇らしげだ。


「では一週間ほど空けてその後ということでよろしいですか?」

「そのように頼む」

「分かりました。ではそのように見繕っておきます」

「うむ、終わればギルドに一度顔を出すが、それまでにもし何かあれば、トアに伝えてくれ」


 トアならば明日からも毎日ギルドに顔を出すからな。


「そうですね、トアちゃんにお願いします」

「ん、まかせて」 

「では後は頼んだぞ」

「はい、ではまた」


 それぞれに挨拶を交わし、私たちは思いっきり羽を伸ばすため町へと繰り出すのだった。


 遊ぶ前には腹ごしらえ。やってきたのはトエラにいくつか点在している屋台街の一つ。ギルドから近いため割と傭兵が多く、だが私たちはあまり来たことが無い屋台街だ。


「さて、何にするか」

「珍しいものがいいですねぇ」

「お肉」


 トアは肉を所望か。いいだろう今日は派手に行こう。

 三人で屋台街を回って、美味しそうなものを適当に購入していく。

 肉団子にチーズパスタ、炙りベーコンに腸詰、凝ったものではシチューなどをテーブルにずらっと並べ、私たちはその光景に「おー」と声を零す。

 肉料理がずらっと並ぶと壮観だな。屋敷では、品種は多くとも常に一品ずつ順番に出てきていたから、このようにテーブルに並ぶのは見たことが無かった。


「ではいただこう」

「はい!」

「ん!」


 肉々しい料理の数々を、次々にほうばっていく。

 肉団子は柔らかく、かかっている餡が甘酸っぱくて美味い。ベーコンは噛むたびに肉汁が噴出し、シチューも軟らかく煮こまれた肉がゴロゴロと入っている。肉団子とは違う柔らかさに舌鼓を打っていると屋台街の入り口から私たちの方に向かって真っ直ぐに近づいてくる気配があった。

 屋台街に来てそんな動きをする人などいない。それに視線が真っ直ぐに私にぶつかっていることからすぐに気づいた。

 あまりにも堂々としているため敵には思えない。私は少しの警戒心を残しつつ側までやってきた少女に尋ねる。


「私に何か用かな?」

「えっと、ミラベルさん――ですか?」

「うむ、いかにも私がミラベルだ」

「あの――これ」


 差し出してきたのは封書。中身は厚みからして用紙数枚といったところか。


「これは?」

「ダイア様から。好きに使ってって。ちゃんと、ちゃんと渡したからね!」


 少女は念押しするように言うと、駆けだして屋台街から出て行ってしまった。おそらくあの子もダイアが救った子供の一人なのだろう。あの子のようにダイアに助けられた子供たちが町中に散らばり情報収集を行っているのか。それに子供や恋人を救われた者たちもダイアに協力するだろう。それがダイアの情報量になっているということか。

 私は手元に残された封書に目を落とす。


「ダイアからか。いったい何が」


 クーとトアも中身が気になるのか食事を止め私の手元を注視している。

 封書を開け、中身を取り出すとそれは数枚の資料だった。

 これは――


「ドレッドノータスとつながりのあった犯罪組織か」

「それってかなり重要な資料なんじゃ」

「うむ。昨夜ドレッドノータスの拠点は爆破された。騎士団や警備団はこの資料を手に入れられなかったはずだ」


 私が資料を確認していくと、間に挟まっていたサイズの違う紙がテーブルに落ちる。

 それは手紙だ。


 仮面の傭兵ミラベルさまへ

 今回いろいろと協力してくれたお礼に、この資料をあげるわ。

 これで貸し借りは無しよ。

 けどこの資料は騎士団にも渡したわ。あなたたちがどう使うかは分からないけど、もし潰すのなら騎士団と競争になるわね。せいぜい上手く使いなさい。

 じゃ、頑張ってね。

 涙の怪盗ダイアより愛を込めて

 

 追伸 魔女っ娘の下着、年の割にはかなり派手ね。私はもう少し清楚な方が好きだわ


「ふっ、なるほど」

「どうしたんですか?」

「どうやらダイアからのお礼らしい。使い方は好きにすればいいとのことだ」


 私はクーに手紙を渡す。クーはそれを受け取りながら喜び、そして顔を真っ赤にした。追伸の部分を読んだな。


「私、好きで派手な下着を履いてるわけじゃないです!」

「そうだな」


 下着や服は女性ものだと値段がかさむ。クーは魔法を使うたびに衣類が消滅してしまうので、下着類もなるべく自作しているのだ。

 しかしクーの裁縫はそこまで上手いというわけではない。だから簡単で安く作れる布面積が小さくサイドを紐で結ぶタイプを愛用しているのだ。ダイアにもそれを見られたのだろう。

 クーは恥ずかしさを紛らわすようにわざとらしく席を一つして話を戻す。


「こほん! ともかく、これを利用できれば、国の上層部も私たちを無視できなくなりますね!」

「うむ、だがこの情報は騎士団にも渡してあるらしい」

「え、それじゃあ」

「競争――いや、おそらく騎士団は私たちの行動を予想して騎士を配置してくるはずだ。この情報を使うならば、待ち伏せる騎士団を掻い潜って敵を討つ必要がある。それに明確な証拠も見つける必要があるから、難易度はかなり上がるぞ」


 今回の襲撃には、ウェーダの証言があり実行部隊が実際に私たちに襲い掛かってきていたから即座に対応できた。だがこれらの情報は証人もいなければ証拠もない。ただここに書かれていただけであり、裏が取れなければ突入は危険だ。

 もしこれに偽の情報が含まれており、そこに突撃してしまったら、私たちは無実の団体を攻撃した犯罪者となってしまう。

 情報収集の時点から騎士団を出し抜きつつ行動するのはかなり難しいだろう。

 というか、不可能じゃないだろうか? さすがにこれだけの情報があれば、騎士団も本格的に動いているだろうし。


「それじゃあこの情報をもとに動くのは危険ですね。騎士団を目指している私たちが騎士団と敵対するような立場になるのはまずい気がしますし」

「うむ、せっかくだがこの情報は――いや、待て」

「どうしました?」


 この情報をそのまま使えば敵対することになる。だが、この情報をそのまま使わなければ。


「――なるほど、上手く使えというのはそういうことか!」


 これはダイアが蒔いたフェイクだ。いや、情報は事実かもしれないが、それ故に父さまは私たちがこの情報を利用して動くと考えるだろう。

 つまり、騎士もこれらの情報をもとに動くようになる。私たちは騎士が動いたところで手が足りなくなった部分に割り込み成果を上げればいいというわけだ。


「どういうことですか?」


 ダイアがこの情報を送ってきた意味に気付いていないクーに、私の考えを説明する。


「なるほど、騎士として働けるところを証明するんですね」

「うむ、ただ活躍して名を上げても、協調性が無ければ弾かれてしまう。騎士と争ってばかりいてもマイナスだろう。騎士の手が足りないところを助けることで好印象を植え付けるのだ」

「いいですね! 私たちの訓練にもなりますし、一石二鳥です」

「うむ。いい情報を貰った。有効に活用させてもらおうではないか」

「はい」

「おー」


 舞い込んできた幸運に、並んだ料理もさらに美味く感じるな!


tips

女傭兵の事情 傭兵を長くやると調整剤を多用することになり、子宮に負荷がかかるため妊娠率は低下する。そのため、子供が欲しい傭兵は二十代前半には引退し、結婚を済ませて村や町などに定住する。

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