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ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
二章 国境なき騎士団と涙の宝石
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2-11 報告と襲撃準備

 飲み物を持って小会議室へとやってきた私たちは、そこで一時間ほどの時をのんびりと過ごしていた。具体的には、ソファーにクーが座り、その膝に私が頭を乗せているわけだ。

 つまり、膝枕をしてもらっている。ミニスカートから覗く太ももに頬を当てると、なんともしっとりとした感触が伝わってくる。むぅ、女として実に羨ましい。


「横になると一気に眠気が襲ってくるな」


 昨夜は戦闘も行っていたし、クーの太もものひんやりとした触感に瞼が重くなる。


「少し寝ても大丈夫なのでは? 上への報告もあるでしょうし、もう少し掛かると思いますし」

「ふむ、だがクーも疲れているだろう? 私だけ寝るのは気が引ける」


 クーはダイアを捕まえた張本人だ。一度はダイアの毒針を受けながらも、消滅魔法のデメリットを利用し、刺さった針とそこに付着した麻痺毒を全て消し去ったのだ。

 体内の毒までは消し去れないようだが、即効性の毒は解毒も早い。毒針自体が刺さっていなければ、体内の毒もすぐになくなってしまう。

 おかげで、ダイアが予想するよりもずっと早く行動でき、それがダイアの捕獲に役立ったわけだな。

 その後も、あの警備員たちと戦闘で私たちのサポートをしてくれていた。昨夜だけで魔力もだいぶ使ったはずだ。


「まあ少し眠たいですが、この光景もなかなか乙なものなので」

「ふむ? よく意味が分からんが」

「ふふ、気にしないでください」


 私を押さえるように、クーが私の頭を撫でる。止めてくれ、本当に寝てしまいそうだ。

 と、階段を上ってくる音が聞こえる。音は四人か。一つは他のものより軽い。子供の足音だな。ギルドで子供と言えばトアだろう。ならば、他の足音はルレアとその上司当たりか。もう一人は――ヒューエか?


「どうやら寝ている時間はないようだな」


 膝から顔を上げ、ソファーに座りなおす。クーは若干残念そうにしながらも、スカートを直し姿勢を正した。

 同時にコンコンと扉がノックされる。


「どうぞ」

「失礼します。お待たせしました」


 声を掛ければルレアを先頭に四人が入ってくる。

 ルレアとトアは知っている。他の二人は初めて見る顔だ。初老のタキシードが似合いそうな男性と、眼鏡をかけた地味な印象の女性。女性はその腕に書類を抱えていた。


「ミラベル、クーネルエさん、紹介しますね。こちら傭兵ギルド本部副代表のトマス・レーベンさんです」

「初めまして。トマスだ。ルレアから簡単な事情は聴いている。今回は面倒なことに巻き込まれてしまったようだな」

「よろしく頼む。こちらとしては面倒ではあるがチャンスだとも思っている。気にしないでくれ」

「初めまして。よろしくお願いします」


 順番に握手を交わす。ふむ、手を握った瞬間分かった。この男、中肉中世で紳士な印象を受けるが、かなりやんちゃをしてきているな。

 手に残った筋肉の隆起や皮の硬さが剣を振ってきたもののそれだ。


「そしてこちらが私の秘書をしてくれているセラだ」

「よろしくお願いします」


 こちらとは軽く挨拶だけ交わし、私たちはソファーへと再び座る。

 対面にトマス殿とセラが座り、ルレアは横の一人掛けの椅子に付く。


「さて、まずは何から話していくべきか」


 トマス殿が悩まし気に口を開く。確かに報告すること、頼みたいこと、確認しなければならないことが山積みだ。


「最初から一つずつ解決していきましょう。遠回りでも、それが一番分かりやすいですし」

「そうだな。とりあえずダイアの予告状を受けたところからか?」


 それ以前は普通の警備任務と何ら変わらなかったからな。


「では頼む。時系列で話してもらえれば、セラが整理する」

「うむ、了解した」


 私はクーと共にダイアの予告状を受けた夜のことから話し始める。

 予告文からダイアの狙いをアースドロップと想定し、犯行日を新月の夜と定めた。その日に合わせ風見鶏にダイアの情報を依頼、侵入予想経路を割り出して警備を開始。その後、娼婦に化けていた騎士の手伝い(ティエリス)を私がダイアと勘違いして追跡、戦闘中に騎士の仲間であると判明する。

 その間にあったことはクーが話していく。

 クー側では私が追跡した直後にダイアの襲撃があったようだ。どこかで見張っていたということだろう。最初にクーを襲撃、吹き矢で麻痺毒を打ち込まれたクーが行動不能になる。その後、ダイアが店内に侵入。中の見張り二人を倒して地下へと入る。その間にクーは自身の魔法(消滅魔法)で麻痺毒を対処、体が動くようになったためダイアを追跡地下室で戦闘になり、捕獲に成功したと。

 ここで私が騎士の手伝い(ティエリス)と共に合流。騎士の手伝いが最近の誘拐事件でこの辺りが怪しいことを話していると、ダイアが誘拐事件の有力な情報があると言い出した。

 三人でダイアを監視しながら情報を受け、ウェーダ宝飾店の地下から隠し通路へ。その先で監禁されている女性や子供たちを発見する。ウェーダが警備員たちと共に入り口をふさぎ戦闘。全員を倒し、ウェーダを確保することに成功。

 そしてその後だけ少し脚色した。ダイアは戦闘中に捕まっていた人たちを助け、そのまま逃走。私たちは騎士の手伝いに頼まれ、ウェーダの確保を優先したという形にした。

 こうしなければ、私たちとダイアが繋がっていることになってしまうからな。ダイアも違法奴隷の開放など善行を行っているが、同時に貴族の館から宝石の窃盗なども行っている。どのような理由があろうと犯罪者であることに変わりはないのだ。


「セラ、どうだ?」

「だいたいの把握は完了しました。後は必要な個所を補えば問題ないかと」

「そうか。ではその補てんをしていくとしよう」


 セラは今回の事件を大きく三つに分けた。

 一つは私たちの警備依頼、もう一つはダイアの事件、そして最後にウェーダの事件である。

 そしてそれぞれに必要な情報を確認する。

 まず警備依頼に関してだ。


「今日までの依頼内容に関しては、ウェーダ宝飾店からの報告書では問題ないものだと判断できる。よって昨日までの警備依頼の料金は日割り分を支払おう。他に何か聞きたいことは?」

「今回の依頼の成功判断だ。近いうちにクラスアップ試験を受けられるかもしれないと言われているが、この依頼が失敗と判断されればギルドからの評価は書類上下がるはずだろう?」


 評価は職員の主観による差異をなくすため明確に点数によって決められているそうだ。だが、この場では逆に職員的には成功と判断できる内容でも、書類用は失敗、または注意扱いになってしまうと点数としては減点されてしまうはずだ。


「それに関しては成功扱いで登録しておこう。ルレア、そのように頼む」

「分かりました」

「ふむ、それ以外は特に思い当たらないが」


 横を見ると、クーも顔を横に振った。

 それを見てトマス殿は一つ頷く。


「では今回の警備依頼に関してはこれで終了ということでいいだろう。ダイアの事件に関しては、ギルドは関与の余地がない。商隊の護衛中に盗賊に襲われたものと同じように考えてもらえればいい」


 まあそうだろうな。そもそもダイアとギルドは全く接点がないのだから。

 だがウェーダ宝飾店に関してはかなり問題がある。


「最後の違法奴隷のことに関してだが――正直対処に困っている。まだ情報がなく、ギルドとしての方針を述べることができないのだ。今使いのものを警備隊へ確認に走らせているから、判断はそれ待ちということになるだろう。だが、できることなら君たちからも知りうる情報を欲しい」

「ふむ、あまり知っていることは多くないが、それでも良ければ」


 ウェーダから全てを聞いたわけではない。そもそも彼も、違法奴隷売買の補助程度であって、実際に売買を主導しているのは別の――ドレッドノータスが行っているのだから。


「ウェーダから聞いた情報だと、違法奴隷に手を出したのはギルドへの依頼をする半年ほど前だ。ギルドへの依頼は、信頼を得るためにやっていたらしい」

「なるほど、私たちは上手く使われていたわけだな」

「そうなるな」


 ほかにも、警備している期間が、奴隷たちを仕入れ出荷先を決めるまでの期間だったことも考えると、ウェーダは隠し場所によっぽどの自信があったのだろう。

 まあ、私たちもダイアの助言が無ければ完全に見逃すところだったし、あながち間違いではない。

 ギルドの傭兵が来る前日に奴隷たちを通気口から地下へと移動させ、通路を使って檻へと入れる。昼の間に顧客が商品を物色し、夜の間に隣の家の専用出口から運び出していたようだ。

 あの通気口の大きさは、人を滑り入れさせるためのものだったと。

 私たちはそのあたりの情報を全て伝える。と言っても、私たちでは何時頃どのようにしてウェーダとドレッドノータスが繋がったのかは知らないため、教えられることもほとんどなかったが。

 一通りを聞き終えたトマスは、悩むように眉をしかめる。


「大まかに事の把握はできた。協力感謝する」

「なに、私たちは傭兵ギルドに所属しているのだ。協力するのは当然のことだろう」

「そういってもらえると助かるよ。お礼に、情報量を後ほどルレアから振り込ませておく」

「それは助かる」


 おそらく、今回の依頼の金額が全額支給される様な値段になるのだろう。

 これが私たちへの迷惑料と言ったところか。


「では私たちはこれで失礼する。警備団側との話し合いもあるだろうからな。全く、責任のなすりつけ合いが始まると思うと頭が痛いよ」


 そうだろうな。領主からしてみれば、自分のひざ元で違法行為を長年に渡って行われてきたわけだ。それに知らずとも協力していたとなれば、何かしら責任を吹っかけてくる可能性もあるのか。

 ギルドのように大きな組織ならば、さほどの痛みにはならないだろうが、無駄に金をとられるのも嫌だろう。


「権力を持つがゆえの責任だな。所属傭兵の一人として応援しているよ」

「頑張ってください」

「ふふ、美少女二人に応援されては頑張らざるを得ないな。では失礼する」


 トマスがセラを連れて部屋を出ていく。

 扉が閉ざされた後「セラ、尻を抓るな」などと聞こえてきたのはきっと気のせいだろう。

 ルレアが小さく苦笑したのち、席を対面に移動して一枚の書類を出してきた。


「さて、ではこちらの話も手短に終わらせちゃいましょう。ミラベルの望んでいた依頼です」


 書類は襲撃依頼書だった。内容を確認してみると、誘拐犯への報復が依頼となっている。

 詳細を確認してみると、行方不明になった娘が奴隷になっていることを、情報を集めていた商人の父親が知ったそうだ。何とか取り返そうとしたが、違法奴隷を買うような男が父親の話に取り合うはずもなく、違法奴隷として人権の保障がないその娘は数カ月後に殺されてしまったらしい。

 逆上した父親はその男の家を襲撃。男を殺してしまったが、同時に父親も護衛によって殺されたとか。この依頼は、父親の妻であり、娘の母から出されたもの。同じような悲劇を繰り返したくないと、旦那の遺産や残っていた財産の全てを使ってこの依頼を出したようだ。


「なるほど」

「悲しい事件ですね」


 違法奴隷商によって家族が丸々狂わされたわけだ。怒りも相当深いものだろう。

 そしてこの依頼は、私たちにとっても最良のものである。


「この依頼を受けさせてもらいたいが、大丈夫なのか? 襲撃依頼となれば、クラスもB以上になるのだろう?」


 私たちは次のクラスに手を掛けているとはいえまだCクラスだ。

 違法奴隷商への襲撃依頼となれば敵にも相応の用心棒がいるだろうし、裏の社会にも通じている可能性が高い。となると、危険度は間違いなくBクラス以上、もし相手組織がドレッドノータスだと分かっていればAクラスになってもおかしくはない依頼だ。

 その分報酬も一千万エルナと破格だが、とてもCクラスの私たちに受理許可が出るとは思えない。


「ふふ、それなら大丈夫です! すでに上層部への根回しは済んでますから! というか、トマスさんに頼んで、この依頼だけは受理できるようにしてもらいました。ミラベルの実力はクローヴィスさんと問題を起こした件ですでに上層部も把握していますから」

「怪我の功名という奴か」

「あ、だからって派手にギルドで暴れていいってわけではないですよ! ギルドの規約はちゃんと守ってください」

「分かっているさ。ではこの依頼の受注処理を頼む」


 あの時のルレアは本当に怖かったからな。ギルドで馬鹿なことは二度としないと誓ったほどだ。


「分かりました。そうだ、警備依頼の料金は、謝礼と一緒に振り込みで大丈夫でしたか? 国境なき騎士団の口座に振り込んでおくつもりですけど」

「うむ、それで頼む」

「ではそのように処理しておきますね。他に何かありますか?」

「私はない」

「私も大丈夫です」

「では終了としましょう。そろそろ貸し出し時間も終わりますから」


 三人で部屋を出ると、廊下で待っていたトアが腰に抱き着いてきた。


「ん、お疲れさま――です」

「うむ。トアもお疲れ様だ。私たちはこれで帰るが、トアはしっかりと学ぶのだぞ?」

「はい!」


 元気のいい挨拶だ。これなら大丈夫だな。


「ではトアを頼むぞ」

「ええ、お任せください。ミラベル達はゆっくり休んでくださいね」

「ああ、そうさせてもらおう」

「では。トアちゃん、またね」


 私たちは二人に見送られギルドを後にする。

 さあ寝るぞ! しっかりと体を休ませねば、新たな戦いに付いていけなくなるからな!


   ◇


 イチエと共にしっかりと睡眠をとった私は、目を覚ますと早速行動に出る。

 とりあえず横で疲れて寝ているイチエのおでこにキスを落とし、そっとベッドから起き上がり服を着た。涙の怪盗ダイアとしての姿ではなく、世に潜むための目立たない服装である。

 やることは武器の新調とドレッドノータスの周辺の調査だ。


「じゃあ行ってきます」


 隠れ家を出て、武器屋へと向かう。傭兵の町だけあってトエラには武器屋や防具屋など、他の町ではセットになっていそうな店でも専門店が多い。

 私は通りを歩きながら、目に留まった店へと入る。

 鉄と皮と油のにおい。それは武器屋ならば当然のもの。


「いらっしゃい。どのような武器をお探しかな?」


 レジにいたおじさんは、私相手に丁寧に話しかけてくる。今の私はそこらへんにいる平民と何ら変わりない服装だ。にも関わらず対応が丁寧なのは、多くある武器屋が懸命に競争しているからだろう。頑固おやじで客を選べるような店は、よほどの物を扱っているか、はたまたそこしか店がない時だけだ。


「ナイフを数本と吹き矢があれば欲しいんだけど」

「ナイフは左の棚に見本がある。好きに手に取って試してみると良い。気に入ったのがあれば、受注で数も用意できる。吹き矢は、ちょっと待ってくれ。奥に何個かあったはずだ」

「お願い」


 店員が奥へと入っていき、私は棚に並べられたナイフを見ていく。

 とりあえず大きすぎる物はダメ。私の手でも簡単に投げられるものがいい。

 左の棚から右へと進むと、ナイフの大きさが徐々に小さくなっていく。私でも投げられそうな物が出てきたところで、一本ずつ手に取って握り心地を確かめる。手にしっくりこなければ、投げた時に勢いを籠められないし、何より的に当てにくい。


「どんな感じがいいかなぁ」


 投げるとき、持つとき、逆手、収納時、いろいろな持ち方で一つずつ試していく。

 いつの間にか店員は戻ってきていたが、声を掛けてくる気配はない。おそらく私の邪魔をしないためだろう。

 その配慮に甘えて、物色を続ける。

 やがてナイフのサイズが食器ナイフよりもやや大きいところに差し掛かったところで、それはあった。

 赤い柄、根本は緩やかな曲線を描き、刃先は鋭くとがっている。両刃であるため、戦端は柄の直線状だ。

 握りやすい太さに、柄に付いたわずかな膨らみがフィット感を増している。


「気に入りましたか?」

「ええ、このナイフ凄く良いわ。在庫だとどれぐらいあるかしら?」

「それなら十ほどは。もっと欲しいのでしたら時間はいただきますがお作りできますよ」


 十か。まあ、襲撃時に持ち込める数はそれぐらいが限界だろうし、沢山はいらないかな。あんまり時間もないしね。


「じゃあ在庫分だけ全部もらうわ。それと、それが吹き矢?」


 カウンターに並べられた筒。全部で五本あるそれが全て吹き矢のようだ。


「はい、家にあるのはこれが全てです。予備や替えもありません」

「まあ、吹き矢なんて売れないしね」

「ははは」


 笑ってごまかしたようだが図星ね。まあ、私も自分以外に吹き矢なんて使ってる人見たことないけど。

 そもそも傭兵なら、吹き矢なんてコスパも悪くて、威力も弱いものなんか使わずに、弓と剣を持ち歩くしね。


「見せてもらうわね」

「どうぞ」


 五本はほぼ同じ長さ。三十といったところか。

 一つずつ手に取ってみると、一つだけ他のより重いのがわかる。


「これは?」

「ああ、鉄心のものですね。吹き矢の内部構造は鉄製なんですよ。外装を木彫りで覆ってあるだけなんです。鉄心なので気温や湿気で歪みにくいですし、いざとなれば剣を受け止めることも」


 そんなことを言って、吹き矢で剣を受け止めるジェスチャーをする店員。

 確かにそれは便利かもしれない。あの時は魔法で破壊されてしまったが、剣を受け止める可能性もある。木の吹き矢では、吹き矢ごと両断される。

 相手は警備員だが、場合によっては騎士と戦う可能性もある。なるべく逃げる方向で努力するが、突破が必要になったときには役に立ってくれるかもしれない。


「いいわね、これを貰うわ」

「ありがとうございます。針はどうしますか?」

「お願い」


 これまでの針だと、羽の大きさが違ってしっかり飛ばないだろうし、この吹き矢用の羽をしっかりと用意しておかないといけない。


「分かりました、針はサービスしておきますよ」

「ふふ、ありがと」


 ナイフと吹き矢、そして針を包んでもらい、ウェーダ宝飾店で手に入れたエルナを使い支払う。一括の支払いに、店側もホクホクだ。


「じゃあまたね」

「ええ、今後とも御贔屓に」


 買ったものを手に、私はドレッドノータスの拠点へと向かう。ただの通行人を装い、まずは正面を一度通過。建物は一般的な五階建て。そのすべてがドレッドノータスのオフィスのようだ。窓の数からして、最上階は二部屋。代表室と応接室かしらね? 四階から下は全て同じ構造。幹部はここにいる可能性が高い。

 周辺は家に囲まれ、死角は多そう。けどちょっと怪しい動きの人が何人かいるわね。あの部屋の窓から外を見てる女性に、屋根の修理をしている男性、後は――ああ、あの浮浪者。

 監視の騎士かしら? 浮浪者のくせにガタイ良すぎ。騎士の専門は戦闘ってことね。

 大通りを進んだところで裏道へ。そこから壁を使って屋上に上る。


「上はけっこう厳重ね」


 屋上には何人かの騎士が堂々と監視を行っている。これは私に対する警告ね。

 そのままドレッドノータスの周囲を回ってみるも、監視が緩そうなところはない。

 うーん、これは面倒くさそう。けどここを抜けて中に入れば紛れられるかなぁ。

 窓から見えるドレッドノータスの部屋の中には結構多くの人がいる。私が突入してパニックを起こせば、騎士も簡単に剣は抜けないだろうし、幹部を殺す時間はありそう。

 っと、巡回の騎士が来たわね。

 気配を消して物陰に潜む。騎士は周辺を確認した後、そのまま過ぎていった。


「後の確認は日が落ちてからがいいわね。ふふ、大変なお仕事になりそう。けど頑張らなくっちゃ」


 私は暗闇に隠れたまま、ひっそりとその場から離れていくのだった。

 私みたいな子はこれ以上増えちゃいけない。せめて救われてほしい。だから私は無茶でも無謀でもなんだってやってやる。それが私の覚悟だから。


tips

今回の奴隷の仕入れでは、まだ誰も運び出されていなかったため、ミラベルは隣の家が隠れ家だと気づけませんでした。また、普段から人の出入りがあるため気配だけでは奴隷の出荷があっても気づけません。

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