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ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
一章 騎士を目指す少女の一歩
16/86

1-14 誘拐

「そうだ。腰を低く、重心を下げて、体全体を使って振るんだ」

「は、はひ!」


 完全に息の上がった状態ながら、日が傾くころにはクーの素振りも見られる程度にはなってきた。

 流石にこのまま狼と戦わせるなんてことはできないが、最低でも案山子相手であれば有効な攻撃ができるだろう。

 まあ、もっと体力を付けなければ生き物に当てるのは不可能だろうが。


「とりあえず今日はここまでにしておこう。狼は私が狩っておくから、休んでいるといい」

「はぃ、はひぃ、ありがとうございます」


 ギルドを出た後、そのまま武器屋に直行しクーに合うサイズの短剣を購入した。クーは剥ぎ取り用の大型ナイフで十分だと言っていたが、私からすれば剣のナイフは別物だ。

 剥ぎ取りナイフは刃が分厚く頑丈で、骨なんかもたたき割ることができる。だが、短剣は肉を切り、血管を裂くことに特化した武器だ。使い方が全く違うのである。

 短剣をナイフのように振れば、すぐに刃零れを起こすし最悪割れてしまうだろう。だが、正しく使えば、短剣はナイフをはるかに超える殺傷能力を有するのだ。

 一剣士として、正しい刃物の扱い方を教えるのは、私の義務!

 と、いうことで牧場の近くまでやってきた私たちは、日が傾くまでのおおよそ半日をクーの素振りに費やしたのである。

 その分の収穫は、まあまあと言った感じか。自他ともに認める運動音痴なだけあって、午前中の素振りは見るに堪えないものだった。だが、疲労が蓄積し力の抜き方を体が勝手に行うようになってからは、意外といい素振りも見え始めた。

 それを指摘し、徹底的に反復練習させた結果、今のクーが出来上がったわけである。


「水だ。少しずつ飲むんだぞ。一気に飲むと咽る」

「ありがとうございます」


 草原に寝っ転がるクーの手を引っ張って上体を起こし、水筒を手渡す。

 クーは忠告通りにちゃんと少しずつ口に含み、水を飲んでいった。


「ふぅ、生き返りますね」

「もう少し体力もつけないと、この先辛いぞ? 体力作りは運動音痴とは関係ないし」

「そうですね。ミラについていくには、もう少し体力が無いと辛そうです」

「では明日からランニングを開始しよう。町の外で見る朝日は気持ちいぞ!」


 実家にいるときは、毎朝日の出前に起きて町の外で昇る朝日を眺めていたものだ。


「それもいいかもしれませんね。けど、明日動けるかはわかりませんが」

「あー」


 これだけでバテてしまっているとなると、確かに明日は筋肉痛で動けなくなっているかもしれないな。


「まあ帰ったらマッサージでもしよう」

「お願いします」

「では少し行って害獣の駆除をしてくる」

「はい、行ってらっしゃい」


 その場にクーを残して、私は牧場の中へと進む。

 柵の入り口に併設された小屋の扉を叩くと、中から初老の男性が出てきた。


「では今から害獣の駆除を始める。動物たちはもうしまってもらえたかな?」

「とっくに小屋に移したよ。こんな遅くから始める傭兵は初めてじゃ」

「ハハハ、仕事はしっかりするさ」


 まあ当然だろうな。


「期待しとるよ」


 明らかに期待していない声で応援された。


「狩った害獣はどうするればいい? こちらで処理するか、それともそっちに渡すか?」

「儂が全て引き取る。狼なんぞ、ギルドに売っても二束三文にもならんぞ。こっちで処理して、皮は売るし、肉は食う。骨は、肥料じゃな」

「では狩った獲物はここに持ってこよう」

「戻ってくるときは牧場の外を歩いてきとくれ。中で血の匂いが残ると家畜が怖がる」

「了解した」


 牧場の中へと足を進めると、早速遠くに動物の気配を感じた。こちらの様子を窺っているのか、積極的に動いている様子はない。

 牧場主の話では、小屋にいれた家畜の子供を狙って来るらしい。この牧場の奥に広がる森に、狼の群れがいくつかあるのだとか。

 できることなら、群れごと全て狩ってしまいたいのだが、そうすると森の中のバランスが崩れ厄介な害獣や最悪魔物が牧場を襲いかねない。なので、狼たちを間引く程度にしてバランスを崩さないようにしているらしい。

 来るものは殺すが、来ないなら放置。そのスタンスが人間と動物の間でちょうどいいらしい。

 ということで、私も向かってくる狼は殺す。逃げる狼は追わないように言いつけられている。


「さて、どう来るかな」


 家畜小屋の近くへと移動し、狼たちの出方を見る。

 ふむ、私を囲むように移動してきているな。一斉に襲い掛かるつもりか? いつも傭兵たちを相手しているだけあって、人間への対処の仕方を心得ているらしい。


「だが」


 最小限の覇衣を纏わせながら、剣を抜く。

 瞬間、飛び出してきた一匹の首が切断され、体がその場に崩れ落ちる。


「私の敵ではないな!」


 それを合図に、囲んでいた狼たちが一斉に飛び出し襲い掛かってくる。

 逃げる場所はない。そもそも逃げるという発想がない。

 多勢に無勢、だが愛剣がともにあるのならば、狼程度いくらいても同じこと!

 唸り声を上げながら飛び掛かってくる一匹を殴り飛ばし、波状で次々に来る狼たちを斬り、蹴り、躱し、そして殺していく。


「今回は私的に目標を定めたのだ! それはな!」


 背中にとびかかってきた狼をすれ違いざまに切り殺し、刀身に付着した血を振り払う。


「血を一滴も浴びないことだよ!」


 死体の山を作りながら、私は剣を振るう。こいつらが敵わない相手だと悟るまで――


   ◇


「ミラベル達、遅いですね」


 既に十八の鐘は鳴りやみ、外も暗くなっている。

 ただの害獣駆除ならば、とっくに戻ってきていてもおかしくない時間。だが、その依頼を受けたミラベルのクーネルエの二人は帰ってきていない。

 実力も申し分ない二人に何かあったとは考えられないが、やはり不安になるのも確かだ。

 だが、ルレアは隣に座って文字の書き取りをする少女のために、その不安を心の底に押し隠す。


「ルレアちゃん、お腹すきませんか?」

「空いた……ました」


 おかしな敬語に笑いをこらえつつ、ルレアは愛用のショルダーポーチを引き出しから取り出す。

 トアには文字を教えながら、敬語の使い方も同時に教えていた。これまでは敬語なしでも問題なかったかもしれないが、今後はチームの事務員としてギルドや先輩傭兵ともかかわることが多くなる。余計な不和を生まないためにも、敬語は絶対に必要だ。

 ミラベルにもできることなら敬語をしっかりと使えるようになってもらいたいところだが、あれは使えないというよりも貴族の生まれ故に使う場所が限られ過ぎていたことが原因な気もしていた。なので、現在は様子見をしている。


「じゃあごはんでも食べに行きましょう。ミラベル達ももう少しかかるかもしれませんし」

「分かった……ました」

「分かりました、でしょ?」

「分かりました」

「良くできました」


 ふわふわの髪を撫で、一緒にギルドを出る。

 トアはルレアが考えていたよりも優秀だった。

 敬語こそなかなか上手く使えるようにならないが、文字は一日だけで大半を覚え始めている。

 道案内の仕事のために町で色々な文字を絵として覚えていたことが要因かもしれないが、文字を教えると「あのお店の看板がこれ?」などと具体例で尋ねてくるのだ。おかげでルレアとしても文字のついでに言葉を教えることができて、かなり捗っている。

 これならば、近いうちに事務次官としての仕事もできるようになるのではないかとささやかな期待をしつつ、二人は手を繋いで大通りを歩く。

 向かったのは屋台街の一つだ。既に十八の鐘がなっていることもあり、屋台街は大賑わいだ。

 人が溢れかえり、熱と活気に満ちている。


「トアちゃんは何食べます?」

「食べたことないものがいい――です」

「じゃああんまり見ないもの食べてみようか」


 トアの希望もあり、二人は定番とは少しずれたものを選び注文することにした。

 ルレアは魚の干物の煮魚を。トアはワンタンで具材を巻いた揚げ物をを選んだ。他にもいくつか選び、二人で分けながら食べる。当たり外れが激しいが、当たればくせになるような料理もいくつかあり、それはそれで楽しめたと言っていいだろう。

 そして鐘半分程度で食べ終わり、来た道を戻る。


「あの貝のお店はすぐ潰れるでしょうね」

「じゃりじゃりした」

「あれは料理じゃなくて砂でしたからね」


 一番外れだった、砂抜きしていない貝の網焼きの感想を話しつつ道を歩いていると、ルレアはふと視線を感じた。

 路地からだ。

 ルレアもギルドの職員として多少の訓練は受けている。素人程度ならばあしらえる程度の実力はあるのだ。その勘が何かを感じた。


「トアちゃん、手を」


 左手でトアの手を握りつつ、タイトスカートの裏に隠したナイフを取り出す。


「ルレアさん?」

「誰かいる」

「気づいたか。けど無意味だ! お前ら行くぞ!」


 ルレアが警戒した瞬間、路地から男たちが一斉に襲い掛かってくる。


「多い……けど!」


 全部で八人。服装から浮浪者だと分かる。なら退ける程度はできる。

 そう判断しナイフを構え、一人目の男に向かって中途なく振るう。


「ぐあっ、この!」


 しかし、傷は浅い。斬られた男は怒りに任せて拳を突き出してくる。それを躱し、腹部のナイフを突き立てた。


「これなら!」

「今だ!」


 刺された男の後ろから飛び出してきたもう一人が、ルレアとトアの間に体をねじ込んでくる。突き飛ばされた二人の手が離れ、トアが地面に倒れた。


「トアちゃん!」

「ガキを捕まえろ!」

「トアちゃんが狙い! ギエラスの手下なの!?」


 自分が狙われていると分かったトアが、立ち上がり逃げ出そうとするが数人に囲まれ簡単に捕まってしまう。

 捕まれた腕を振り払おうにも、子供の力ではどうしようもない。


「させるもんですか!」

「なめんな!」


 トアを捕まえた時点で撤退しようとする男たちを追ってルレアが走る。しかし、その間に剣を持った男が割り込んできた。


「あなた! ――ベレロダね!?」


 それはギエラスに次いで注意人物としてギルドから捜索依頼が出ている男だった。ギエラスの元チームメンバーであり、同じように犯罪などでギルドから追放されてる。

 現在は町の外で盗賊業をしていると思われていた男が目の前にいるのだ。


「あんたはギルドの担当受付だろ。ミラベルってやつにこれを渡しな」


 ベレロダは剣を構えたまま、片手でポケットから封筒を取り出し足元に投げつける。そしてゆっくりと後退し路地へと消えていった。

 べレロダもBクラス程度の実力を有する男だ。ルレアでは到底太刀打ちできない。追いかけたところで、返り討ちにあってお終いだろう。


「トアちゃん」


 誰もいなくなった通りで、自身の無力さを痛感し涙が溢れる。

 しかし今は泣いている場合ではない。

 足元に投げられた封筒を受け取り、中を確かめるとそれはミラベル宛の手紙だった。

 簡単に言えば、挑戦状である。


「トアちゃん、すぐに助けるから。だから無事でいて」


 ルレアは必死に祈りながら、全力でギルドへと走るのだった。


   ◇


「お疲れ様。じゃあこれが成功報酬の一万二千エルナよ」

「む? 報酬は一万エルナではなかったか?」


 依頼を受けた時には、ルレアからそう説明されていたが。


「二千エルナは追加報酬。依頼主が、いい働きをしてくれたから、追加出払っておいてほしいって完了報告書に書いてあったわ」

「そうだったのか。あの老人も気のいいことだ」

「そんなことないわよ。あの方、めったに追加報酬なんて出さないもの。いったいどれだけ倒したの?」

「三十だな。狼ばかりで歯ごたえはなかったが」


 次々に襲い掛かってくる狼を切り殺していくと、後方にいた一匹が吠え、それに合わせて全ての狼が撤退していった。あれがリーダー各だったのだろう。

 そして倒した狼の数を数えてみればちょうど三十だった。おそらくそれがあのリーダーが攻撃を諦める数字なのだろう。

 一定の被害で最初から引くことを決めている良いリーダーだ。


「二人で三十……また凄い数倒したのね。普通の新人だと単独なら五匹、チームでも十五匹とかよ」

「あ、今回私は討伐に参加していないので、ミラ一人ですよ」

「え? クーはなにしてたの?」

「依頼を行う前に、クーに短剣の使い方を教えていたのだ。その疲労で動けなくなっていた」

「明日の筋肉痛が怖いですよ」

「依頼前に仲間を疲労で潰すなんて……前代未聞ね」

「流石に新人用の依頼でもないかぎりこんなことはしないさ」


 一人でも安全に達成できると分かっているから時間を有効に使ったまでのこと。


「まあいいわ。とりあえずお疲れ様。この後はどうするの? ここで待つ?」


 ヒューエの今日の受付は私たちが最後らしく、窓口を閉めて帰り支度をしながら尋ねてくる。


「さてどうしたものか」

「今から屋台街に行ってもすれ違っちゃいそうですしね」

「ではしばらく待とう。幸い、喫茶コーナーは遅くまでやっているみたいだしな」

「あそこは職員も使うからねぇ。二十の鐘が鳴るまでやっているわよ」


 二十の鐘と言えば、ギルドが施錠される時間だ。それ以降は受付はもちろんすべての業務が明日の六の鐘まで停止することになる。

 つまり、ギルドが締まるまでずっと営業を続けているということだ。


「それは凄いな」

「あそこのコーヒーにどれだけの職員が助けられているか。じゃあ私は帰るわ。また明日ね」

「はい、ヒューエさん。おやすみなさい」


 ヒューエが帰ろうとしたその時、勢いよくギルドの扉が開かれる。

 人も少なくなったこの時間に、それだけの音を立てれば当然注目が集まった。

 そこにいたのは、息を切らしたルレアだ。


「おお、ルレアちょうどいいところに。トアは」

「ミラベル!」


 私が声を掛けると、その言葉すら遮ってルレアが私の懐に飛び込んでくる。


「ミラベル、ごめんなさい。トアちゃんが、私守れなくって……ごめんなさい」

「む、何があった」


 涙を流しながら謝るルレアに、異常事態が起きているのだと気づく。

 帰ろうとしていたヒューエもすぐに戻ってきて、ルレアの背中を撫でながら落ち着くように促した。


「トアちゃんが攫われたの。ごはんの帰りに浮浪者の集団に襲われて。トアちゃんを捕まえたら一目散に逃げだして。追いかけようとしたんだけど、ベレロダが現れて妨害されて……」

「トアが攫われた!?」

「そんな!?」

「ベレロダ――指名手配中のギエラスの部下じゃない!」


 トアを攫うやつなど、心当たりは一人しかいない。あの男だ。まだ懲りていなかったのか。

 だが、指名手配犯が一緒に動いているということは、まだ何かあるな。


「これを、ミラベルに渡せって」


 ルレアが持っていた封筒を差し出してくる。

 握りしめていたのだろう皺くちゃになった封筒の中から手紙を取り出し、確認する。

 内容はこうだ。


 ガキは預かった。助けたければ俺のところに来い。

 タイムリミットは、次の日が昇るまでだ。それまでに俺のところに来れなきゃ、このガキは殺す。

 お前が俺のことを知らないらしいからな。俺がどんな人間か教えてやるよ。


 差出人は書かれていない。だが、こいつが誰なのかは分かる。


「ギエラスか」


 どうやらこれは、私への挑戦状らしい。

 あの逃げた男がギエラスへと私が知らないと言ったことを知らせたのだろう。

 まさか、そんな恥ずかしいことをできるとは思わなかった。あの男の羞恥心の無さに驚くところだ。

 だが、まさかこの私が保護するトアを攫うとは――

 騎士が守るものに手を出す。ギエラスにはそれが、どういう意味か理解していないらしいな。


「ミラ」

「読め」


 持っていた手紙をクーへと渡す。

 それを読んだクーは、血の気の引いた表情で口元を押さえている。


「ヒューエ、風見鶏に連絡を取れるか?」

「風見鶏傭兵団? 場所は知ってるからすぐに取れるわよ」

「なら取り次いでほしい。私からの依頼だ。いい値払うから、ギエラスの居場所を特定しろと」

「やる気なのね」

「ギエラスは騎士の守るものに手を出した。その報いは受けさせる」

「そう。ルレア、仕事するわよ!」


 突然ヒューエが私に抱き着いていたルレアを引き離し、視線をぶつけ合わせる。


「私たちのやることは!」

「傭兵のサポートです」


 ルレアは涙を拭いながら答えた。


「なら今やることは!」

「風見鶏と連絡を取ります!」

「よろしい」


 二人がカウンターへと駆け込んでいく。そんな時に、再びギルドの扉が開いた。


「見つけましたよ、ミラベル嬢! 今日こそ一緒に戻っていただきますよ!」

「ソーマか。ちょうどいいところに来た」


 ちょうどいい。ソーマたちにもひと働きしてもらうとしよう。

 付けていた仮面を外し、素顔を曝す。


「ミラベル嬢? ひっ!?」

「どうしたソーマ」


 視線を向ければ、ソーマが一歩下がる。


「み、ミラベル嬢、覇衣が漏れてます。周囲に威圧感が」


 周囲を改めて見回してみると、ギルドに残っていた少ない冒険者たちが、壁際まで後退し剣に手を掛けている。どうやら怒りのあまり覇衣が出てきてしまっているらしい。

 だが――


「すまんな。今は抑えられそうにない。ソーマ、どうせ父さまのことだ。すでに増援が到着しているのだろう」

「え、ええ。今日の昼に到着しましたが」

「全員使ってスラムを包囲しろ。掃除をする」

「何があったのですか」

「私が保護した子供が攫われた」


 ソーマも騎士ならば分かるだろう。今のこの私の怒りが。


「止められると思うなよ」

「その状態のミラベル嬢を止められるとは思えませんよ。分かりました、スラムの包囲はしましょう。ですが後日改めて私たちの説得を聞いていただきますよ」

「好きにしろ」

「では後ほど」


 ソーマが駆け足にギルドを出て行った。

 私は振り返り、クーに問いかける。


「クーは人を殺したことがあるか? ないならここで待機していてくれ」


 おそらくスラムに行けば殺人を見ることになる。ギエラス部下が黙ってみているとは思えない。路地に血が溢れることになるだろう。

 そこで動けなくなるようならば、ここで待機していてもらった方がいい。

 しかしクーは顔を横に振った。


「私だって傭兵です。女性だからと襲われたことだってあります。当然、何人も消滅させてきましたよ。今更悪人に躊躇することはありません。それに待機なんてありえません。トアちゃんは、私たちで助けるんですから」

「そうか」

「ミラベル、風見鶏と連絡が取れたわ。依頼を受けてくれるそうよ」

「分かった。では行こうか。国境なき騎士団初の大仕事だ」


 夜明けまで? ふん、トアをそこまで待たせるつもりはない。

 日が変わるまでに全て片づける。


tips

ギルドの仕事は朝六の鐘から二十の鐘まで。依頼受付時間は六の鐘から十五の鐘。それ以降は、完了報告のみ可能。受付嬢の仕事は意外とブラックである。

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