1
よろしくお願いします。
「ルー兄さま、待ってください!」
私は重い木剣を引き釣りながら、必死に兄ルーカスの後を追いかける。
ルー兄さまは私よりも二つ上の兄で、私が今持っている木剣も、ルー兄さまのお下がりだ。それでも私には重く感じるのだから、男の人の力はずるいと思う。
「もう、ミラに合わせてたら遅れちゃうよ。ほら、剣持ってあげるから急ぐよ」
若干面倒くさそうにしながらも、そういって私の木剣を持ってくれるルー兄さまは優しいから好きだ。
二人で広い庭を駆け足に進み、その一角に作られた練習場へとやってきました。
そこは、芝が剥がされ土が踏み固められた場所で、アスレチックや町中を再現した建物が設置してある。普通の家ならまず用意できないものなのだが、私の家はじい様が必要だとゴネて作ってしまったそうだ。なかなか無茶苦茶だな。幼い私でも、それぐらいは分かるぞ!
練習場の中へと入ると、そこには一人の男の人が待っていた。噂のじい様だ。
もう五十過ぎだというのに、ムキムキでガチガチ。前背中に上らせてもったことがあるが、頭のてっぺんがつるつるだった。
ルー兄さまは、じい様がいるのを見つけると慌てて駆け寄り頭を下げる。
「師匠、遅くなりました」
「ほほ、まだ時間になっとらんからええよ」
じい様は時間に厳しい人ですが、普段はとっても優しい人だ。なので、私はじい様が大好きである。
「じい様、こんにちは!」
「はい、ミラちゃん、こんにちはじゃ」
大きな声で手を掲げながら挨拶すれば、じい様はにこにことしながら私の手をタッチしてくれた。このノリの良さが父さまには欠けていると思う。
「じゃあ、少し早いが訓練を始めるかのう。ルーカス、基礎の素振りからじゃ」
「はい!」
ルー兄さまが言われるままに腰から自分の木剣を抜き素振りを始めた。私も真似して素振りをするが木剣が重すぎてふらつき、そのままコテンと尻もちをついてしまった。
「うう……」
上手くいかないことに涙が出てくる。だが泣かないぞ! 私は名誉あるナイトロード家の長女なのだ。簡単に涙を見せてはいけないのだ!
「ほほ、ミラちゃんは儂と一緒に準備運動しような」
「うぅ、じい様ありがとうございます」
涙があふれだすのを我慢していると、じい様が手を差し出してきてくれた。その手を取って立ち上がり、服に付いた土を払う。
「ほれ、しっかりと握って、力いっぱい振るんじゃ」
「はい!」
じい様が後ろから私の手を包むように木剣を握ってくれた。
そして、言われるままに剣を振る。
じい様の力を借りた素振りは、ザクリと音を立て剣先を地面へと突き立てた。
「じい様! これでよいのですか!」
「そうじゃ。ミラベルは上手いのう。剣の才能があるやもしれんぞ」
「では私はじい様みたいな立派な騎士になります!」
じい様は、騎士団というところの偉い人なのだそうだ。だから、剣の才能がある私も騎士団に入って、じい様を支えよう!
「ほほほ、期待しておこうかのう」
じい様が嬉しそうに笑う。それを見て、私も嬉しくなり笑顔になるのだった。
◇
当時ミラベル六歳。少女と祖父の他愛のない会話のはずだった。
だが、時は流れ九年の月日が経つと、その他愛ないはずの約束は、ナイトロード家にとって大きな問題へと発展していくのだった。
プロローグ以降は、一話五千から七千文字程度で更新していきます。