第八話「聞き込み開始ですか?」
「おうおうおうおうおう!なんだなんだなんだい?俺様の屋敷に珍しく客が来たかと思えば、お偉い騎士様じゃねえかよお!」
屋敷の扉を叩くと、唾を飛ばしながらドレッドヘアの男が、下品に嗤いながら出て来た。
かなりゴツい体をしたおっさんでピンクの髪の毛と濃い褐色肌がギャングっぽさを際立てている。
「ええ。あなたの万倍偉い騎士です。アレイスという男について、聞き込みに来ました。」
さらっと毒を吐くネム。
「聞き込みだあ?アレイスって最近巷で噂の『真紅の鬼』ってやつか?だったら知らねえぜ。俺ぁ全く関係無えからなあ」
下品な笑顔を崩さず、その男は言い返して来た。
「大体、かの有名な黒騎士様が聞き込みってよお、そんなに最近の騎士団は人手不足なのかあ〜〜?もしくは、暇なのかよ?ええ?」
ほほう、煽るねえ、このひと
「ふふふ。僕達が暇だったら、この国は平和ってことになってとても良いことなんだけど、そういう訳じゃないんだ。情けない事に、青騎士程度じゃ話にならない殺人鬼と聞いてね。僕ら黒騎士が奴の相手をする事になったんだ。」
「グハハハ!ちげえねえ。青騎士なんて、奴に何人も殺されているっつー話だもんなあ。ま、俺は何にも知らねえから、聞き込みなら別を当たってくれ」
俺とイリーニはネムの少し後で腕を組んで待機していた。
「関係が、無い・・・ですか・・・。面白い冗談ですね。」
ネムの言葉に、男の眉毛がピクリと動いたのを、俺は見過ごさなかった。
イリーニが一歩前へ出て、口を開いた。
「質問1です。アレイスはどこですか?ジェトスさん」
「あ?どこって、俺ぁ無関係だって」
「質問2です。エデック・・・いえ、プリトスという男を殺せとアレイスに依頼したのはあなたですね?」
イリーニは男にコピナ鉱石を見せつけた。こちらからはよく見えないが、何かの映像を男に見せているみたいだ。
その映像を見て、ジェトスとイリーニに呼ばれた男の表情が固まった。
「さて、大人しく質問に答えてくれれば、この場で君をどうこうしようとは考えていない。お互い、自分の身は可愛いものだろう?ジェトスさん」
「て、てめえ・・・」
「ご協力・・・していただけますね?」
ネムが、一周まわって恐ろしく見えるほど爽やかな笑顔で言った。
「入りな。この時間は俺しかいねえよ。お前にゃ、解るだろ?」
「痛み入りますよ。ジェトスさん」
ジェトスは俺達にわざと聞こえるように舌打ちをして、屋敷に入っていった。
屋敷の中はお世辞にも掃除が行き届いているとは言えない様だった。灰皿には大量の吸殻が溢れんばかりに放置してあり、空いた酒瓶が至る所に転がっていた。
「THEダメオヤジの家みたいだな」
「紛うことなき、ダメオヤジですよ」
俺の戯言を、肯定するイリーニ。前を歩いているジェトスがはんっと、不愉快そうに鼻で笑った。
強がってはいるが、明らかに最初会った時のジェトスの余裕はどこか彼方に消え去っていた。